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欧州への代替ルート、世界銀行が描くインフラ・制度統合の全貌

中央回廊の貨物輸送量、2040年に3倍へ拡大

2026年11月5日 (木)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「中央回廊カスピ海ルート実証、3社を選定」(7月2日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

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話題ロシアによるウクライナ侵攻や地政学的リスクの高まりに伴い、シベリア鉄道やスエズ運河に代わる「第3の輸送ルート」として、中国から中央アジア、カスピ海、南コーカサスを経て欧州に至る「中央回廊」(カスピ海ルート)への注目度が急上昇している。

世界銀行欧州・中央アジア地域の運輸担当プラクティス・マネージャーShomik Mehndiratta(ショミック・メンディラッタ)氏、インフラストラクチャー担当シニア・エコノミストMuneeza Alam(ムニーザ・アラム)氏、運輸担当シニア・スペシャリストLuis Blancas(ルイス・ブランカス)氏の3人は本誌インタビューに応じ、インフラ整備と制度統合を進めることで2040年までに同ルートの貨物輸送量を3倍以上に拡大できるとの見通しを示した。

250億ドルのボトルネック解消投資、全体の75パーセントに着手済み

中央回廊は鉄道、道路、港湾、海上輸送が複雑に組み合わさった複合輸送ルートだ。鉄道網が骨格をなすものの、単線区間や電化の遅れ、軌間の違いによる積み替え作業、国境での滞留が課題となっている。さらにカスピ海では水位低下や悪天候、適正船型の不足がボトルネックとして横たわる。

メンディラッタ氏は「最も緊急度の高いボトルネック解消に250億ドル(3兆7500億円)が必要だ。その75パーセントはすでに事業中か近く開始される予定だ」と解説した。カザフスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、トルコの鉄道整備やカスピ海・黒海の港湾機能強化、コンテナ対応力の向上が急速に進む。

▲世界銀行欧州・中央アジア地域の運輸担当プラクティス・マネージャーShomik Mehndiratta氏(出所:世界銀行)

高度に分断された制度と書類のデジタル統合

ハード面の整備と並び重要な課題が、ソフト面における貿易円滑化とデジタル化だ。ブランカス氏は「中央回廊は9か国、異なる法制度、税関、鉄道事業者、港湾、船会社、国境管理機関を通過する。1回の輸送で4〜5回の国境越え、2回の軌間変更、最大4回の船積み替え、最大10回の通関手続きが発生し、極めて高度に分断されている」と運用の複雑さを指摘した。

▲世界銀行欧州・中央アジア地域の運輸担当シニア・スペシャリストのLuis Blancas氏(出所:世界銀行)

こうした制度の分断に対し、アラム氏は解決策を提示する。「多くの輸送・通関書類を単一のデジタルデータ『T3』へ集約・簡素化する取り組みが必要だ。データ主権を保護しつつ、官民で信頼性の高い情報を共有するデジタルモデルの構築が進む」と語った。

ここで言及されている「T3」とは、複数の国をまたがる輸送において、各国で個別に要求される複雑な通関申告や関連書類を一つのデータに統合する共通のデジタル通関書類を指す。この仕組みが導入されることで、国境を越えるたびに発生する煩雑な手続きや確認作業が省略され、物流の大幅なスピードアップとコスト削減が可能になる。

▲世界銀行欧州・中央アジア地域のインフラストラクチャー担当シニア・エコノミストMuneeza Alam氏(出所:世界銀行)

2040年にGDP3.3%増、貨物量は3206万トンへ

インフラ投資と制度改革が結実した場合、地域の経済成長にも大きなインパクトを与える。メンディラッタ氏は「適切な投資により2040年までに域内GDPを3.3%押し上げ、200万人の雇用を創出する。東アジアから欧州までのドア・ツー・ドア所要時間は、現在の47〜50日から18〜19日へと大幅に短縮される」と数値を挙げた。

世界銀行が示した試算データによると、現在のインフラや制度を維持する「現状維持シナリオ(Status quo)」の場合、総輸送量は2023年の882万トン(うちコンテナ貨物8%)から、2030年に2298万トン(同5%)、2040年に2413万トン(8%)にとどまる。

一方、インフラ整備と制度改革を推進する「開発推進シナリオ」(TCTC development)では、総輸送量は2030年に2922万トン(14%)、2040年には3206万トン(19%)へと飛躍的に増大する。

▲貨物種別およびシナリオ別の「中央回廊」輸送量予測(出所:世界銀行)

脱石油(Non-oil)貨物のみに限定した場合、その伸びはさらに顕著だ。2023年の349万トン(コンテナ比率21%)に対し、現状維持シナリオでは2030年に567万トン、2040年に826万トンへと緩やかに増加する。これに対し、開発推進シナリオでは2030年に1144万トン、2040年には1559万トンに達し、コンテナ比率は39%まで拡大する見込みだ。

日本企業の参入と国交省による実証推進

日本国内でも中央回廊を有事のBCP(事業継続計画)代替ルートとして捉え、実証や体制構築を進める動きが本格化している。

国土交通省は7月、「中央回廊カスピ海ルートに関する実証輸送(春夏)」の参加事業者として東洋トランス(東京都中央区)、豊田通商、徳岡(大阪市中央区)の3社を選定したと発表した。東洋トランスはアンモニアプラント用パイプを日本からウズベキスタンへ輸送し、中国を経由しないルートを検証する。豊田通商は自動車部品を日本からトルコへ運び、徳岡はスパークリングワインをスペインから日本へトラックと鉄道、カスピ海を経由して輸送する。

また、三菱商事ロジスティクスは、ロシア拠点の閉鎖やスエズ運河の通航困難を背景に、シベリア鉄道に代わる「第3の輸送ルート」として中央回廊の検証を本格化させている。

同社は「所要日数が90日から170日と大きく変動し、定常的なサプライチェーンへの組み込みは難易度が高いものの、有事の際にはBCPルートとして利用せざるを得ない」と語り、実効性のある代替ルート育成に力を注ぐ。

日本のこうした動きに対し、ブランカス氏は「日本政府は政策対話や高品質なインフラ金融、デジタル貿易協力で貢献でき、日本企業は民間投資や物流サービス、コールドチェーン技術などで重要な役割を果たせる」と日本の官民への期待を寄せた。

インタビューの結びに、世界銀行の3氏は「中央回廊は単なる輸送ルートにとどまらず、ユーラシア全体の貿易、投資、雇用創出、経済の強靭性を強化する機会だ。鉄道や港湾の改修だけでなく、デジタル貿易システムや各国間の連携強化を通じて利用しやすいルートにすることが成功のカギとなる。変革には長期的取り組みが必要だが、より強靭で競争力のある貿易ルートが求められる今こそ、行動を起こす時だ」と強いメッセージを発した。

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