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物流業界を二極化するデジタルデバイドの正体(上)

2022年3月30日 (水)

話題現状維持は退化と同じである──。危機感を持って新たな取り組みにチャレンジする物流事業者がいる一方で、今日と同じ明日が来ることを信じ、業務やビジネスの改善・変革など考えもしない物流事業者も少なくない。

トラックドライバー不足や「物流の2024年問題」など、出口の見えない物流危機に加え、自動運転・無人運転トラックや、倉庫ロボット、フィジカルインターネットなどの新たなテクノロジーも登場し、物流ビジネスは、少しづつだが確実に変わりつつある。

物流事業者間で二極化するデジタルデバイド(情報格差)をテーマに、前編となる本稿ではデジタルデバイドがもたらす課題について、後編ではデジタルデバイドに対する対策について考えていこう。

変わりゆく物流業界

先日、あるコンサルティングファームが主催する物流経営研究会に登壇する機会に恵まれた。大半の参加者は、現状に危機感を感じて参加されている人ばかりで、登壇した筆者にとっても、とても刺激的なひとときだった。

この日は「100年老舗企業が専門人材を活用した成功事例」というテーマで、筆者自身の経験をもとに話した。興味深かったのは、筆者の話を鵜呑みにするのではなく、参加者が良い意味での猜疑心を持っていたことである。

「この人の話は、うちの会社でも通用するのか」──。ただ漫然と話を聞くのではなく、我が事にすることを前提にセミナーに参加しているからこそ、猜疑心は生まれる。このように、時代の変化に貪欲についていこうとする物流事業者がいる一方で、「物流業界は変わらないよ」と断言する人もいる。

かつて筆者は、TMS(輸配送管理システム)の営業として働くサラリーマンだった。そのことを知る、ある運送会社社長から、こんな質問を受けたことがある。

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「配車システムって、ホントに必要かね」

いわく、「うちの会社では、オヤジの代から数えて50年以上、ベテラン配車担当者の勘と知恵に頼って配車を行ってきたんだよ。これまで50年間続けてきたものを、コンピューターに変える意味があるのかい?運送屋の仕事なんて、基本変わらないだろう?」と言うのだ。

この社長の考えは、根本的に間違っている。過去50年間、この社長の運送ビジネスは基本的に変わらなかったかもしれない。だがそれは、これからの5年10年が、過去50年間と同じであることの証明にはならない。

そして実際、物流ビジネスは、デジタルのチカラによって変貌し始めている。

デジタルデバイドとは?

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デジタルデバイド(情報格差)とは、WebやITなど、最新のデジタル技術を活用できる人と、そうでない人の間に生じる収入、社会的地位などの格差を指す。デジタルデバイドという言葉が正式な場で用いられたのは、1996年、当時のアメリカ副大統領アル・ゴアの演説であったと言われている。

当時、スマートフォンの走りだったといえる携帯情報端末のPDA(Personal Digital Assistantの略)やPCを使いこなす人々と、そうでない人々の間にある経済的・社会的格差が知られていた。さらにデジタルデバイドは、人々の間だけではなく、地域間(都市と地方など)、企業間、国家間など、さまざまな場で観察され始めていた。

「人々が技術を開発し知識を共有しないことは不平等や摩擦、不安を生むきっかけとなるため、それらの課題に一丸となって取り組まなければならない」──。当時のアメリカ大統領ビル・クリントンは、デジタルデバイドについて、このように警鐘を鳴らしている。

デジタルデバイドの不安は、残念ながら現実のものとなってしまった。現在デジタルデバイドは、物流業界でも見受けられる。ある荷主企業は、運送業務の遂行のため、EDI(電子データ交換)を構築した。取り引きしていた運送会社の反応は真っ二つに別れた。EDI歓迎派と、EDI困惑派である。EDI困惑派の運送会社は、EDIの効果や荷主の意向を否定したいわけではない。ただ、それまでファックスと電話でやり取りしていた運送依頼をEDIに切り替えることに困惑し、面倒くさいと感じたのだ。

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荷主は、そういったEDI困惑派のための用意もしていた。EDI歓迎派の下請けとなることで、これまで通りファックスと電話で運送依頼のやり取りができるという。しかも、EDI歓迎派に「わずかなEDI代行入力手数料を払うだけでOK」という話だ。これまでは同格(荷主からすれば一次請け)だった自分が、仲間であった運送会社の二次請けになることに対し、ためらいはある。だが、事務員に新たなEDIの使い方を学ばせるのも面倒だし、そもそもPCやシステムに苦手意識を持つ自分たちが、使いこなせるかどうかという不安もある。

手数料を支払うのは癪に障るが、これも仕方ないことだろう…。EDI困惑派の運送会社社長らは、このように考え、EDIを導入をしないことを決めた。

そして数年が経過した。EDI困惑派の運送会社に、荷主から直接連絡が入ることはない。すべてEDI歓迎派であった一次請け運送会社を介して連絡が入るようになった。ドライバーからは、荷主企業の物流センターに知らない運送会社が出入りするようになったという話を聞いた。調べたところ、同じ一次請け運送会社から仕事をもらっているという。

「いつの間にか、すげ替えが効く存在になってしまってたのか…!?」。焦っても、もはや時を戻すことはできない。

あのとき、少しだけ面倒だと思ってしまったことが、この状況を招いたのだ。

デジタル化を拒む者の末路

「付いていけないのはまだしも、置いていかれるのはマズイ」──これは、従業員50名ほどの中小運送会社幹部の言葉だ。

一般論として、大企業に比べ中小企業でさらにデジタルやITに苦手意識を持つケースが多い。だが、勘違いしないで欲しい。中小企業が、大企業と同じレベルの最新デジタルリテラシーを身に付ける必要はない。大切なのは、世の中で進むデジタル化の潮流に置いていかれないことだ。

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先のエピソードを例に考えよう。運送依頼のやり取りだけを行う必要最低限の機能と使い方さえマスターすれば「付いていくこと」はできたはずだ。しかし、EDIの利用を拒否した時点で、置いていかれてしまった。

デジタル化を嫌がる人は、顧客となる荷主企業や親請け物流企業らの身になって想像して欲しい。今や省力化や生産性向上の実現は、企業にとって喫緊の課題である。「いやぁ、うちはシステムなんて使えないから、ファックスと電話で連絡してくださいよ」などという運送会社のわがままを聞いている余裕はないのだ。

もちろん、ドライバー不足の今、安易に運送会社との取り引きを切ることは難しい。だが、代わりが見つかれば、取り引きを切り替えることに躊躇はしないだろう。

人手不足は、物流業界だけの課題ではない。少子高齢化による人口減少が進む日本企業は、デジタル化を進めて省力化や生産性向上を実現し、人手不足に対策を講じなければならない。

デジタル化は遠い未来の課題ではない

2022年3月8日、経済産業省および国土交通省は、フィジカルインターネットの社会実装に向けたロードマップを発表した。ロードマップでは、2040年に「フィジカルインターネット」の社会実装をゴールとしている。

フィジカルインターネットは、インターネットの仕組みを真似し、荷主、物流事業者、貨物などの諸情報をシェアリング(共有)とコネクト(連携)することでオープンな物流ネットワークを実現、究極に最適化された物流を目指す、共同輸送サービスの概念だ。

▲フィジカルインターネットのロードマップ(クリックで拡大、出所:経済産業省)

「まだ20年以上先の話じゃないか!?」──。そう思うのは勘違いである。既にスーパーマーケット、百貨店、建材・住宅設備といった、業界別のワーキンググループが立ち上がり、2030年のアクションプラン策定に向け、動き始めている。

「付いていけないのはまだしも、置いていかれるのはマズイ」──フィジカルインターネットに取り残されてしまえば、2040年を待たずして、運送業務の遂行に大きな支障が出る可能性がある。デジタルデバイドどころではない。まともな運送ビジネスが営めなくなる可能性だってある。

フィジカルインターネットは一例でしかない。デジタル化を拒む企業は、デジタル化を推し進める企業からすれば邪魔者でしかないのだ。だからデジタル化を拒む企業は、社会から取り残されていくし、仕事も選べなくなる。やがてデジタル化を拒んだ代償として、条件の厳しい仕事しか選べなくなっていくだろう。

後編となる次号では、デジタルデバイドに陥らないための対策を考えてみる。

物流業界を二極化するデジタルデバイドの正体(下)へ続く
■運送会社の管理業務DX特集