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24年問題や新制度対応、トラック業界再生の処方箋

2026年7月10日 (金)

▲トラック運送業界の大転換—「2024年問題」から考える次代の生き残り戦略—(森田富士夫著、白桃書房刊)

ロジスティクス2024年問題の出来にはじまり、ここ数年で各種法制度が改正され、物流を巡る環境は大きな転換点を迎えている。ベテラン物流ジャーナリスト、森田富士夫氏による新刊「トラック運送業界の大転換 -『2024年問題』から考える次代の生き残り戦略-」(白桃書房刊)は、いわばこの時代を乗り切るためのガイドブックと言える。

著者の森田富士夫氏は、長年にわたり物流の現場を見つめ続けてきたジャーナリストだ。本書は、2026年6月という激動の渦中において、これまでに施行された各種法改正や、今後予定されている新たな規制までを網羅・体系化し、単なる法律の解説本を超えた「実務者たちの生存戦略」として提示している。

本書がまず喝破するのは、今回の構造改革が1990年の物流2法による規制緩和以来の歴史的転換期であるということ、そして何より運送事業者だけでなく、荷主企業をも直接巻き込んでいるという決定的な事実だ。

これまでは運送会社側の問題として片付けられがちだったドライバーの長時間労働や低賃金に対し、国は強力な法規制の網を荷主側にも広げた。新たに創設された物流統括責任者(CLO)の選任・届出制度に対し、著者は実態が伴わなければただの「物流謝罪責任者」になりかねないと手厳しい。この指摘は、コスト削減のみを追求し、物流の持続可能性を軽視してきた荷主企業に対する極めて重い警告である。

現在、多くの物流事業者にとって興味深く読むことができるパートの1つは、第3章で展開される「なぜ標準的運賃から適正原価にシフトするのか」という部分だろう。

18年に創設され、24年の法改正で引き上げ・継続された「標準的運賃」は、確かに一定の成果を上げた。全日本トラック協会のデータ(2026年版経営分析報告書)によれば、1社あたりの運送収入が22年度の2億6400万円から24年度には2億8521万5000円へと確実に増加した事実が示されている。

しかし、著者は標準的運賃だけでは他産業との深刻な賃金格差は埋まらないと断じる。24年時点で、大型トラックドライバーの換算時給は全産業平均より587円も低く、中小型トラックドライバーにいたっては765円もの開きがある。この格差を埋め、真に持続可能な物流を構築するための「本丸」こそが、法的な拘束力と直結した「適正原価」なのだ。

25年6月改正の体制整備推進法等において、この適正原価を下回る額での委託・受託は厳しく制限される。さらに驚くべきは、これが5年ごとの事業許可更新制の可否判断基準に直接組み込まれた点だ。運行費や安全経費、さらには全産業平均を踏まえた人件費など8項目からなる適正原価を算出・順守できない事業者は、文字通り市場から退場を迫られる。国交省が全事業者を対象に実施した膨大な実態調査をベースに告示されるこの基準は、安売りで生き延びてきた不適格な事業者を排除し、健全な適正競争へと業界を強制的に導くための荒療治だと言えそうだ。

なぜ、これほどの強硬な手段が必要なのか。著者は運送業が抱える根深い構造的特徴に切り込む。製造業であれば多層構造下でも納品された物の品質チェックが可能だが、運送業の提供するサービスは生産と消費が同時に発生するという性質を持つため、事前チェックができない。そのため、不適格な事業者が過労運転や過積載などのコンプライアンス違反をして運賃を安売りしても、事故という最悪の結果が起きるまで「不良品」が発覚しなかったのだ。

これまでは一度取得すれば取り消されない資格に過ぎなかった事業許可が、今後は5年ごとに資質を問われる更新制へと舵を切る。更新時の審査基準は、単なる法令遵守という最低限のラインに留まらない。著者は、全産業平均を踏まえた人件費や安全対策のための経費が実際に支払われ、確保されているかという定量的かつ実質的な経営実態こそが、可否を分ける決定的な要素になると予測する。安売りしてドライバーを低賃金で酷使し、なんとか黒字に見せかけているような事業者は、どれだけペーパーコンプライアンスを整えようとも、更新の網にかかって「否」を突きつけられる。これは、業界の自浄作用を促すための行政による苦渋の決断なのだ。

著者の分析の真骨頂は、適正原価と更新制が導入された後の市場の動きを「10段階の原価シミュレーション」で視覚化したことにある。

仮に国が示す適正原価を「7」に設定した場合、自社の原価がそれを上回る8-10の非効率な事業者は、低い運賃しか得られず、急速に赤字化して市場からの撤退を余儀なくされる。一方で、自社努力により原価を低く抑えられている優良事業者は、適正原価「7」の運賃を受け取ることで、その差額が正当な利益として手元に残る。

著者はここで、原価の低い事業者が努力して生み出した利益を、単なる安売りの原資に逆戻りさせてはならないと強く釘を刺す。この余剰利益こそ、全産業平均に負けないドライバーのさらなる賃上げや、安全管理の徹底、より早いスピードでの設備投資による拡大再生産、生産性向上や改善基準告示などの法令順守を科学的に示すためのDX(デジタルトランスフォーメーション)への投資へと循環させるべきである。これによって、本当の意味でのサービスの質の競争に業界全体のステージが上がると説く。DXを単に価格を下げる道具と勘違いしていた多くの事業者に対し、それが法令を遵守している証拠を蓄積・提示するための防衛ツールであるとする指摘は極めて鋭い。

人口減少に伴う国内市場の縮小、地政学的リスクによる燃料高騰など、現在の物流を取り巻く状況は極めてシビアだ。毎年、鳥取県の人口(50万人)に匹敵するペースで人口が減少する日本において、ただでさえ細る国内市場の中で従来通りのやり方を維持すれば、荷物1個あたりが負担する物流費は雪だるま式に高騰し、いずれ現在のデリバリーシステムは完全に崩壊する。著者は、今や「異業種を巻き込んだ物流共同化」や「大手による子会社の買収や業界再編」といった抜本的な自己変革しか生き残る道はないと警鐘を鳴らす。

そのほかにも、多層下請け構造を解体する「委託次数制限」や、ネット通販の爆発的拡大に伴う「ラストワンマイルの諸課題と置き配トラブル」、さらには自動運転やドローンといった新技術に対する極めて現実的で冷静な見極めまで、本書が切り込む論点は多岐にわたる。しかし、全体のトーンは不思議なほどに前向きである。著者は1973年の第1次オイルショックが日本の産業を強くした歴史を引き合いに出し、この最大のピンチこそが、持続可能な物流体制を構築するための最大のチャンスであると結んでいる。

この力強い説得力を支えているのが、著者がこれまでの長い取材歴の中で実際に現場を歩き、運送事業者と顔を突き合わせて集めてきた生きた息遣いだ。例えば、荷主子会社が親会社に運賃交渉を認めさせるため、運送事業者と結託してあえて配車困難を装ったという、切実かつユーモラスな狂言のエピソードが紹介される。この現場の泥臭い悪知恵は、標準的運賃という制度が単なる形骸化したルールではなく、リアルな交渉の切り札として機能してきた実態を人間味豊かに伝えてくれる。そのほかにもDXやAI(人工知能)をいち早く導入して業務の効率化を図った事業者や、24年問題への対応として給与体系を刷新した事業者のケースなど、あちらこちらにちりばめられている数々のエピソードが著者の言葉にリアリティを持たせている。

迫りくる規制のタイムラインに頭を抱える運送事業者の経営層から、法的な責任を突きつけられている荷主企業の役員、速度やコストだけでなく「届くのが当たり前」という認識のアップデートを迫られている一般のビジネスパーソンまで、この大変革期を生き残るための必携のガイドブックとして活用できる1冊となっている。(土屋悟)

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