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もし物流現場でRFIDが利用できたら/寄稿(下)

2022年2月15日 (火)

話題RFIDについてしたためてきた今回の連載。「RFIDを導入するためにやるべきことは」。その答えを探し求める旅でもあった。いよいよ最後を迎えるにあたって、ここはあえて「平凡」への回帰を提言としたい。先進機器の導入は、もちろん現場業務を支える取り組みとして一定の評価がなされるべきだろう。しかしながら、最後に行き着く終着駅は、「誰にでもできることを誰にもできぬほどやりきること」を見失わない地に足のついた取り組みであると信じたいからだ。(永田利紀)

もし物流現場でRFIDが利用できたら(上)

もし物流現場でRFIDが利用できたら(中)

「もしRFIDを導入するなら、まず何から始めればよいのか」という質問を私が受けたとする。その回答は質問者の事業内容や将来像によっていくつかの選択肢を伴った内容になるにしても、全社に共通して言えることがいくつか思い浮かぶ。事業者や業種別の掘り下げではなく、最大公約数的視点で絞り込んで書いてみたい。

まずやるべきは「統一コード」の導入、それが業務効率化の第一歩だ

1.商品マスターの整備
前章でも述べたが、RFID導入にあたり商品マスターの整備は必須項目だ。というよりこれができていなければ何も始まらない。以前から発言してきたとおり「猫も杓子もJANコード」でよいではないか、と今回も懲りずに記す。商品コードにこだわりや個性は不要。品番=商品コードである必要もない。

ひと昔前は「品番の大・中・小の区分の意味」を余すことなく頭に入れることを、商品知識のイロハのイとする企業は多かったが、コードのデジタル化が主流となっている物流現場では無用だ。作業場面によっては、商品知識が災いのもとになるのはよく知られたところ——品番は作業確認の際の記号となることはあっても、その文字群がもつ意味を理解する必要はない。あくまで物流現場の作業効率や精度を維持するためには、という前置きあっての理屈なので誤解なきよう願う。

(イメージ)

物流業務の支配者は商品マスターである。商品マスターは仕入から始まる全業務を貫く共通語であり、何人たりとも勝手に変えたり、加減してはならない。従って支配者たる商品マスターの程度が、支配下にある物流現場の出来を左右する。

簡素で汎用性の高い商品コードで統一されて、不規則配列がない商品マスターがあれば、その物流業務は世界中のあらゆる事業者との共通語として、さまざまなシステムや設備に接続や読み取りが可能となる。わが国では国際コードとしてJANが用意されているのだから、全員が主義主張をひっこめて採用すればよい。記号の羅列に主義主張など要らぬし、そんなところにこだわるのはエネルギーの浪費でしかない。

自社の商材が一般流通する・しない、という判断基準での導入可否もよろしくない。まさかJANの登録費用をケチっているとは思わないが、自前のユニークコードをわざわざ考えて設定する理と利はいったい何なのかがわからない。

ましてや過去からのしがらみや社内事情を整理整頓できぬまま、複数の商品コードが存在し、共通化するためにブラインドコードを設定して同一品ながら部門によって異なる多重コードを紐づけている。などと聞けば、「とっとと統一コードを導入すべきですよ」と言いたくなる。RFID導入にとどまらず、商品マスターの仕様はその事業者の「モノの始末」を如実に表す指標のようなものだ。

2.一気通貫の設計図とロードマップ作成
RFID導入は決まっているが、
・業務フロー改変に伴う手順変更
・データ整備やシステム改修もしくは新調
・現場レイアウトの再設計と設備新調
など、すべてを一気に行うのは予算的にも現場運用上も無理——というのが大多数の本音と察する。ならば、まずは入荷業務での運用開始がよいのではないだろうか。

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事実そのような事業者は少なくないし、相応の成果もみられるようだ。投資コストに対する結果の実数値などは開示されていないので、ここで説明することができないのが残念だ。加えて、入荷業務にRFIDの部分導入を行っている事業者の多くは、AGVなどの併用によって保管までの動線を自動化や半自動化しようと試みているので、RFIDのみの導入効果を切り離して評価することが難しい。

しかしながら保管や出荷業務ではRFIDの機能利用が行われていない事例が数多いと承知している。あくまで私個人の知る範囲での評論なので、海外や国内事業者の傾向としての信憑性を説くには足らないと悪しからず申し添える。ヒアリングした範囲では「一気通貫時の完成図はあるが、今は途中で一旦停止」という声がほとんどで、恐らくはピッキングや棚卸などの在庫数値の計上や出荷梱包完了前後の最終チェックに際しての設備をどのように構えるのか、が保留状態なのだと推測している。

倉庫建屋自体の適合性も要件として無視できないし、基本業務フローの変更と作業手順の対応を再設計するのは大作業である。それにもまして、絵に描かれた美味そうな餅を食らうには安からぬお代がかかる。どの事業者も足踏みしつつ、慎重に事を運ぶのは当然である。

3.総業務時間の再計算と人員配置・人員計画
RFID導入に限らず、業務合理化における一番の難問は人の問題だ。ご承知のとおり、省人化と人材活用の向上は同義であり、両輪として駆動しなければ現場の機能維持は叶わない。労働力減少の余波が最初に見舞うのは物流や生産の現場であるが、人員不足の高波から駆け足で逃げるように自動化の船に乗るのは失策の始まりとなってしまいかねない。

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省人化が不可避なら、システム依存・機械代替一辺倒ではなく、年齢性別を踏まえた生産性の維持をいかに獲得してゆくのかが経営層の考えるべき重要事項だ。つまり人の代わりではなく、人の補助や協業者としての設備や機械を想定しなければならない。人の適所介在は優れた機器の連携をはるかにしのぐ。苦肉の策たる人力と機械のハイブリッド現場こそが、実は理想的なバランス配分だった——というレポートが多くなる気がしてならない。

皮肉な矛盾だが、RFIDをはじめとする利器をすんなり導入できる現場とは、そのような設備機械やシステムなどなくても支障なく堅調に稼働しているというのが通例である。

自動化の予想図とロードマップに一番欠けているのは、はたして我々人間がAIや機械が合理的に稼働できるような条件を呑めるのか?という想像や考察に尽きる。顧客とのしがらみ、部門間の垣根障害や不協和、最新鋭・最先端が大好きな旗振り役のアナログ頭と義理人情や浪花節。進捗の妨げのほぼすべては社内事情…のような話は稀有でも特殊でもない。

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起承転結を立て板に水を流すように説いて、湯気が出るような熱量の社内プレゼンを成し遂げ、拍手喝采の評価を得たDX推進プランの責任者の多くが現場で遭遇する「現場の主たち」の冷ややかな沈黙のネグリジェンス(消極的行動による職務不履行)。

柔和な笑顔と穏やかな受答えの先に待ち受ける面従腹背による現場の改善機能不全は、単なる感情面の行き違いや理由なき反発を原因としているわけではない。否定や拒絶の源には、社内事情が生んだ捻じれや混乱の最終処理をしわ寄せされることへの憤怒や不条理への諦めや、無感情による自我や自尊心の自衛反応が存在している。

そのような哀しくやるせない内実は、内製型の自社物流が外部委託する時に判明するはずだが、その際にはにわかに信じがたい過去の顛末や放置が数多く明らかになる。内科的処置、体質改善を怠ったままの放置の先にあるものは、外科的荒業や取替や入替とならざる得ないが、大量の出血や違う部門の病まで露見したりして、会社の屋台骨を揺るがす事態にまで発展することも稀ながら起こる。

では転ばぬ先の杖として何が必要なのか。

結局、総業務量と処理時間の算定に基づいて、必要人員数の割り出しによる業務配分を定時・定点測定するのが、近道であり正道でもある。徹底して数値化して、解釈や感情などが入り込む隙間を埋めてしまうには、日々の測定や累計を継続することが必要条件の第一であるし、どの現場でも今日からできる。

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エクセルなどのソフトで簡易な日計表を作成して、業務に用いた数値を粛々と打ち込むだけで、数か月の後には揺るがぬ事実が明らかになるはずだ。情報の上流へのフィードバックを言葉で行うのではなく、数値による事実と規定からの乖離(かいり)や逸脱の頻度まで添えて定時作業とすれば、事態は勝手に改善や前提条件の見直しに向かう。知るべき人に知るべき情報をいかに届けるかを仕事の肝としてとらえていただきたいと願う。

——毎度同じ論調で恐縮だが、基本どおりにコツコツと現場の手入れをして欲しい。特別や独自という言葉を謳うのは耳に障りいい。しかし物流現場において、ユニークやオリジナルという単語は警報対象として常に上位にある。

差別化や独自性は商品開発や販売場面で追求すべきで、物流業務では無用と断言してはばからぬ。誰にでもできることを誰にもできぬほどやりきることが物流業務の真髄。

「偉大なる平凡」を最上と信じる私からの提言だ。(了)

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