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物流現場を変革するDX化の旗手として注目を集めるセンシングシステム

荷主と物流事業者の「相互理解」がRFID普及のカギ

2022年2月22日 (火)

話題LOGISTICS TODAY編集部は、ことし2月7日から13日にかけて物流企業や荷主企業を中心とする読者を対象に、物流センシング(読み取り)に関する実態ニーズ調査(有効回答数432件、回答率15.2%)を実施した。電波を用いてICタグの情報を非接触で読み書きする自動認識技術であるRFIDについて、利用実績のある企業が2割超と増加傾向にあり作業効率の向上を実感しているものの、単価設定を含めた初期コストや荷主への理解が積極的な導入を阻んでいる実情が明らかになった。

物流現場における業務効率化を推進するうえで有効な施策であるセンシングシステムの旗手として注目されるRFID。その本格的な普及拡大には、物流に携わる業界各社がその導入効果やコスト配分などを共有し合うことで現場業務の最適化を見据えた取り組みを進めていく必要がある。メーカー側にも、量産効果にとどまらない価格低減に向けたさらなる努力が求められそうだ。(編集部特別取材班)

RFIDの活用実績は2割超える

前回は、コードを読み取るセンシング機器として広く普及しているハンディーターミナルの活用状況や課題認識について分析した。今回のニーズ調査で、もはや物流現場でお馴染みのアイテムであるが故に、高機能を訴求するメーカー側と、人材の高齢化や流動化が進むなかで「使いやすさ」を重視する現場とのミスマッチの構図も垣間見える結果が出た。現場業務の効率化を実現するためのアプローチとして、必ずしも「先進」機器が有効ではないことを再認識する必要があるようだ。

ハンディーターミナルとは対照的に、物流業界における話題のテーマとして浮上してきたRFID。周波数の違いによってさまざまな用途があり、普段の生活に身近な交通系カードや電子マネーにも使われている。UHF(極超短波)帯の周波数を活用すれば、電波の照射範囲内にあるICタグを一括で読み取れるほか段ボールを開封せずに外側から読み取ることも可能。物流現場における仕分けをはじめとする各種作業をはじめ、アパレル店舗のレジ会計や商品棚卸しなどの業務を支援するシステムとして、近年注目を集めている。

それでは、このRFIDは物流現場でどれだけ活用されているのだろうか。「現在利用している」と回答した企業は全体の17.6%。「過去に利用したことがあるが、現在は利用していない」(4.4%)を含めると、22%で利用実績があった。物流業界におけるRFIDの導入が始まってまだ数年であることを考慮すれば、普及は着実に広がりつつあることがうかがえる。

RFID導入の利点は「効率」「スピード」の向上

続いて、RFIDの利用実績のある企業に導入メリットを聞いた。「作業効率の向上」が86.3%で最多だったほか、「作業スピード向上」(51.6%)▽「誤出荷の減少」(32.6%)▽「現場の必要スタッフ数の減少」(22.1%)――との結果となり、現場の効率化・最適化につながる成果を得られたと認識しているようだ。

一方で、導入によるデメリットについての質問では、コストにかかる回答が上位を独占。「RFIDタグの単価が思ったより下がらない」(73.7%)▽「荷主がコストを負担してくれない」(50.5%)▽「メンテナンスコストが大きくなりすぎている」(38.9%)――と、コスト負担に対する課題認識を色濃く反映した結果となった。

普及が一段と進めば量産効果で一定のコスト低下を見込めるものの、単価の高さが普及拡大を阻んでいる――。まさに「鶏が先か、卵が先か」の議論だが、荷主をはじめとするビジネスパートナーが分担してコスト負担の低減につなげるなど、RFIDの機能の「受益者負担」の発想が広がれば、こうした普及のネックも減らせる可能性がある。メーカーも普及促進策として顧客支援策を手厚くするなどの配慮も必要ではないか。

普及拡大にはさらなる「信用力」が必要

普及が広がりつつあるとはいえ、未だに78%が導入していないRFID。利用していない理由についてたずねると、やはり「RFIDタグの単価が高い」(53.7%)がトップ。「タグ以外のシステム・機器の導入コストが高い」(27.3%)を含めて、コストをめぐる懸念が強い印象だ。

他の観点でみると、「自社の現場ではRFIDが適用できない荷物を扱っている」(38.6%)▽「荷主の理解を得られない」(31.2%)▽「導入しても作業効率が改善すると思えない」(16.9%)▽「性能が実用レベルに達していない」(14.2%)――などの回答が上位にランクイン。荷主の理解を含めて、自社の現場における業務改善につながらないとの認識が強いほか、RFID市場事態の未成熟さを指摘する声もあり、さらなる導入実績の集積による業界内での信用力が必要な段階にあるのかもしれない。

導入を決断できる3つの要素、「コスト」「メリットの共有」「機能向上」

とはいえ、物流向け技術分野ではRFIDによる飛躍的な業務効率の向上を予測する向きも決して少なくない。むしろ、将来の物流現場の変革を促す決定的なファクターの一つとして、RFIDを挙げる声がよく聞かれる。

そこで、RFIDの利用実績がない企業を対象に、どのような環境が整えば導入したいと考えるか質問した。自由記述で回答を求めたため、ここでは3つの類型ごとに傾向を調べた。

まずは「コスト」。「金属でもRFIDが適用でき、タグ・機器の導入コストが安くなれば考えたい」「タグ単価の大幅な値下げ」「コストがQR(二次元)コード並みに下がれば」など、価格自体の低下を導入条件に挙げる声が目立った。いくら利便性をうたっても、企業にとっては設備投資となる。業務効率化を推進する観点で考えれば、投資判断に厳格なラインを設定するのは当然でもある。

コストにもかかわるテーマとしては、ビジネスパートナーとの「メリットの共有」が挙げられる。「RFID利用メリットがサプライチェーン全体で理解され導入コストについてオープンに荷主と話し合える環境が整えば」「サプライチェーンの川上から川下までトータルで有効利用できるメリットが理解されれば普及する」との回答からは、供給網に携わるプレーヤーが一体となってRFIDの導入を推進する大切さが伝わる。

荷主に対しては、特にRFID導入に向けた認識合わせを強く求める意見が相次いだ。「荷主への価格転嫁が条件」「荷姿の種類を減らすことやそれぞれの荷主で共通仕様のサービスを導入してくれれば利用したい」「タグや運用機器が現行荷主から収受できる作業単価に見合うレベルまで下がること」「荷主企業から要請された時」――。RFIDの導入を判断には、荷主の意向が強く働いている。それがさらなる普及のヒントになりそうだ。

さらに、導入に踏み切る動機として「機能向上」を指摘する回答も目立った。「防水能力」「余計なものまで読み取らないなど、利用環境設定の容易さ」「サンプル機器を利用した実体験で利便性が確認できれば」などの声からも分かるとおり、波動の頻度が高く臨機応変な対応を求められる物流現場におけるRFIDの導入には技術面の検証とレベルアップが不可欠なのは間違いない。

RFIDタグの特性として、金属の影響を強く受けるため、通常は読み取りが極端に悪くなる。金属対応を施したタグは、その影響を受けにくいことから、金属面への貼り付けも可能だ。こうした機能面の向上は導入対象の拡大にもつながり、企業に導入を促す原動力にもなる。

導入に踏み切るにはもう一段階の「単価下落」が必要

「単価が下がれば導入を考える」。今回の調査では、RFIDの積極的な導入の壁になっている課題の一つとして、単価設定があることを明らかにした。それでは、タグの導入を検討できる単価水準とはどれくらいなのか。回答を求めたところ、「1円以下」(28%)▽「3円以下」(17.1%)▽「5円以下」(9.7%)となり、「5円」が導入検討の節目になっていることが分かった。金属に貼り付けられるタイプのRFIDタグの場合は、「10円以下」(38%)▽「20円以下」(3.7%)▽「30円以下」(6.7%)――となった。

実は、RFIDの単価水準は急速に下落している。数年前まではタグ1枚が100円から200円だったが、現在の実勢では10円程度にまで下がっているとみられる。金属対応タグはその10倍が相場だ。通常のRFIDタグ単価が5円のラインを下回るには、メーカー側のさらなる生産面や営業面、さらには物流をはじめとする産業界での普及率の向上が欠かせない。

最後に、RFIDタグの費用を誰が負担すべきか聞いた。「ケースバイケースだが基本的には荷主」(37.3%)▽「荷主」(28%)を合わせた全体の3分の2が、荷主に負担を求めるのが妥当であるとの意向を示した。荷物に装着するタグとして活用されることから、荷主が積極的に導入を進めてほしいとの物流事業者の意向もあるようだ。一方で、「物流を受託した事業者」(12%)、「ケースバイケースだが基本的には物流事業者」(6.7%)との回答にもあるように、物流事業者にも一定の負担を求める声もあった。

荷主との関係性やサプライチェーンにおける機能分担の観点から、物流事業者と荷主との最適なコスト配分が、RFIDの導入には必要である。それが物流事業者や荷主企業の「総意」と言えそうだ。

サプライチェーンに関与するプレーヤーの「総意」が普及を促す

今回のRFIDにかかるニーズ調査は、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進に向けた取り組みには、物流事業者や荷主企業をはじめとするサプライチェーンに関与するプレーヤーの共通の理解がなければ、業務効率化・最適化を実現するのは難しいという事実を浮き彫りにした。

新型コロナウイルス感染拡大は、EC(電子商取引)サービスの急速な浸透を促すなど、消費スタイルの多様化を一気に高めた。こうした社会の変革は物流需要の急速な増加を招き、人手不足やデジタル化の遅れなど物流現場の抱える構造的な課題が噴出した。

こうした物流現場における業務効率化・最適化を促す有効な方策として期待が集まるセンシング技術。RFIDは次世代の新しい物流ソリューションの代表格として、センシングの観点から現場業務の変革を促す旗手となる可能性を秘めている。社会に不可欠なインフラである物流の従事者が同じ認識を持つことが、現場をよりよい姿に変えていく力になる。

■物流センシング特集