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三菱食品・田村CLO、空気輸送を共同物流で埋める

2026年5月26日 (火)
The CLO #02 三菱食品 田村幸士

話題日清食品・深井雅裕CLOが先行企業の合意形成と便益配分の制度設計を問うたのに対し、三菱食品の田村幸士CLOは、より民間実装に近い答えを示す。卸が持つ商流、在庫、受発注、物流拠点の情報を使い、空いているトラック、倉庫、人員をどう埋めるか。「営業用のトラックですら6割空気を運んでいる」──田村氏は、空きスペースや非稼働時間を含む物流アセットの低稼働をそう表現する。CLO改革の本丸は、肩書や計画書ではなく、物流アセットの稼働率を100%に近づけることにある。

本誌の連続インタビュー「The CLO サプライチェーンの変革者たち」で同氏に取材し、CLO制度と経営課題の切り分け、共同配送コンソーシアム「CODE」とPALTACとの卸連携、ゲインシェアと行政関与のあり方を聞いた。(編集長・赤澤裕介)

田村氏は88年慶大法卒で三菱商事入社。国土交通省航空物流室長、三菱商事ロジスティクス社長、三菱商事物流事業本部長を経て、20年6月に三菱食品取締役、21年4月から取締役常務執行役員SCM統括。25年4月、新設のCLOに就任した。三菱食品はフルエリア・フルカテゴリー・フルチャネルを掲げ、加工食品、低温食品、酒類、菓子の4カテゴリーを全国規模に展開する。25年4月には、物流事業を会社分割でベスト・ロジスティクス・パートナーズ(BLP)に承継し、同社が事業を開始した。30年度に物流事業売上高2400億円を掲げる。

CLO義務より稼働率改革

CLO制度に対する田村氏の整理は明快だ。「法律の義務として物流統括管理者を置き、中長期計画を報告する仕事」と、「法律があろうとなかろうと24年問題に代表される物流課題を経営的に解決しなければいけない要請」は別だ、と区分する。制度ができたからといって物流課題が自動的に解決するわけではないため、「各企業は法律があろうとなかろうと、やらなければいけないことをやるべきだ」。特定荷主指定の基準である年間9万トンについても、「9万トンだろうと8万トンだろうと関係なく、会社にとってやらなければいけないことはやるべきだ」と話す。

卸の社会的存在意義について田村氏は「物流機能だけではない」と強調する。時間と空間を調整して上流と下流をつなぐサプライチェーン全体の調整役、最適化の役割が本質で、流通加工、決済、在庫管理、情報流のコントロールなど多様な機能を担うが、時代の変遷で果たすべき役割は変わる。大規模小売の専用センター化で汎用在庫の倉出しボリュームが縮小する一方、日本の食品メーカーの規模が比較的小さく分散していること、出口がスーパー、コンビニから外食、ドラッグストア、Eコマースへと多様化していることを挙げ、卸が果たすべき機能はなお厚いとした。

三菱食品ではCLOの権限を別途規定せず、SCM統括の権限範囲で運用する。社長直轄のもと、ロジスティクス本部(仕組みづくり、デジタル化、子会社管理)、BLP(センター運営管理、輸送手配の実務)に加え、26年4月の組織改編によりSCMサポート本部(全国の受発注機能、在庫管理)の体制を整え、多層的な運営体制を構築した。BLPはトラックを持たない3PL型を志向しつつドライバー不足の現実から子会社で数百台を保有する。通常の3PLと異なる点として田村氏は、「親会社の貨物をベースカーゴで持っていること」と、「卸が持つ商流機能──在庫コントロール、発注、受注のオペレーション――をサービスとして取り込めていること」を挙げた。中小メーカー向けの受注代行も始まっており、別会社化したことで「これまで商流ではなかなかお付き合いができなかった小売から、物流コンサルティングだけを依頼したいという声」がかかるようになったという。

田村氏が荷主の物流部隊の役割を語る言葉は鋭い。「物流コストを昨年より3%下げるというタスクは、もうあまり意味がなくなってきている」。荷主にできるのはトラックのスペース、倉庫、作業員、マテハンの稼働率を100%に近づけることに尽きる。営業用トラックでさえ多くの空きスペースや非稼働時間を抱えている現状を「6割空気を運んでいる」と表現し、自社だけでは埋めきれない以上、他の荷主と組むしかないとした。

水平連携と個別実装で空きアセットを組む

組み合わせを人間の手で探すには相手が多すぎる。「データ、デジタルの力を使って実現していく以外にない」──田村氏が共同物流を語る軸は、データ駆動の水平連携と、商流連動の垂直連携の使い分けにある。

水平連携の旗艦が、4月21日に発足した共同配送コンソーシアム「CODE」(Cargo Owners’ Data-driven Ecosystem)である。三菱食品と花王が幹事を務め、食品・日用品・医薬品・出版にまたがる9社が参画する。先駆事例として三菱食品と花王の間で西東京、北海道など一部地域の定期共同配送を実施し、年間運行台数約300台相当、年間CO2排出量10トンの削減効果を得た。CODEは「マッチングツール」と「データ基盤」の整備に主眼を置き、取引条件などの複雑な情報を持ち込まずに、トラックの空き時間や復路の組み合わせから始める。混載は次のステージに位置づける。9社で止めるつもりはなく、将来的に幹事の関与しない多発的な共同物流が発生することも「十分あり得る」とした。田村氏は、複数社・複数拠点で物流網を組むことは、効率化だけでなくリスク分散にも資すると位置づける。

個別実装の代表例が、PALTACとの食品・日用品物流網の連携と、メーカー・卸間のデータ連携である。PALTACはCODEにも参加する一方、三菱食品とは個別に食品・日用品の物流網を融合する協業も進めている。田村氏は前者を業界横断の水平連携、後者を納品先・拠点・商流を含む個別最適化の実装例として整理する。三菱食品の配送車両は1日7600台、PALTACが1500台で合計9000台規模。納品先のドラッグストアやスーパーが食品と日用品の両方を扱う以上、「むしろ混載メリットが出やすい」。26年春から栃木・北関東でPALTACの日用品オペレーションを三菱食品のセンターで請け負う形も始まった。25年10月には亀田製菓子会社の新潟輸送と群馬県邑楽郡板倉町で菓子共同物流センターを稼働させ、メーカー物流と卸物流を同一建屋に集約した。年間で配送車両を300台、CO2排出量を14トン削減する見込みだ。

田村氏が垂直連携の文脈に位置づけるのが、5月11日に発表した日清食品との協業である。AI発注モデルにより配送に必要なトラック台数を30%削減可能と試算し、特売発注予定データの事前連携では日清食品の在庫調整に関する業務時間を月200時間削減した。田村氏は「日清さんと発注のやりとりをしなくていい。最初から情報に基づいて送り込みで荷物が入ってくる。まとめ発注になるからトラックの数も減る」と説明する。深井CLOが本連載で、着荷主を起点に水平連携と垂直連携を組み合わせる方向へ進んでいると語った流れに、卸側から「送り込み・まとめ発注」で接続する構図である。

この連携を支える発想は、社内組織にも及ぶ。三菱食品は数年前まで加工食品、低温食品、酒類、菓子と事業本部が分かれていたが、エリア・お客さま単位の組織に改めた。「脱カテゴリー共通化がキーワード」。常温帯であれば、加工食品・酒類・菓子をどう一緒に運ぶか、食品と日用品をどう相乗りさせるかへ問題設定を変える。「このアセットはこれにしか使えない、このトラックはこれしか運べないというのは人間の思い込み。それを排除しない限り部分最適の結果、稼働率は上がらない」。田村氏の問題意識は、まさにその思い込みを崩し、6割の空きを埋めることにある。

もっとも、空きを埋めるには、まず空きが見えていなければならない。田村氏は、センターから出る車両に何トン、何立米載っているかを正確に把握する仕組みはなお未完成だとし、積載率の可視化を最大の宿題に挙げる。

便益配分は民間交渉、次の焦点は店舗内物流

便益配分(ゲインシェア)について田村氏は、深井CLOが便益配分における行政のルールメイキングを求めたのに対し、卸の立場から、民間同士の交渉余地を重視する。「これは民間同士の話。行政の関与は望ましくない」。プロフィットシェアを50対50で分けるか70対30で分けるかは「普通の商取引でよくあること、普通に交渉すればいい」。一律のルール化は「それに縛られてしまう」と警戒する。深井CLOがファーストペンギンの「やったもん負け」を制度で防ぐ視点を打ち出したのに対し、田村CLOは個別の組み合わせごとの収益再配分を民間同士で動かす視点に立つ。これはメーカー側と卸側の立場差の表れでもある。ただし、田村氏が行政に期待する領域はある。法律間・省庁間の重複感の解消だ。

卸CLOが着荷主CLOに最も期待することとして、田村氏が挙げたのは店舗内物流の最適化である。「搬入口に届けるところまではやっているが、搬入口から品出しをして棚に並べるところまでは、よく理解できていない」。カゴ車などの物流機器も現場ごとに規格がそろわず、「いくら上流でパレットを揃えましょうと言っても、最後はバラバラ」と話す。サプライチェーン最適化の最終領域は着荷主側との対話だとし、本連載の次回取材対象として、物流畑出身ではない「大変クリアカットな」CLOを推薦した。

CLO義務化初年度に問われるのは、9万トンの線引きでも肩書でもない。日清食品・深井CLOが先行企業による合意形成と便益配分の制度設計を問うたのに対し、三菱食品の田村CLOは、卸が持つ商流・物流・在庫情報を使い、空いているトラック、倉庫、作業力を民間同士で埋めていく実装論を示した。空気を運ぶ6割を、誰と、どのデータで、どう埋めるかである。

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◆ この記事をより深く理解するために ◆

日清食品深井CLO、改革は意志ある先行企業から(2026年4月30日)──本連載第1回。便益配分の制度設計と着荷主起点を論じた、本稿の対比軸となる記事。

日清・三菱食品、CLO主導で供給網改革(2026年5月11日)──本誌解説。両社協業をデータ連携・意思決定・便益配分の3層で整理。

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