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The CLO サプライチェーンの変革者たち#01 Hacobu佐藤健次氏インタビュー後編

着荷主CLO、欠品ゼロをデータで問い直す

2026年5月29日 (金)

話題欠品ゼロを絶対視してきた小売・外食の商慣習を、CLO(物流統括管理者)はデータで問い直せるのか。Hacobu執行役員CSOの佐藤健次氏は、着荷主CLOに対し、欠品を「ちゃんと科学してほしい、データで分析してほしい」と求める。

前編で佐藤氏は、新任CLOの初動を「100日プラン」として整理し、その起点となる指標としてケース当たりコスト(ケース単価)を重視すべきだと語った。経営との対話や投資判断につなげやすい指標として、まず押さえるべきだという。改正物流効率化法の施行を受け、新任CLOが続々と現れている。発荷主側のCLOが社外連携で注目される一方、着荷主側のCLOには、発注、在庫、納品条件を見直す役割が問われる。小売・外食など着荷主側の判断は、卸、メーカー、運送会社の負荷を大きく左右する。後編では、着荷主改革、先行するCLOから何を学ぶか、Hacobuの伴走支援、2035年の物流像を聞いた。(編集長・赤澤裕介)

佐藤氏が着荷主CLOに求めるのが、欠品の科学だ。「やはり欠品ですね。ちゃんと科学してほしい、データで分析してほしい。絶対欠品するな、お客様のためだ、と川下の人は必ず言う。しかし、そのために上流の人がどんなに苦労してきたか」と話す。欠品ゼロを優先する小売側の論理は、卸、メーカー、運送会社に過剰在庫や追加配送、緊急対応の負荷を生みやすい。CLO制度が物流を荷主の経営課題に押し上げるなら、次に問われるのは、着荷主側のこの発想である。


佐藤氏は西友時代、商品部の欠品ゼロ志向に対し、物流側から「それはダメだ」と意見してきた立場だった。ただ、商品部までは制御しきれなかったとも振り返る。発注ロジック、店舗運用、ベンダー評価の組み立てが欠品ゼロを中心に組み上がっている小売の体質を、物流側からだけで変えるには限界があった。

ウォルマートには違った発想があったと話す。欠品時の代替購買、つまり顧客が別の商品や、場合によっては高単価の商品を買う行動まで含めて、売上、粗利、物流負荷を合わせて見る発想を取っていた、と佐藤氏は説明する。「この棚がなくなった分だけ売上がなくなる、という考え方ではない」と佐藤氏。ある商品が棚にない時、顧客がそのまま帰るとは限らない。代替商品を買う、上位グレードに切り替える。そうした連鎖まで含めて売上と利益の動きを見れば、欠品ゼロを追うこと自体の費用対効果が問われる場面が出てくる。

発想の差は、発注ロジックそのものの設計に行きつく。欠品率だけを見るのではなく、欠品時の代替購買、粗利への影響、追加配送や安全在庫が生む物流負荷まで含めて発注のあり方を見直せば、全体の利益率が上がる可能性もある。佐藤氏は、着荷主CLOにはそこまで踏み込んでほしいと求める。安全在庫の置き方、納品リードタイムの取り方、ベンダー評価の指標、店舗側のオペレーション、これら全体を発注ロジックの再設計として見直すこと。これは商品部や店舗運営部だけでは判断しきれず、経営アジェンダとして着荷主CLOが主導するべき領域である。

供給不安の局面では、心理的な買いだめが川下から川上へ伝わり、市場から物が消えることがある。佐藤氏は、こうした反応の背景に、日本社会に根強く残る「顧客に迷惑をかけてはいけない」という意識もあると見る。真面目さや顧客への敬意があるからこそ、欠品を避けようと過剰に動く。その一方で、個別最適の積み重ねが、サプライチェーン全体では過剰在庫や緊急配送を生み、かえって全体効率を損なうことがある。不安心理が発注や在庫確保を増幅させる局面で、着荷主CLOはデータに基づき、社内外に冷静な説明を行う役割も担い得る。欠品を恐れて過剰に動く商慣習をどう抑えるかは、着荷主1社の問題ではなく、川上を含むサプライチェーン全体の課題になる。

先行CLOとの差をどう詰めるか

欠品ゼロの再検討は、着荷主CLO固有の論点である。一方で、発荷主を含むCLO全体に共通する関心は、先行企業との差をどう詰めるかだろう。佐藤氏は改革を先行するCLOの動きをこう整理する。「日清食品の深井CLOなど先行している方々は、まず社内の課題にしっかりと取り組んでから、外に出てきている。共同化など社外連携の事例で注目されがちだが、社内SCMの統治を固めたうえで社外協調へ拡張する順序。これが先行CLOの共通項として浮かぶ」

ただ、後発が追いつけない距離ではない、と佐藤氏は見ている。「環境はずいぶん変わっている。先行している方々が動き始めた頃は、CLOや物流責任者同士が横で話すのも難しかったが、いまではその機会も増えている。先進事例にもアクセスしやすい環境もあり、キャッチアップのスピードは圧倒的に早い。」新任CLOには、横のつながりも活用しながら、他部門や3PLを巻き込むリーダーシップを発揮できるかが問われる。

見える化の先、改革実行へ

CLO制度は、荷主企業に経営クラスの物流責任者を置き、物流を経営課題として扱うための制度だ。同時に、その責任者を支える外部機能の市場も生まれつつある。Hacobuが目指すのは、CLOが社内で物流を経営アジェンダに引き上げ、改革を進めることを支援する伴走者だ。CLOが最初にやるべきは見える化だという主張は一貫している。佐藤氏は語る。「見える化によって課題を認識できるようになる。課題が見えてくるとさまざまな壁に直面するだろう。そういう“ここぞ”という改革の局面でHacobuが伴走し、次のレベルへ引き上げる。そして、最終的にはみなさんが自走できる状態をつくる——そんな支援をしていきたいと考えている 」

AIの進展はCLOの改革を後押しする。昨年立ち上げた個別開発の専門チーム「Hacobu Solution Studio」でもAIを活用して個社課題の解決を支援している。そのスピード感は想像を超えこれまでとは段違いだ。またAIは、企業間データ連携のあり方を変えつつある。これまで企業間の連携では、システムごとのフォーマット差異、認証、セキュリティ、API整備などが大きな壁になってきた。だが、AIを活用すれば、データの翻訳や整形、接続にかかる手間を抑え、分断されていた情報を従来より低コストでつなげる可能性がある。AIはCLOの判断を置き換えるものではない。判断のスピードと精度を高め、部門間・社外との議論を進めるための“共通言語”を太くし、CLOの役割を補完していくものだ。

35年を見据えれば、CLOは企業単体の物流改革を担うだけでなく、企業間のデータ連携や共同化を前提に、サプライチェーン全体を調整する存在になっている可能性がある。佐藤氏は、物流には毎年のように新たな論点が生まれるとし、CLOには変化を感知し、改善を続ける役割が求められると強調する。「ロボット、AI、地政学ショック、働き方改革と、外部環境にずっと適応していかなければならないのが物流だ」。物流は一度設計すれば終わる機能ではない。外部環境に合わせて更新し続ける運用機能である。最初の100日で見取り図を引いたあと、改革を一巡で完結させようとする発想自体が、CLO業務にそぐわない。

運用思想の重心も、近年動いてきた。「予測偏重から感知(センシング)と即応へ重点をシフトする時代だ。海外でもデマンドフォーキャスティングからデマンドセンシングが重要と言われている。予測して備える作業はある前提で、いかに早く感知して、変えていくか。それがこれからのサプライチェーンで重要になる」。需要を事前に読むフォーキャスティングだけでなく、現場で起きた変化を早く捉えるセンシングが重要になる。CLOは感知した変化を発注条件、配送条件、在庫配置、取引先連携に変換する役回りを担う。現場データと経営判断の接続が、ここで効いてくる。

35年の物流像を問うと、佐藤氏の答えは、自動運転、CLO同士の対話、AIによる企業間連携、共同化の高度化に及んだ。第1に、自動車業界の取り組みで、トラックの自動運転が安全に運行できる状態。米国でも実証実験が進んでいる。第2に、CLO同士の対話が当たり前になる世界。発荷主と着荷主、競合と協調、業種横断の運用最適化が、CLO同士の直接対話で動く構図だ。第3に、AIが機密を守りながら企業間連携を支援する仕組みも広がる余地がある。第4に、これらを組み合わせて共同物流や配送ルートの集約など積載効率を向上させていくことである。

「物流はスケールが重要なので、いかに共同でやっていくかが世界共通のテーマになる。加えて海外でもドライバー不足は課題で、車両の空きをなくすことは重要なテーマだ」と佐藤氏。たとえば、トラック1台当たりの実積載率を上げる、復路に荷を載せる、近接荷主と便を統合する。共同化は日本の物流効率化法の一論点というより、世界共通の課題として位置づけられる。フィジカルインターネットの完成形がどこまで見えているかは、なお不透明な部分もある。ただ、佐藤氏が共同化の先に描くのは、発注データの制御まで含めて物流波動を抑え、企業間連携によって無理の少ない物流を実現する世界である。

35年の物流像として、佐藤氏は最後にドライバーの姿を挙げた。「ドライバーの方が、笑顔でパイロットのようになってほしい。AIをうまく使いこなして車両を安全にコントロールする存在になってもらいたい」。AIを使いこなし、車両を制御する高度職能としてのドライバー。その表現には、物流労働を単なる現場作業ではなく、高度な運行判断を担う職能として捉え直す視点がある。その未来像は、物流を経営アジェンダに引き上げるCLO制度の先にある。

CLO制度は、選任された瞬間に物流を変える魔法ではない。だが、社内のサプライチェーンを整え、CLO同士がつながり、着荷主と発荷主が同じテーブルでデータを見ながら話す世界が広がれば、物流はコスト交渉の対象から、企業間で設計する経営基盤へと変わっていく。欠品ゼロを問い直す着荷主CLO、社内統治を固める発荷主CLO、CLOの改革実行を伴走する支援企業、自らの仕事に誇りを感じるドライバー。これらがつながった先に、佐藤氏が描く物流像がある。

▶ ▶ 前編「新任CLOの初動100日プラン-物流を経営課題に」を読む

◆ この記事をより深く理解するために ◆

新任CLOの初動100日プラン-物流を経営課題に(5月29日)― 同インタビュー前編。CLOの役割、物流投資、最初の100日プラン

日清深井CLO、改革は意志ある先行企業から(4月30日)― CLOシリーズ第1回。先行企業の社外協調の進め方

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