ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

自律走行式ピッキングカート(AMR)を2022年春に発売する寺岡精工

秤メーカーの面目躍如「ピッキングしながら検品」

2021年12月9日 (木)

話題4個のコンテナを積んだカートが、静かな音楽を響かせながら商品の並んだ棚に近づいてくる。棚に平行に停止すると、作業員がカートの液晶画面に表示された「キャップ式黒ボールペン」を棚から取り出してコンテナに入れていく。画面の「移動開始」のアイコンをクリックすると、隣の列の棚に向かって走り出す。再び止まると、今後は「コットン綿棒」を入れるように画面が指示した――。

▲コットン綿棒のピッキングを指示

物流現場で近年、ピッキング作業の効率化を目的としたロボットカートの導入が広がってきた。消費スタイルの多様化や新型コロナウイルス感染拡大に伴う宅配ニーズの高まりによる「新しい生活様式」の時代が迫るなかで、物流現場で取り扱う荷物は小口化と多種化が急速に進展。その結果、現場での人手不足が露呈し、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)化による業務効率化が喫緊の課題になっている。

さまざまな業界の企業が強みとする技術を駆使して物流DX化につながるシステムや機器を開発するなかで、2010年代中盤から物流向け先進機器の自社開発を推進し、注目を集めている企業がある。1934年創業の計量器メーカー・寺岡精工(東京都大田区)だ。

顧客ニーズを形にする「自律走行式ピッキングカート」

「寺岡精工は2022年春、ロジスティクスソリューションが提供する新製品として、AMR型の自律走行式ピッキングカート(PKGA-4400)の発売が決定しました」。驚きの新戦略を打ち明けるのは、寺岡精工のロジスティクスソリューション事業部開発部の鈴木秀幹次長だ。AMR(自律走行搬送ロボット)と言えば、ITシステム開発企業や精密機械メーカーが製品化する印象が強い。実際に市場に提供している企業の多くは、そうした業界に属している。

▲“寺岡式”ピッキングカートを紹介する鈴木さん

そんな領域に、秤(はかり)の開発に取り組んできた寺岡精工が果敢に挑む狙いは何なのか。そこには、業種を超えて、声にならない顧客ニーズを製品化することで実現する、メーカーとしての「使命感」があった。

物流現場から着想した「自走式ピッキングカート」

2017年のある日。「物流現場の負担を軽くできるような新しい製品を作れないか」。寺岡精工の本社会議室。国道1号線を疾走する大型トラックを窓の外に見やりながら、ロジスティクスソリューション事業部のメンバーがテーブルを囲んでいた。

▲SMART QBING

事業部は2014年、物流現場のコンベヤーを流れる荷物のバーコード判読とサイズ計測、計量を自動化した自動採寸計量スケール「SMART QBING」(スマートキュービング)を開発。人手不足に悩む宅配会社や物流会社からの問い合わせが相次ぐヒット商品となっていた。

ちょうどその頃、物流現場への導入を視野に入れたAGV(無人搬送車)など自走式ロボット開発が始まり、業界の話題を集めていた。物流現場では、EC(電子商取引)サービスの普及による物量増などで人手不足が見過ごせない課題となっていた。その解決を図るための取り組みを開発メンバーで考えることになった。そのうちの一人が切り出した。「自走式のピッキングカートを作れないか」。先日訪問した物流現場で、女性作業員が100キロを超えるカートを顔をゆがめながら押しているのを目にして、カートが自走することで重労働から解放されるのではないかと考えたのだ。

その第一歩として、最初の「一押し」を駆動力でアシストするピッキングカートを開発したが、現場の反応は芳しくなかった。鈴木さんは当時をこう振り返る。「求めているのは、あくまでも自走式のカート。企業に納入しようにも、設備投資の対象にならなかったのです」。

計量技術の応用で固まった寺岡精工ならではの自走式カート

とはいえ、AGVは国内外のメーカーが既に開発品を市場に投入していた。ここで寺岡精工がAGVを開発したとしても、先駆者をしのぐ水準の機器を製品化できる自信はなかった。

それでも、自走式カート開発の夢は捨てられない。営業先の物流現場をめぐりながらヒントを探す日々が続いた。そんなある日、メンバーの一人がある光景をみてひらめいた。ピッキングされた商品に混じって紙の伝票が入った検品工程のコンテナが並んでいる。「検品と言えば、ピッキングされた商品の正確な数を確認する作業だ。寺岡精工の技術を応用できないか。それが今回の新製品の構想が固まった瞬間でした」(鈴木さん)。

▲SMART QBINGに導入した秤の技術を応用し、ピッキングと検品を両立させた

SMART QBINGの開発にも応用されている、商品重量の計測により数量を割り出す技術は、寺岡精工が創業以来培ってきた「秤」の開発技術に通じるものだ。正確な計量による商品数量の算出は、まさに寺岡精工のロジスティクスソリューションの根幹を成す概念と言える。

カートに入れた商品の重量を検知することで、ピッキングのミスを防止。「ピッキングをしながら検品できることで、カートを押す『身体的負担』と、検品工程を圧縮できる『業務的負担』の両方を軽減できる特徴を前面に出す戦略を掲げて、製品化に踏み切りました」(鈴木さん)。2018年のことだった。

自走のポイント「レイアウト地図」の精度確保に苦心

自走式カート開発の方向性を固めたメンバーは、製品化を見据えた要素技術の開発に奔走。自社の技術力を頼りにした自律走行を実現するために乗り越えなければならない最初のハードルは、機器が自分の位置を推定する機能の開発だった。「物流倉庫は、見た目の似た通路や棚が並ぶなど、自走式カートにとって『現在地』を認識することが非常に難しいのです」(鈴木さん)

開発メンバーは、通路や棚、作業員がひしめく物流現場への導入を意識して、カートの移動を統括する制御システム「トラフィックコントロール」による自走方式の採用を決定。個々のカートロボットのCPU(中央演算処理装置)を上げるよりも、パソコンで統括制御する方が効率的に運用できると考えたからだ。

▲「トラフィックコントロール」による自走方式の採用で効率的な運用を実現

まず、カートが倉庫内を移動することで全体の「レイアウト地図」を自動で作成。自走する際の「ルートマップ」となるこのレイアウト地図をカートロボットに認識させる作業が始まった。

ポイントは、カートの静止時に位置をきっちりと補正すること。出発点が決まらないと、実際に存在している地点と地図上の場所がずれてしまい、正確な動作に支障が出るからだ。こうして全体のレイアウト地図が出来上がると、目的地への最短距離を選択して移動するほか、交差点で減速したり他のカートと衝突しないように互いに回避したりするシミュレーションを繰り返しながら、正確な地図を仕上げる作業を進めた。

障害物を避けるセンサーについても、数種類を試行した結果、3Dレーザーレンジファインダーを採用。「地図の検出エリアや距離の調整を行うことで、ついに安全で正確な自律走行を実現にこぎ着けました」(鈴木さん)。2021年秋、自律走行式ピッキングカート(AMR)「PKGA-4400」の試作機が完成。発案から4年が経っていた。

「自走式」と「手押し式」を使い分けられる仕様に

自律走行機能と計量器の内蔵による検品機能を両立した、秤メーカーならではの画期的なピッキングカート。物流DX化を推進する先進機器ラインアップの一角を占める製品として、業界の注目をさらうのは間違いなさそうだが、強みはこれらの機能だけではない。

寺岡精工には、自走式でないピッキングカート製品群が存在する。ネット通販や狭い通路での使用を想定した8個のコンテナで同時ピッキングを実現する「8マルチピッキングカート(PKGM-4800)」など、用途に応じてラインアップを充実させてきた。

これらはいずれも手押しタイプだが、寺岡精工は新発売の自走式と従来型の手押し式を同じカート用サーバーで統括できるシステムの導入を図ることで、用途に応じたピッキングカートの選択を可能にするという。

「自走式は、あくまで移動や作業量の多い大規模倉庫向けの機種と位置付けています。自走式が全ての物流現場で万能なわけではありません。既存の手押し機種が最適なケースもあるように、現場のニーズや用途、特性に合わせた機種選択や併用ができる仕様にこだわっています」

▲現場のニーズに合わせられるよう、多彩なピッキングロボットをラインアップ

鈴木さんは、多様性を受け入れられるシステム作りこそが物流における真の業務支援につながると考えている。寺岡精工のロジスティクスソリューションの最も大きな強みは、機器の開発力の根底にある、徹底した顧客の声にならないニーズの具現化に向けた「熱意」だ。

コロナ禍の収束後に予想される物量増とさらなる人手不足に対応して、物流DX化を急ぐ物流業界。ロボット導入がさらに加速するであろう未来の物流現場を支えるのは、先進機器と既存のノウハウを協働させる力なのではないか。寺岡精工の取り組みは、それを物語っている。

寺岡精工 ロジスティクスソリューションサイト

■物流ロボット特集