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封鎖1か月、物流を襲う3つの波

2026年3月30日 (月)

行政・団体ホルムズ海峡の事実上の封鎖から1か月が過ぎた。直近数日で、物流の現場に響く新事実が相次いだ。中国向け安全通航保証の実効性にも疑問符が付き、韓国はナフサ輸出を原則禁止。住宅用断熱材は40%値上げが通知され、石油由来資材のコスト転嫁が内需物流にまで波及し始めた。一方でホルムズを通らないルートの原油が初めて日本に届き、ペルシャ湾待機の日本人船員4人が封鎖後初めて下船した。物流の現場には時間差で3つの波が押し寄せている。(編集長・赤澤裕介)

▲ホルムズ封鎖1か月で顕在化した主な出来事(クリックで拡大)

第1の波は燃料だ。ドバイ原油のスポット価格(5月渡し)は30日午前、1バレル132.40ドルと前週末比12.50ドル上昇した。本誌が28日に報じた通り、ドバイ原油は先週169.75ドルの過去最高値を記録した後、反落と急騰を繰り返している。132ドルは最高値からは下がったが、プラッツ・ドバイ指標はホルムズ通過を要する銘柄についてMOC(マーケット・オン・クローズ)プロセスでの受け渡し指定が停止され、宣言可能な銘柄はムルバンとオマーンのみとなっている。指標としての代表性が大きく低下しており、薄い取引で価格が大きく動きやすい。日本の精製業者にとって調達コストの見積もりが安定しない状態だ。プラッツ自身は取材に対し、MOC方式は「堅固で透明」と説明しているが、16日には指標方法論の見直しに向けた意見募集を開始した。

WTI先物は27日のNYMEX終値で99.64ドル、取引時間中に100ドルを突破した。ブレント先物は同日終値112.57ドル。

▲主要原油指標の価格動向※危機前価格は2月下旬の概数。各指標とも危機前比で5-9割台の上昇となっている。(クリックで拡大)

ドバイとブレントの乖離は依然20ドル前後あり、本誌が28日に詳報した通り、元売りは1リットルあたり64円の赤字で卸している状態(逆ざや)が続く。海外通信社が確認した文書によると、経済産業省はガソリン価格のベンチマークをドバイからブレントへ切り替えるよう元売りに求めた。軽油については行政指導の対象範囲が公開情報では確認できないが、本誌試算ではガソリンと同様にブレント基準に移行した場合、軽油でも同規模の逆ざやが生じる。軽油はガソリンと課税体系が異なり、軽油引取税は請求書などで明確に区分される場合には消費税の課税標準に含まれないが、この逆ざやが限界に達すれば、補助金があっても軽油の実勢価格が動く。詳細は本誌28日記事で報じている。

燃料の問題は「価格」から「量」に移りつつある。石油連盟の週報(BPCD基準の実稼働率)によると、国内製油所の常圧蒸留装置稼働率は危機前の86.2%(2月28日週)から3月14日週に72.5%まで落ち込んだ。直近の3月21日週は76.4%とやや回復したが、備蓄放出の原油が製油所に入り始めた効果とみられ、危機前の水準には遠い。BPSD(バレル・パー・ストリーム・デイ)基準では同じ週が69.1%、21日週が73.3%で、いずれの基準でも低下傾向は同じだ。本誌が26日に報じた通り、中国地方では元売り系列の販社からインタンク(自家給油タンク)向けの供給を半減された運送会社が出ている。全国平均では不足していなくても、自社の調達圏内で流通量が細る事態はすでに起きている。

28日、ホルムズ海峡を経由しない代替ルートの原油タンカーが初めて日本に到着した。サウジアラビア紅海側のヤンブー港からパイプライン経由で積み出された原油で、太陽石油四国事業所(愛媛県今治市)で搬入が始まった。4月5日にはUAEフジャイラ港経由のタンカーも届く。ただしサウジアラビアのパイプライン容量には限りがあり、本誌が26日に指摘した通り、代替ルートは「到着したかどうか」ではなく「継続性と量」で評価する必要がある。

第2の波は物流資材と建設資材のコスト転嫁だ。カネカは住宅用断熱材の主要製品「押出法ポリスチレンフォーム」を4月1日出荷分から40%値上げすると発表した。中東情勢による原油・石油製品の供給不安定を理由としている。住設各社では既公表の価格改定も重なり、建材コスト全体の上昇圧力が強まっている。建設資材輸送を担う物流事業者にとって、荷主側のコスト構造が変わることは運賃交渉に直結する。

さらに3月26日深夜、韓国産業通商資源省がナフサ輸出の原則禁止を発動した(5か月間、例外は大臣承認)。ナフサは原油から作る化学原料で、包装フィルムや樹脂パレットのもとになるポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)はナフサから製造される。日本はエチレン原料の95%をナフサに依存し、その4割超を中東から調達していたが、韓国からの調達ルートも大幅に制約された。本誌が既報で伝えてきたナフサ在庫20日分の問題が一段と深刻化する。国内エチレン生産拠点12基のうち6基がすでに減産に入っており、三井化学とプライムポリマーはPE・PPを4月1日納入分から1キロあたり90円以上値上げすると通知した。包装フィルムや樹脂パレットの供給縮小が4月以降の物流センターに届く。

第3の波は、荷物そのものの減少だ。トヨタ自動車は中東向け輸出車の生産を3月末までに2万台、4月にさらに2万4000台削減する。中東には月3万台前後を輸出しており、3-4月の減産計4万4000台は同地域向け通常量の7割強に相当する。完成車輸送と部品物流に直接響く。日本と韓国から中東向けの中古車輸出でも、港湾混雑や迂回に伴うキャンセル、追加保証金の要求が広がっている。完成車と中古車の両面で、荷動きの減少や遅延が表面化し始めた。

海峡の状況、足元で悪化

通航再開の見通しは、むしろ後退した。

27日、COSCO(中国遠洋海運集団)運航の中国コンテナ船2隻がホルムズ海峡の通過を試みたが、引き返した。船舶追跡サービスKplerのデータで確認されている。イランが中国など「友好国」に安全通航を保証した直後の出来事で、Kplerのアナリストは安全な通過が保証できなかったと分析した。安全通航保証の実効性に疑問符が付いた形で、選択的通航の「選択」が機能しているかどうか自体に疑問が生じている。

同日マイアミの投資フォーラムで、ドナルド・トランプ米大統領がホルムズ海峡の開放を要求し、イランは「すでに敗北した」と主張した。イラン国営メディアによると、直後にIRGC(イラン革命防衛隊)が外国籍コンテナ船3隻を警告・引き返させた。IRGCは「敵国関連港湾と取引する船舶は排除する」と声明を出しており、本誌が28日に報じた通航料の制度化に加え、排除対象の範囲が拡大している。

▲G7外相会合の様子(出所:外務省)

G7外相会合は26-27日にパリ近郊で開催され、共同声明でホルムズ海峡の「安全かつ通航料なしの航行の自由を恒久的に回復する絶対的な必要性」を明記した。茂木敏充外相は「G7の間で基本的なスタンスに齟齬はなかった」と述べた。マルコ・ルビオ米国務長官はイランの通航料徴収に対抗する連合の構築を呼びかけたが、イランへの直接的な非難は声明に含まれなかった。外交圧力は強まっているが、IRGCの通行管理に具体的な変化をもたらす手段は示されていない。

日本政府は有志連合の拡大に注力している。高市早苗首相はフィリピン、マレーシア、マーシャル諸島の首脳に多国間共同声明への参加を要請し、29-31日に来日するインドネシアのプラボウォ・スビアント大統領にも直接働きかける。一方、自衛隊の艦船派遣は法的制約を理由に否定した。高市首相は29日、X(エックス)で「落ち着いた対応を」と呼びかけた。

ペルシャ湾で待機していた日本人船員24人のうち4人が30日未明に下船した。金子恭之国土交通相が明らかにした。国内メディア報道によると、封鎖後初めての下船事例となる。残る20人と日本関係船舶45隻の安全確保が引き続き課題だ。

本誌が3月15日に指摘した通航再開の3条件、保険、機雷、護衛はいずれも満たされていない。中国船の引き返しとIRGCの排除拡大は、この3条件以前に、IRGCが安定的に船舶を通す意思を示せていないことを意味する。

物流事業者が今週確認すべきことは3点ある。

1つ目は、燃料サーチャージの基準と荷主への説明準備。本誌が28日に報じた通り、経産省は元売りに対し、ガソリン価格設定でブレントを使うよう求めた。軽油への適用範囲は公開情報では確認できないが、本誌試算ではガソリンと同様の指標変更が行われた場合、元売りが1リットル64円の赤字を抱える構造になる。この構造がいつ崩れるかを前提に準備すべきだ。「なぜ補助金があるのに値上がりするのか」という荷主の疑問に答える材料を今のうちに整理しておく必要がある。

2つ目は、包装資材、樹脂パレットの在庫と発注リードタイム。韓国のナフサ原則禁輸で4月以降の供給縮小が加速する。PE・PPの90円/キロ値上げをコスト計算に織り込んでいるか。

3つ目は、建設資材輸送の荷主との運賃交渉。断熱材40%値上げの波及で荷主側のコスト構造が変わる以上、輸送コストの転嫁を先送りすべきではない。

◆ この記事をより深く理解するために ◆

・経産省のガソリン価格ベンチマーク変更と、軽油への波及を本誌が試算した記事。元売りの仕入れはドバイ連動のままで、指標変更が軽油に及んだ場合の逆ざや構造を詳報している。
「軽油卸値ブレントに変更、元売りに64円逆ざや」(3月28日)

・プラッツ・ドバイのMOCで宣言可能な銘柄がムルバンとオマーンのみとなった経緯と、アジアの精製業者がOSP指標変更を要請した背景を詳報した。プラッツ自身はMOC方式の堅固性を主張している。
「ドバイ指標が機能不全、原油価格体系が再編」(3月28日)

・IRGCの通行管理が法制化に向かう経緯と通航料の実態。G7声明が「通航料なし」を明記した背景がわかる。
「ホルムズ通行に200万ドル、イランが制度化」(3月28日)

・ナフサ不足がどの産業に波及するかを製造業中分類で網羅した。韓国の原則禁輸でこの連鎖がさらに加速する。
「備蓄放出でも届かないナフサ、21中分類に連鎖」(3月27日)

・備蓄放出850万キロリットルの全体像と、「備蓄日数と供給能力は別」という核心。軽油の地域偏在リスクもここで指摘している。
「国家備蓄原油、きょう放出開始」(3月26日)

・保険、機雷、護衛の3条件。中国船の引き返しは、この3条件以前の問題が残っていることを示した。
「海峡再開遠く、物流を止める3つの壁」(3月15日)

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