
話題人気トラックYouTuberのかなちゃんにLOGISTICS TODAY記者が密着同行取材する連載第5話
それからも、かなちゃんは、ボンネットなどが大破して警察の到着を待つ衝突事故現場や、トンネル内での別の接触事故、小さな渋滞などをいくつも抜けていった。
出発から1時間ほど過ぎた14時過ぎ、かなちゃんがこの日運ぶ荷物の受け取り先である、高速インター近くの関東地方の物流倉庫へと到着した。
誰もが一度は目にしたことがある家具を扱うメーカーの看板ロゴが目の前に飛び込んでくる。
入口のゲートが開いて、かなちゃんは搬入通路をゆっくりと走行すると、トラックをさっと停め、受付の事務所へと向かった。
この場所は、海外から運ばれた家具が倉庫へと搬入されるバースで、外国語で書かれた赤やピンク、水色といったカラフルなコンテナを積んだトラックが、次々と到着してくる。
かなちゃんは受付の女性に「こんにちは」と挨拶すると、タブレットに「予約番号」と「電話番号」と「車両番号」を入力した。
すると「入場する」という画面に切り替わり、チェックインが完了する。
「これが『荷物を取りにきましたよ』というデータ管理になるので、大事です」とかなちゃん。
入力がタブレット化されたのは最近だそうで、これまではトラックの到着順の受付だったため、自分の着脱するバースが空くまで、長い時間待たされることがしょっちゅうだった。
だが、このシステムに変わってからは、あらかじめ到着時間を知らせておくと、バースを開けて待ってもらえるようになったため、無駄な待機時間がなく
なり、労働時間もかなり短縮されるようになったという。
「だけどね」とかなちゃんは続ける。
「かなにとってはこのシステムになってくれてよかったけど、初めのころは、このシステムは流行らないんじゃないかと思った」のだといいう。
ドライバーのほとんどが、かなちゃんのお父さんと同じような年齢の中高年の男性だ。
「タブレットができないおじちゃんがたくさんいるから、ここに来て困っている何十人もの人に教えてあげて。こうやって押すと自分のスマホにもメール届くんだよ、ってとこから」
その甲斐あっていまではドライバー同士、ほんといい時代になったねと懐かしむまでになった。
ドライバーのなかでは数少ない20代と若く、また、女性であるかなちゃん自身にとっても、このようなデジタル化は、労働環境の改善だけでなく、とても大きな安心を手に入れた画期的な変化だったともいえる。
これまで勤めていた運送会社では、荷物の受け取りに来た際に記入する電話番号は、個人の携帯電話番号を手書きで記入することが当たり前だった。
このため、知らない間にドライバー同士で個人情報が出回って、いまでもフラッシュバックしてしまうくらい怖くて悔しい思いをしたことが何度もあった。
だが、いまの会社では社用携帯が一人1台支給されることになり、背負わなくてもよいリスクを背負う必要がなくなった。
「会社の携帯が支給されるだけで、こんなに安心できるんだって驚いた。これまでは、この仕事を好きで選んだ以上、好きで男社会に飛び込んだ以上、怖い思いやいやな思いをしてもすべて自分で引き受けなければいけないと思っていたけど、そこはがまんする必要ないんだなって」
大好きなトラックを自分で運転をしたくて、トラック業界に飛び込んだかなちゃん。
いまの運送会社にたどり着くまでに、いまとは別の運送会社や個人事業主でのドライバーを経験してきたわけだけど、これまでの数え切れないくらいの悔しい経験が、ドライバーという仕事への鮮やかなくらい潔い割り切りだったり、徹底したプロ意識へとつながっていったと言っても過言ではない。
転んでもただでは起きない、泣き寝入りだけでは終わらせたくない。
「かなちゃん」の見えないところにいるかなちゃんは、私たちが思っている以上にたくさんの思いを抱えて、今日もどこかでハンドルを握っている。