イベント東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催中の「国際物流総合展」で8日、パネルディスカッション「自動運転の進化による物流の未来 ゲームチェンジ、そして新たなる価値」が行われた。「2024年問題」を経てなお業界の関心を集め続ける自動運転技術が、今後の物流現場にどのような構造変化をもたらすのか。最前線を走るスタートアップのリーダーたちによって白熱した議論が交わされた。
コーディネーターはフレームワークス会長の秋葉淳一氏。パネリストには、T2技術開発本部部長の一ノ瀬直氏、ロボトラック代表取締役CEOの羽賀雄介氏、チューリングCEOの山本一成氏、Hacobu社長CEOの佐々木太郎氏が登壇した。

▲コーディネーターを務めたフレームワークス会長の秋葉淳一氏
セッションは、登壇各社の事業概要と現在地の共有から幕を開けた。同じ自動運転領域でありながら、各社のアプローチは明確に分かれている。
T2は、自ら運送事業者として荷物を運ぶ事業モデルを採る。既にレベル2の自動運転トラックを用いて関東−関西間の商用運行を行っており、西濃運輸や日本通運など大手物流企業を含むパートナーとともに35万キロ以上の走行実績を積み重ねてきた。一ノ瀬氏は将来像を「高速道路で無人運転が実現されれば、関東・関西間を1日1往復することが可能となり、単純計算で輸送力は倍増する。私たちは自ら運送会社となって、パートナー企業の皆さんと一緒にアセットを活用していきたいと考えている」と語った。同社は2027年以降のレベル4(高速道路無人運転)達成を目指し、神奈川や兵庫など本州3か所に有人・無人の切替拠点を既に整備している。

▲T2技術開発本部部長の一ノ瀬直氏
対照的なのがロボトラックだ。同社は物流事業自体は一切行わず、既存のトラックに後付けする自動運転システムを物流会社へ提供するBtoBソフトウエア事業者としての立ち位置を貫く。羽賀氏は「我々はあくまでシステムを開発し、物流会社に使ってもらうビジネス。インターチェンジを降りた近郊の大型倉庫までを結ぶため、高速道路だけでなく一部の一般道も含めた無人運転化を2028年度から後付けモデルとして提供したい」と語り、トラクタートレーラー向けの内製システム開発に強みを持つ姿勢を強調した。

▲ロボトラック代表取締役CEOの羽賀雄介氏
一方、乗用車の完全自動運転を目指すチューリングの山本氏は、異色のバックグラウンドを持つ。「We overtake Tesla」をミッションに掲げ、LiDARや高精度地図(HDマップ)に頼らず、カメラ画像とエンドツーエンド(E2E)のニューラルネットワーク一本で車両を制御する独自のAI技術を開発している。山本氏は「都内を中心に走行データを収集・学習しており、雨滴が激しくつく土砂降りの中や、複雑な路上駐車の回避、他車とのネゴシエーション(譲り合い)もルールベースではなくAIが自律的に判断して走れるようになってきている」と、急速に進む技術水準の手応えを示した。

▲チューリングCEOの山本一成氏
これらハード・運行領域に対し、物流DXプラットフォームを提供するHacobuの佐々木氏は、自動運転普及の「前提条件」について警鐘を鳴らす。「幹線輸送が自動化されても、現場の情報フローが紙の伝票のままでは、納品先でサインをもらうために人が乗っていなければならない。出荷側も受け取り側もデジタル化され、クラウドで情報が連携して初めて自動運転トラックが真価を発揮する」

▲Hacobu社長の佐々木太郎氏
ディスカッションの第一の焦点となったのは、「2030年」という節目に業界がどう変化しているかという見通しだ。
普及規模について、ロボトラックの羽賀氏は「2029年頃から大企業が自社のオペレーションに無人トラックをどう組み込むか検証を始め、2030年時点では世の中を走る無人トラックは100台前後になるのではないか。そこから長距離幹線の機械への置き換えが本格的にキックオフされる」と予測。T2の一ノ瀬氏も「2030年手前には複数の自動運転トラックが普及期に入り、規模としては100−500台程度になっていくのではないか」と同調した。
自動運転の実現に向けたハードルとして議論される「法規制」について、パネリストの見解は極めて現実的だった。一般道走行の可否について問われた羽賀氏は、「法律上、高速道路は良くて一般道はダメという明確な規定はない。国連基準などにある『人間同等以下の安全性』をデータで証明できれば、走行ルートに一般道を含めて国交省に申請することは可能」と説明。
チューリングの山本氏もこれに賛意を表し、「走行の可否は許認可の問題だと思いがちだが、ほとんどすべてが技術の問題。ウェイモなど先行例もあるが、どこでも手放しで走れる技術水準に達すれば認可はついてくる。2030年までにテスラやウェイモ相当のレベルに到達することは普通に達成可能だと考えている」と述べた。
さらに議論は「損益分岐点」へと深まった。佐々木氏が「10年前に倉庫内ロボティクスが盛り上がったが、結局『人がやった方が安い』領域が残り、すべての倉庫には普及しなかった。自動運転も有人トラックより安くならなければボトルネックになる」と指摘すると、各氏から実態に即した意見が続いた。

一ノ瀬氏は「車両自体のコストに加え、遠隔監視員1人で何台のトラックをカバーできるかという比率がコスト計算の鍵になる」と述べ、運用体制の重要性を説いた。
羽賀氏は人件費高騰に触れ、「この10年間は人件費が上がらず機械化のインセンティブが弱かったが、その前提はいよいよ覆りつつある。『人がやった方が安い』という論理は2040年頃には完全に通用しなくなる」と力説。
山本氏も「人が介在する範囲が残るほど費用対効果は急速に悪化するため、一般道を含めて『どこでも走れる』水準まで技術を高め切ることが最大の損益分岐点対策になる」と語った。
セッション後半、コーディネーターの秋葉氏は、自動運転やフィジカルAIが普及する2040年を見据え、業界の構造変化について踏み込んだ問いを投げかけた。
秋葉氏は「機械化が進めば資本の論理により大手へ集約される一方で、地方には独自のネットワークが残り、緑ナンバー(営業用トラック)の枠組みも形を変えて存続するのではないか」と提起。さらに、上場荷主企業がROICの観点から自社で車両資産を持たずアウトソースを選ぶ流れや、荷主が自動運転車両を資産として保有し運行のみを委託する「上下分離」の可能性、幹線輸送の自動化とラストマイルのきめ細かな対応との役割分担など、多角的な視点から将来像を示した。
また、将来予測の大きな変数として浮上したのが「ヒューマノイド」(人型ロボット)の存在だ。佐々木氏が「ヒューマノイドが実用化されれば、人間向けに作られた既存の倉庫設備や紙の伝票といった物理インターフェースをそのまま使い続けられる。施設側を機械専用に大改修する必要があるのか、それとも人型ロボットが間を埋めるのかは大きな分岐点だ」と問題提起すると、チューリングの山本氏も「2030—35年の過渡期に、トラックの改造が進まない中でヒューマノイドが運転席に乗り込み、運転や荷下ろしをこなす世界線は社内でも真面目に議論している」と明かし、会場の関心を集めた。
パネルディスカッションの締めくくりとして、2030年の変革期に向けて今何をすべきか、会場の物流関係者に向けた具体的なアクションが提示された。
強調されたのは「デジタル化への即時着手」の緊急性だ。Hacobuの佐々木氏は次のように警鐘を鳴らした。「現場を見渡して『昭和から変わっていない』と感じる部分があるなら、意思決定は今すぐ行うべき。AIも自動運転も、現場のデータがデジタル化されていなければ、物流システム全体への接続すらできない。今からデータを蓄積しておかなければ、2030年に技術が本格実装された瞬間、先行企業と絶望的な差が開いてしまう」
また、自社の輸送実態を見直すアプローチとして、長距離幹線輸送の無人化が2030年から順次始まっていくことを見据え、自社の運行ルートの中で「どの区間、どの荷物、どの時間帯であれば自動運転トラックに振り分けることができるのか」をあらかじめ棚卸ししておくことが、来るべき自動化の波を乗りこなす第一歩となる。
秋葉氏は「2030年、そして2040年に向けて、技術と社会の大きな波が確実にやってくる。その時に慌てるのではなく、今日からどのような準備を進めるかが次の世代の物流インフラを形作る」と総括し、90分間にわたる密度の濃いセッションを締めくくった。
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