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もし物流現場でRFIDが利用できたら/寄稿(中)

2022年2月15日 (火)

話題RFIDを物流現場で使いこなすには何が必要か。それを理解するには、まず知っておくべき事柄がある。「そもそも、物流現場でRFIDは業務効率化にどのように貢献するのか」。せっかくの先進技術を使わない手はない。ここでは、五つの問い掛けを通してRFIDの活用に向けたヒントをひも解いてもよう。(永田利紀)

もし物流現場でRFIDが利用できたら(上)

もし物流現場でRFIDが利用できたら(下)

RFIDの利点を十二分に活かすためには、いくつかの現場業務の変更や置き換え不可能な前提条件を設定しておく必要がある。

そこを明確にしておかないと、RFIDという利器を導入することがゴールとなるという錯覚や誤解の種となるので、くれぐれもご注意いただきたい。具体的には、どの現場管理者や業務フロー設計者も発するであろう問い掛けのいくつかを挙げてみたい。

五つの問い

1.感知しない
RFIDに得意とする「感知」であるが、同時にそれが災いの元にもなる。現状ではかなり大きなマイナス要因として捉えざるを得ないというのが私見だが、すでに導入済み、もしくは採用に向けて研究考察中の御仁がいらっしゃるなら所見を伺いたいと切望している。

私の危惧する点は、一定距離内なら何でもかんでも無差別に感知してしまうので、棚やパレット、ネステナーなどが居並ぶ現場動線では、センサーの指向性と制御に大きな設備や複雑な加工が必要とされるだろうし、それにはハードとソフトそれぞれのカスタマイズが必須となるはず。もちろんだが、大きなコストが付いてまとう。感知することが得意な反面、感知させないという制御には多大な仕掛けが必要となる。

(イメージ)

RFIDの効用をデモンストレーションするための切り取られた場面設定は説明や販促の助けとしては有用かもしれないが、寸劇のごとく現場が動かせないことは説明不要である。通路幅2mの棚保管ゾーンの片側面だけを感知させる仕掛けを、普通の倉庫内で運用するための制御方法はいかなるものなのか。

多くの物流人たちが誤認しているのは「ものすごい精度とスピードと容量を兼ね備えたハンディスキャナーの進化版のようなものがRFIDのもたらす恩恵」という期待値なのだが、それは単眼的に過ぎると指摘しておきたい。

全部感知する、が一番得意でかつ安上がりな使い方だが、システム制御しなければ電波の飛ぶ範囲で何度でも感知して、データ取り込みが行われる。読み取ったデータはJANの13桁に独自設定した数桁のシリアル番号を加えた20桁前後のユニークデータである。保管マスの中にある1SKUの在庫数が50であれば、従前のように1行のJANに在庫数50と表示されるのではなく、コードの13桁までは同一の50種類の在庫として認識されるのだ。もちろんシステム制御によって1行に「50」と表示させることは可能だが、使用者がそのようなシステムを用意することが求められる。

「感知しない」ことは苦手中の苦手なので、人間が何らかの制御を講じなければ、無差別感知マシンとなって、膨大な重複データの集約を繰り返す可能性がある。
どのように「感知しない」ようにするのか?という問いに対する回答は、サプライヤー各社それぞれになってくるはずだが、おそらく現状では運用事業者にとって不十分で高額な内容となると思う。

2.順番に
現場によって感知の順番のもつ意味や必要性はさまざまに異なる。それゆえに、オープンスペースでは、何らかの遮蔽や指向性を持たせぬ限り全部感知するRFIDの仕組は厄介となる可能性が排除できない。特に限定された物品のバラ入荷作業時や、ピッキング時に大きく作用するはずだ。

(イメージ)

昨今のEC興隆はいうまでもなく、ヤマト運輸の直近発表された中期経営計画にあるような「全産業のEC化」が進行すれば、作業の細分化や個別対応機能は不可欠となる。その際に「順番に」が苦手のまま存えているならば、実用化の大きな障害になることは明白だし、指摘されるまでもなく供給側は対応策や設備開発を急ぐだろう。
建屋空間を縦横に使える自動化によって電波干渉のない個室やライン構造を獲得できている倉庫なら、机上の理想論のままに現場動線の構築が叶う。

ただし今の段階では大多数の一般事業会社や物流会社にとって現実味少ない話でしかない。

3.一個ずつ
これは非常に単純な理由でミスマッチこの上ない。つまり一個ずつなら、何もRFIDなど無くても既存のバーコードスキャナーで用が足りるからだ。問題はせっかくICタグを全品に付して、JANコードの進化版としてまさに在庫品のオールユニーク化と関連情報の付帯化の実現をしようという段階に至っても、まだ一個ずつ検知するなら、バーコードスキャナーの方が手軽で取り回しに易い…などというダブルスタンダードが堂々と継続する異様さを当事者たちは黙認している。もしくはそうせざるを得ない状況の異様さが、私の知る限り平然と併存している。

会社が進める最新鋭の技術革新と、日々の現場運用は別物。という呟きに近い声の存在を無視できないので、読者諸氏も今一度自社内で議論されてみてはいかがかと思う次第だ。論点の核心は、前項「2.順番に」と同じく、長所であったはずの「感知」の能力が、高コストな制御や防除の設えなくしては、利器とならない点にある。

4.人間の眼と共に
「ピッ」と音が鳴って、手元の画面を確認しつつ…というのが入荷検収やピッキング、梱包前の最終確認時のよくある光景だが、ミスや勘違い防止のために、多くの現場では聴覚と視覚に訴える二重の注意喚起手当てが施されている。

(イメージ)

その運用の理屈として、機械は間違えないが、それを操作する人間がまちがえたり、ルールを破ったりするので、慣れや思い込みを回避するためにも音や画像や文字で念押しするようにチェックしている——が現場手順書の基本事項として多数派を占めている。

このあたりの諧調性や作業区分の直列化もRFIDが現時点で苦手とするところだ。平面的、立体的な一括感知は得意とするところだが、線や点をなぞるような作業フローに応じるためには、相応のハードとソフトが必要となる。それはそれで悪いと思わないが、いかんせん高額投資と、業務変化への低コストかつ柔軟対応という条件を満たすにはほど遠い。

ECもしくは類似態様比率の高まりは、庫内業務の細分化や配送の個配比率の増加を招く。全自動化が叶わないままの物流事業者や自社倉庫が過半を占める今後を思えば、手作業や個別仕分時への対応は必須となるはずだ。

5.簡易導入
RFID普及の最大課題は「簡易に低コストで導入できますよ」を実現できるか否かにかかっている。一部の大企業向けと割切るには惜しい可能性に満ちているので、公的な支援が後押しすることも大いに望まれる。まだ平成だった数年前には大手コンビニエンスストア5社による1000億枚のICタグ導入や、流通量の増加のあかつきにはタグ1枚当たりのコストは@1円にまで下がるようにしたい…のような公的指針が広報されていた。

(イメージ)

しかしながら今現在の導入コストは、ICタグ単体だけでも、購入ロット1億枚程度で10円前後と聞く。それにタグの加工費や、システム対応費、電波干渉制御のための設備費、そして最大の難所は商品マスターの改変を伴うところだ。マスター内に統一しきれないコードや別枠品番が混在したまま、複数系統での仕入・保管・出荷引当・価格変更などの運用を行ってきた事業者にとって、膨大な商品マスターの再整備と新コード規格への統一は一朝一夕でできるものではないし、物理的に何らかの犠牲や停止、削除や改廃のいくつかを受容しなければならない。そのような話は特殊な事例でも誇張でもなく、一般論として捉えて支障ないと思っている。

そもそもRFID導入以前に、現在の自社商品マスターの状態を把握できている御仁がどれほどいるのかは、大いに疑いをもって問いたいところだ。私の経験では、物流部門と仕入部門と営業部門と管理部門で共通共有された、寸分たがわぬ商品マスターと補助データを運用できているという企業は皆無だった。

「お前の視野と経験が足らんのじゃ」と自ら思わなくもないが、現場関与していないいくつかの企業の物流責任者に問うても「物流で把握しているデータ以外に多数ありそう」が最多回答であることも付記しておく。

——このように、総論大歓迎・大賛成ながらも各論不安・質問多し、というのがRFIDに対する物流人たちの距離感ではないかと推察している。私自身、誰にもましてRFIDのもたらす物流業への利益を期待している。なので、普及の妨げや導入企業が思惑外れの憂き目に遭遇しないように願うゆえの直截表現とご理解いただきたい。

もし物流現場でRFIDが利用できたら(下)に続く

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