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まだ誰も知らない憧れの存在「かなちゃん」へ/連載最終話(全11回)

2022年3月2日 (水)

話題人気トラックYouTuberのかなちゃんにLOGISTICS TODAY記者が密着同行取材する連載最終話(全11回)

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暖房がちょうどよく効いていた車内も少しずつ足元から冷え始めてきて、夜が一段と深まってきたことを感じる。

かなちゃんとお別れする時間がだんだんと近づいてきたこともあり、記者は最後にかなちゃんに、「これからどうなりたい?」ということについて率直にインタビューしてみることにした。

ボイスレコーダーをかなちゃんに近づけて録音させてもらったが、あとあと聞き直してみたら、ブォーンというエンジン音にかき消されて、なかなかに聞きづらかった。

とはいうものの、YouTuberのかなちゃんとして、いちドライバーとして、一人の人間として、それぞれのかなちゃんとして、これからも成長していきたい気持ちを語ってくれた。

「かなちゃん」として

YouTuberとして運送業の楽しさを自分が見出せなくなるまでは続けたい。発信者として、YouTubeをやめたとしても、Twitterとかで発信は続けていきたいなあと思ってるし、(ドライバーの世界を)盛り上げていきたいという思いは変わりない。

若い世代にも入ってきてもらって、魅力を伝えたいし、「いま楽しくないな」ってがまんして仕事してる人たちが、もしこの仕事を始めたらハマるかもしれないじゃないですか。

そう思っているんだったら、ぜったいこの仕事やってほしいなあって。リスクはあるけど、それ以上に楽しいってことを伝えたいし、共感できる人にこの仕事に就いてほしい。

明確な数字の目標でいくと、誕生日までに登録者が1.5万人増えて、10万人達成できればいいな。

いちドライバーとして

単車バラ積みの仕事を一人前にできるようになりたい。体が動くうちに、バリバリ働いてたくさん動くことが好きなので、筋トレだと思いながら、体を動かして汗かいて仕事するということをしたい。

一人の人間として

「かなちゃんみたいになりたい」と言われるような女子になりたい。強くてかっこいい女性になりたい。同性から言われるほうがすごいうれしいなと思ってて、憧れる。実際、ちらほら言ってくれる人も増えてきたけど、まだ自分に自信が持ちきれない部分があるので、もう少し、自分に自信をつけて、かっこよく、堂々と言えたらなと。

強がっているだけで、全然強くなくて……。無理なことは無理だと伝えて、甘えられるところは甘えられるようになりたい。それがちゃんとできるようになったら、本当に強いんじゃないかなと。難しいですけど……。

「女の子なのにがんばってる」と言われることが大嫌いだった。かといって、女性同士が同列に並べられて、埋没していくような世界も無理だと思った。

だからこそ、あえて飛び込むことで自分を試してみようと思ったトラックドライバーという男性社会。

いずれのパーツが一つでも欠けていたら誕生もしなかっただろう「かなちゃん」という存在は、いつも揺れ動いていて、気まぐれで、強がってみたかと思うと甘えてみたり、泣いたり笑ったりと忙しい。

「かなちゃん」という、かなちゃん自身もまだ見ぬ憧れの存在が、これからどう変わって、成長していくのか、誰も知らない。

かなちゃんはインタビューでしゃべりきると、いちばん元気が出る音楽だというドリカムのボリュームをマックスに上げて、次の休憩地まで一気に走り続けた。

21時45分頃、足柄SAに到着。

記者はここで取材を終了し、お別れをすることを伝えていた。

最後はやっぱりかなちゃんらしく、ゴープロでの実況越しに、手を振ってさよならをした。

このとき記者は朝からしていたコンタクトレンズがパリパリに乾燥してしまいほとんど目が見えない状態になっていたほか、慣れないトラックの座席で、背中と腰がばっきばきになっていた。

疲れでふらふらになりながら休憩所に着くやいなや、ばたんと寝てしまった。

それでも、かなちゃんの仕事はまだ終わっていないのだから、純粋にすごい。

カラダひとつで仕事をしているといえばかっこいいけど、疲れたからといって、トラックごと投げ出すことはできない、荷物を運ぶという仕事。

かなちゃんはまだまだ走り続け、行きと同じ関東地方の物流倉庫に行ってコネクトエリアで入れ替えた荷物を届け、それからさらにまた同じ道を通って車庫へと戻らなければ、仕事は終わらない。

午前3時になろうとしていた頃、記者のスマホのバイブが鳴った。

こんな時間に珍しいなと画面を見ると、かなちゃんからだった。無事車庫へと到着したとことを、記者に教えてくれたのだ。しかもピースサインのポーズ付き。

そういえば、かなちゃんの助手席に乗せてもらって同乗取材を開始して、まだ30分くらいしかたっていなかったとき、かなちゃんから「私たち、すれ違うドライバーから、ものすごくチラ見されてるの、わかりますか?
かな1人でもけっこう目立つんだけど、今日は女の子2人だからさらに目立ちますよ」と言われて、はっとした。

実は記者は初めて「ドライバーからの視線がある」ということを意識したのだった。

それは、これまでは、自分の歩く目線よりも高い位置にいるトラックドライバーのことを、「トラックがそこに走っている」という認識こそしていても、“そこに誰かが乗っていて、運転している”ということについて、そこまで真正面から意識を注いだことがなかったということだった。

トラックの車体の迫力や、存在感そのものに印象が圧倒されてしまいがちなこともある。

そこに誰かが乗っていないわけがなくて、そんなこと分かっているのだけど、記者は今回、かなちゃんの目線を通してドライバーの世界を垣間見させていただくなかで、ハンドルを握る人の数だけ、その人がこれまで見てきた景色や思いがあるという、とてもベタな言い方ではあるけれど、なんていうか、意識していなければ見過ごしてしまう大切ななにかを、取材という自分の役割を通して浮かび上がらせたかったし、それを形にすることで、多くの人に届けたかったのではないかなという、自身の根底にある思いにたどりつくことができた。

かなちゃんとは届けるモノや手段こそ違えど、届けたいという気持ちを持っている自分を、もっと素直に肯定してあげてもいいんじゃないかという気持ちに、強がっていた時期もあるけれど、そのときの自分を「負け」だと潔く語れる、かなちゃんの澄んだ心に触れたからこそ、なったのだった。

それは、物流メディアの記者として、これからも物流にたずさわる方々と出会っていくなかで、また、ドライバーをめぐるあれこれを伝えていくなかで、大切にしたい、忘れたくない感覚や温度感だ。

届けるものがあったり、生きる輪郭を色濃くしていきたいと願う“同志”としても。

届けることを、生きていくことを、決して卑下して語るのではなく、それ以上でも以下でもなく、そのままに、誇りを持って生きていくためにーー。

そんな思いを胸に抱えながら、「おかえりなさい」とかなちゃんに返信すると、記者はまた眠りについた。(完、この連載は編集部・今川友美が担当しました)

YouTubeチャンネル「かなちゃんねる」はこちらから

かなちゃんのTwitterはこちらから