国際2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃から1週間。ホルムズ海峡の商業船舶交通はほぼ完全に止まった。イランは「封鎖していない」と繰り返すが、船への攻撃は止まらず、保険は打ち切られ、通る船がいない。公式に閉じていない海峡が、事実上閉じている。(編集長・赤澤裕介)
何が起きているのか。3月6日時点の24時間で海峡を通過した船はわずか2隻。いずれも貨物船で、石油タンカーはゼロだった。通常は1日138隻前後が行き来する。90%超の激減だ。JMIC(多国籍海事情報機関)は「商業交通のほぼ完全な一時停止」と表現した。ペルシャ湾の内外では数百隻のタンカーが停泊したまま動けない。世界の石油海上輸送の20%、日量2000万バレル前後がこの海峡を通る。そのパイプが詰まっている。
「封鎖していない」のに、なぜ船が通れないのか
イラン軍報道官アボルファズル・シェカルチ准将は3月6日、国営テレビで「海峡を封鎖しておらず、今後もしない」と述べた。7日にはIRGC(イラン革命防衛隊)幹部やイラン外務省副大臣も同様の発言を繰り返した。
ところがIRGCは3月2日に海峡の「閉鎖」を宣言済みで、実際に2月28日以降少なくとも8隻を攻撃している。3月6日にはコンテナ船サフィーン・プレステージの救援に向かったタグボートがミサイルで攻撃され、国際海事機関(IMO)によると少なくとも4人が死亡、3人が重傷。7日にはタンカー2隻(プリマ、ルイーズP)へのドローン攻撃をIRGCが発表した。救援船すら標的になる状況だ。
ここが核心だ。イランは「封鎖」の看板を掲げていないが、攻撃と脅迫で保険を殺し、保険がなければ船は出せない。P&Iクラブ国際グループ(世界の外航船舶の90%を付保)加盟社は戦争リスクカバーの72時間キャンセル通知を出し、3月5日以降、ホルムズ通過船舶への保険が事実上消滅した。船主にとっては、数百万ドルの貨物と乗組員の命を無保険で賭ける選択肢はない。
なぜイランは「非封鎖」を主張するのか。湾岸産油国との関係維持だ。完全封鎖を宣言すれば、サウジアラビアやUAE、クウェートの原油輸出も止まり、経済的つながりが破綻する。だから看板は掲げず、現場で圧力をかける。結果として「封鎖宣言なき事実上の封鎖」が成立している。
なお、一部の船舶はAIS(船舶自動識別装置)を切って通過を試みている。バルクキャリアのアイアン・メイデン号は「CHINA OWNER」とAIS上に表示して海峡を抜けた。LPG(液化石油ガス)タンカーのボアジチ号は「ムスリム所有・トルコ運航」と発信した。イランの攻撃対象から外れるための自衛手段だが、これが常態化すれば海峡の安全管理そのものが崩れる。
コンテナ船も大打撃を受けている。船舶追跡データ分析企業クプラーの3月4日時点の分析では、MSC、APモラー・マースク、ハパックロイド、オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)、CMA CGMの主要キャリアの船舶がペルシャ湾内に閉じ込められ、アジア・アフリカ・欧州向けの次港に向かえない状態だ。ハパックロイドは戦争リスクサーチャージ(WRS)として20フィートコンテナあたり1500ドル、リーファー・特殊機器は1本あたり3500ドルを課した。紅海経由の航路復帰計画も棚上げになっている。
エネルギー市場への波及
ブレント原油先物は3月7日に92ドル台後半まで急騰し、週間で21%超の上昇を記録した。危機前の67ドル前後から30%以上の上昇で、一部アナリストは100ドル超を予想する。米国のガソリン小売価格は1ガロン3.19ドルを超え、1週間で22セント上がった。
LNG(液化天然ガス)市場はさらに深刻だ。カタールは3月2日、イランのドローン攻撃を受けてラスラファン工業都市のLNG生産を停止し、フォースマジュール(不可抗力条項)を宣言した。世界のLNG供給の20%を占めるカタールの生産停止は、欧州ガス先物を50%近く押し上げた。3月6日にはLNGタンカー1隻が積載を再開したとの追跡データもあるが、ホルムズ海峡を通過できなければ出荷はできない。カタールのサード・アルカービ・エネルギー相は「戦争が続けばほかの湾岸産油国もフォースマジュールに追い込まれる。世界経済を崩壊させる」と警告した。
日本への影響
原油輸入の95%を中東に依存し、その70%がホルムズ海峡を通過する日本にとって、影響は直接的だ。高市早苗首相は3月2日の衆院予算委員会で、国家備蓄146日分、民間備蓄101日分、産油国共同備蓄7日分を合わせた254日分の備蓄があると説明した。ただし精製各社はすでに政府に戦略備蓄の放出を要請しており、少なくとも大手精製1社は3月積みのガソリン・ジェット燃料・軽油の輸出を中止して国内供給を優先する体制に切り替えた。
備蓄は量の面では時間稼ぎになるが、価格上昇からは守れない。原油が100ドルに達した場合、日本のGDPを0.3-0.6%押し下げるとの分析もある。
打開のカギは保険と護衛
米国はDFC(米国際開発金融公社)を通じた200億ドルの再保険プログラムを3月6日に発表した。船体・機械と貨物を対象に、米中央軍(CENTCOM)と連携して運用する。トランプ大統領は海軍によるタンカーエスコートも「必要な場合に」開始すると表明している。
ただし、再保険の適用基準の詳細は未公表で、実際に利用して通過した船舶はまだない。業界からは「保険だけでは交通再開は難しい。安全が確保されない限り、慎重な姿勢は変わらない」との声が出ている。IRGCのアリモハマド・ナイニ報道官は7日、「米軍の来航を待っている」と述べ、エスコート船団にも対抗する姿勢を見せた。
中国はイランとの交渉で自国船舶の安全通過を模索しているが、具体的成果は確認されていない。
海も空も塞がっている。紅海ではフーシ派が2月28日に攻撃再開を宣言し、スエズ運河経由の迂回路も使えない。湾岸地域の空域閉鎖でカタール航空は運航を停止しており、航空貨物も動かない。アジア向け海上輸送は喜望峰回りを余儀なくされ、日数は10-14日延長、コストは50-100%増だ。ホルムズとバブ・エルマンデブの二重封鎖は、グローバルサプライチェーンにとって前例のない同時リスクとなっている。
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