イベントLOGISTICS TODAYは22日、企業支援事業などを展開するワンロジ(東京都新宿区)との共催で、「運びと地位向上キャラバンin横浜」を開催した。 リアル会場とオンライン配信のハイブリッドで開催された同イベントは、物流業界の喫緊の課題である適正原価制度や法規制の動向、ドライバー職の地位向上、現場発の事業成長戦略について熱い議論を交わす場となった。今回で11回目を迎えた同キャラバンは、適正原価制度の行方を巡る「東海道シリーズ」の第1弾として急遽企画された。
第1部のセッションでは適正原価と規制緩和をテーマに、経済産業省商務サービスグループ物流企画室 流通専門官の新井和樹氏と、NBSロジソル(大分県日田市)社長の河野逸郎氏が登壇。本誌LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長とワンロジ社長の吉岡泰一郎氏がモデレーターを務めた。

▲経済産業省商務・サービスグループ物流企画室 流通専門官の新井和樹氏
冒頭、新井氏は昨年成立したトラック適正化2法に基づく「適正原価制度」の検討状況を解説。同制度は、燃料費や全産業の平均賃金を踏まえた人件費、減価償却費などを積み上げて適正原価を定め、運送事業者がこれを下回る運賃で引き受けることや、荷主・元請事業者が適正原価を下回る額で運送させることを禁止するもの。従来の標準的運賃のような一律の料金表ではなく、総走行距離や稼働時間などを各社が代入して自社の原価を算出する「算定式」が告示される見通しだという。
新井氏は、委託次数を原則2回以内とする努力義務や違法な白トラ利用荷主への取り締まりがすでに先行施行されている点に触れつつ、適正原価の遵守義務については公布から3年以内(2028年6月まで)の施行が予定されていると説明。現在進められている有識者検討会が年内(12月)に取りまとめを行う見通しであるとした。
これに対し、現場の運送事業者を代表して登壇したNBSロジソルの河野社長は、法制度の施行時期のズレに対して強い危機感を表明した。

▲NBSロジソル社長の河野逸郎氏
「働き方改革関連法によって拘束時間の上限規制が始まり、勤怠管理システムなどの設備投資負担がすでに先行して発生している。それにもかかわらず、適正な対価を収受するための適正原価の議論に時間がかかっては、ビジネスとして成り立たない。ビジネスという競争のルールである以上、法律の施行時期の足並みを揃えなければ、ルールを守らない会社が得をするのではないか」(河野氏)
さらに、トラックドライバーの賃金が全産業平均より18%低いとされる格差の是正について、河野氏は「インフレ経済下において数年単位で段階的に引き上げていくのは正常な流れ。運送会社だけでなく、荷主、さらには消費者も含めた三位一体で受け入れていくべき」と提言。一方で、利益まで国が一律に保証するような「モデル運賃」の導入には反対の立場を示し、「運送業は公共事業ではなく民間事業。必要な原価・経費は適正に計上しつつ、品質や安心といった付加価値による競争や企業努力の余地は残すべきだ」と語った。
新井氏も、荷主団体へのヒアリング結果として「総論としてはおおむね賛成が得られている」と明かしつつ、事業者の企業努力をどう制度に反映させるか、何を原価に含めるべきかという線引きが極めて重要になると同調した。また、荷主との新たな関係構築の事例として、運送事業者が原価をすべてオープンにし、適正利潤を上乗せして長期契約を結ぶ「オープンブック契約方式」の実効性を紹介した。同方式は、米国などで実運用されているものだという。

続く第2部のセッションでは、夏島運輸(神奈川県横須賀市)社長の近藤智平氏が登壇。「会社を成長させてこられたこれまでの取り組みと、今後の方向性」をテーマに、波乱に満ちた事業承継の歩みと独自の経営哲学を語った。
近藤氏は2008年までプロのロックギタリストとしてメジャーシーンで活動していたという異色の経歴の持ち主。家業の夏島運輸に入社後、相模原営業所でのドライバーや配車業務、本社総務を経験。2010年に本来の後継者であった実兄が急逝したことを機に、事業承継を担う覚悟を決めた。
しかし、親族外の社長が指揮を執っていた時期には、パワハラ的な組織風土や拠点間の統制不足、経営陣への不信感から幹部やドライバーの離職が相次ぎ、対外的な悪評も広がるなど、会社存続の危機に瀕したという。近藤氏は2018年に代表権を取得後、2020年の社長就任と同時に抜本的な組織改革を断行。社内のパワハラ体質を断ち切るため旧役員を全員解任し、自ら相模原営業所長を兼務しながらドライバー全員との対話を重ねた。

▲夏島運輸社長の近藤智平氏
「人は会社の兵隊ではない。社員が何のために働いているのかを見失った組織に未来はない」(近藤氏)との信念のもとで現場の信頼を取り戻し、現在では離職率が大幅に低下。採用面でも「7人受けて1人採用する」ほどの応募が継続する企業へと生まれ変わった。SNS(X)やAIを活用した情報発信により、低コストで若手層へリーチする広報戦略も成果を上げている。
また、業界全体を揺るがした「2024年問題」に対しても、同社は2022年の段階で改善基準告示の改正後を想定した体制への移行を完了させていたという。夕方積み・朝着の運行を減らし、午前積み・昼着の案件を組み込むことで実車率と輸送効率を向上。拘束時間の削減(年間960時間以内)と同時に、売上の維持と社員の給与引き上げを両立させた。

▲ワンロジ社長の吉岡泰一郎氏
荷主との交渉について、近藤氏は「運送会社はボランティアではない。対等なビジネスパートナーであるべきだ」と強調。「社員を安売りしない」ことを判断基準とし、単純な値上げ交渉にとどまらず、輸送時間や運行内容の見直しによる荷主側のコスト低減策を提示する一方、対等な関係を築けない取引先とは関係を断つ決断も下してきたと振り返った。
さらに財務面でも、創業以来50年以上続いていたメインバンクとの関係を見直し、2025年に全面的なリファイナンスを実施。支払利息を圧縮して社員還元や設備投資の原資を捻出した。
今後の展望として、近藤氏は関西エリアへの進出を見据えたM&Aへの強い意欲を示し、10年後には自動化やドローンなどの最新技術も柔軟に取り入れ、「単なる運送会社から、物流全体を担う物流会社へと進化させたい」と展望を語った。創業時からの経営理念である「この仕事を通じて人間の完成を目指す」を胸に、売上高の追求以上に「現在およそ120人の従業員規模を300人、500人へと拡大し、より多くの人の成長と幸せに関わりたい」と力強く締めくくった。

▲LOGISTICS TODAYの赤澤裕介社長兼編集長
セッション終了後の総括では、赤澤編集長と吉岡氏が登壇。同キャラバンの裏テーマとして、ドライバーの運転日報や走行データの帰属先を会社だけでなくドライバー個人に紐付け、キャリアやスキルの正当な評価・地位向上へつなげる構想などが語られた。
次回の「運びと地位向上全国キャラバン」は、東海道シリーズ第2弾として10月29日に愛知県名古屋市で開催される。さらに12月9日には、全面バックアップのもと、静岡県での開催が決定。いずれの回にも、経済産業省の物流担当者の登壇が予定されている。
東海道シリーズ第2弾
LOGISTICS TODAY presents「運びと地位向上全国キャラバン2026」in名古屋
10/29開催「新時代生き抜く「適正原価」と物流DXの最前線」
▼申し込み受付中▼ 2026年10月28日(水)16時まで
https://www.logi-today.com/1010805
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