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運送事業者にとっても、経営見直しの契機「価格交渉促進月間」

中小企業庁が目指す、価格交渉が当たり前の日常

2024年3月12日 (火)

行政・団体中小企業庁では2021年9月から、毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と位置付け、中小企業の経営改善や賃上げに向けて、労務費や原材料費、燃料費などの価格上昇分を、適正な取引価格に転嫁できる環境作りを進めてきた。労使間の価格交渉が頻繁に行われる3月と9月を促進月間とすることで、発注側・受注側双方が適正な取引を見直す契機とし、終了後には受注側中小企業を対象にしたフォローアップ調査で、価格交渉とコストの価格転嫁の現状を検証している。

この3月は、大手企業の賃上げへ向けた前向きな回答のニュースも多く聞かれるようになった。コロナ禍からの日常への回帰を経て、デフレ脱却へ向けた日本経済の潮目も見えてきた。「これが、中小企業での賃上げへとつながっていくことが大切です。そのためにも、中小企業においての価格交渉への取り組みを今こそしっかりと意識していかなければなりません」と、中小企業庁の事業環境部取引課課長補佐(企画調整担当)の川森敬太氏は語る。

▲中小企業庁事業環境部取引課課長補佐(企画調整担当)の川森敬太氏

運送事業者は、そのほとんどが中小企業。さらには4月1日の働き方改革法、改正改善基準告示の施行を目前に控え、この3月は経営のあり方自体を見直す正念場となっている。荷主への価格交渉も経営見直しの大きなテーマであり、この促進月間を機に取り組みをより加速させることが求められる。

まずは価格交渉の入り口に立つこと、情報を収集すること

「まずは、価格交渉することが商取引において普通のことであると、サプライチェーンの全領域の関係者が意識を変えることが必要です。私たちも、こうした環境作りに積極的に取り組んでおり、この3月も皆さんに活用していただければと考えております」(川森氏)

▲価格交渉促進月間の啓発ポスター

価格交渉促進月間を設けたのも、経済界への適正な価格転嫁の必要性を周知、啓蒙する取り組みの一つであり、価格交渉と転嫁が定期的に行われる新しい取引慣行の定着を目指す。さらに、「価格交渉フォーマット」や、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表データを価格交渉の根拠資料とすることなど、価格交渉・転嫁に役立つ情報と必要な取り組みを「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費の指針)として整備した。

また、価格転嫁の促進を目的として下請中小企業振興法「振興基準」を改正。適切な取引対価の決定にあたっては、上述の労務費の指針に沿った行動を適切に取ること、原材料費やエネルギーコストの高騰があった場合には、適切なコスト増加分の全額転嫁を目指すことが追記された。振興基準は企業の取り組みにおける「指導・助言」の基準となるものであり、各業界の実情に応じた価格転嫁に向けた「自主行動計画」の策定と実行を求めるなど、より実効性の高い施策としてきた。

「これまでの商慣行や付き合い、また交渉するためのデータや材料がないという状況から、まだ価格交渉の入り口にさえ立てない、そんな受注事業者が意識を変えることから始めなくてはなりません。これまでの悪しき慣習ではなく、今後は価格交渉と転嫁が定期的に行われる新しい慣行に変えること。そのための労務費の指針も用意され、公表されている最低賃金の上昇率や、春季労使交渉の妥結額や上昇率などが価格交渉のファクトとしてお墨付きを得ています。まずはコミュニケーションをしっかり取るといったことから、交渉の場作りへとしっかりと取り組んでもらいたい」と川森氏は訴える。

運送事業者にとっては、トラックGメンの活動や、さらに「標準的な運賃」の改定、物流関連法の改正も進行しており、まさにこれまでにない価格交渉と転嫁の環境はでき上がった。今まずは交渉の入り口に立つという段階においては、労務費の指針をもとに取り組みをスタートすることも可能なはず。そのためにもしっかりと荷主、元請けとのコミュニケーションを取っておく準備にも取り掛からなければなるまい。

価格交渉にどこから取り組んで良いのかわからない、実際に取り組んでみたけど不適切な扱いだったなどの相談窓口も用意されている。「価格転嫁サポート窓口」や、経営改善相談のための各都道府県の「よろず支援拠点」、取引上の悩みを相談する「下請かけこみ寺」などの窓口があるということを、まず知ることが大事だ。「受注側の運送事業などの中小企業にとって必要なのは、情報収集だと思います。さまざまな社会的変化や、支援ツール、さらには相談窓口があることをしっかりと知って、遠慮なく活用してもらえればと思います」(川森氏)

また発注側となる荷主事業者、元請け事業者は、窓口担当者レベルではなく、経営レベルで適正な価格への是正に努めなくてはならない。また、コスト上昇分を反映させることについて、受注側へ交渉の場で明示的に協議することなく価格を据え置くことも、独占禁止法、下請法の「買いたたき」として処分の対象となることが、公正取引委員会の指針となっていることを覚えておくべきだろう。発注者側が自ら、定期的な価格協議の場を設け、適正な取引価格是正へ働きかけることが求められているのである。

フォローアップ調査でさらに進む価格転嫁、そのためにも協力を

価格交渉促進月間の終了後は、フォローアップ調査が行われ、昨年9月度調査の業種別の結果では、トラック運送事業の価格転嫁率は24.2%と、調査対象27業種中最下位。3月度調査に続く連続最下位である。まだまだ、荷主と運送事業者の意識の変容が必要なことは明らかだ。

フォローアップ調査の結果は、「下請中小企業から見た交渉・転嫁の状況」を整理した企業リストとしても公表される。取り組みにおける評価が良くない業者には、所管大臣による経営トップへの指導・助言も行われるのだから、発注業者にとっても、日頃から、当たり前の商習慣として価格交渉を意識することが必要になってくる。ことし1月に公表された23年9月度価格交渉のフォローアップ調査に基づく企業リストでは、物流企業として14社がリストアップされた全ての企業が、価格転嫁要請に全額回答を10点とした基準で、いずれも4点未満0点以上の低評価。22年調査で最低ランク0点未満の低評価を受け、社名公表されて改善の取り組みが求められた日本郵便も、今回1ランクアップの評価ながら、引き続き取り組みが必要であることは変わらない。

「労務費の割合が高い業種ほど、価格転嫁率は低い傾向にあり、運送事業者はその代表的な例です。それでも、昨年3月の調査から9月の調査で、転嫁率は19.4%から24.2%まで上昇、少しずつではあるが成果は出ており、意識も変わっているのを感じます。標準的な運賃や、物流法の改正などを後押しとして、息の長い取り組みを続けていくことが大事であり、取り組み次第では最も高い結果を残せる業種だとも言えます」(川森氏)

▲23年9月のフォローアップ調査結果から、トラック運送業界の直近6か月間の価格転嫁の状況(クリックで拡大、経済産業省)

今回も3月の交渉促進月間終了後、フォローアップ調査が行われる。価格交渉や価格転嫁の現状を確認し、次の取り組みへつなげる意味でも大事な調査だ。ただ、前回調査の回収率は12%と低調だ。具体的な取引先名の回答が必要となる調査だけに、ただ多忙だからだけではなく、発注元にバレたらどうしようといった意識も回答率が低い原因ではと川森氏は指摘する。

「リスト公表などは事業者の改善努力につながるものであり、それだけにたくさんの方に調査に協力してもらうことで調査の精度を上げることが大事です。データの取り扱いにはもちろん細心の注意を払っていますので、ぜひともご協力ください。また、価格交渉、価格転嫁に前向きな企業をしっかりと評価してあげることも、さらなる努力を促す情報です。まずは、3月にしっかりと価格交渉に取り組んでもらい、その後のフォローアップ調査で、皆さんの声を改革に生かしていただければと思います」(川森氏)

物流企業14社の価格転嫁状況は低評価、中企庁調査

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