
話題改正物流効率化法の施行により、2026年4月から3200社規模の大手荷主にCLO(物流統括管理者)選任が義務化された。5月末の選任期限を前に、新任CLOが続々と現れている。新任CLOは初動で何をすべきか。Hacobu執行役員CSOの佐藤健次氏は「最初の100日が大事」だと強調する。その初動でまず押さえたい指標として佐藤氏が挙げるのが、ケース当たりコスト(Cost per Case、以下ケース単価)だ。(編集長・赤澤裕介)
佐藤氏のキャリアは、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、ウォルマート傘下時代の西友での物流責任者、Hacobuの3社にわたる。コンサル時代に海外のサプライチェーンモデルを日本企業に提案する立場で物流に関わり、ウォルマート時代に世界各国の物流責任者と電話一本で議論できる環境に身を置き、いまHacobuでデータを基にした物流改革の伴走支援の立場にある。
これまでのキャリアを踏まえ、佐藤氏は新任CLOが初動で取り組むべきことを「CLOのための物流改革100日プラン」として整理した。発想の起点は、M&A後の統合作業で新たなリーダーが着任した際の初動計画だ。買収先に乗り込んだ新任社長が、最初の100日で何を見て、誰と何を握り、どこから動かすかを決める——その手法をCLOの初動に移植したという。
初動100日は、新任CLOが全体を俯瞰し、現状を可視化し、優先課題を特定し、社内外の利害関係者との関係を作る期間と位置づけられる。

▲物流改革100日プランの概要(出所:Hacobu)
この「100日」という時間軸で、何をどう押さえ、改革の優先順位をどう定めるか。その全体像を佐藤氏らの書籍『Logistics Shift ロジスティクス・シフト』にもまとめている。
同書で、佐藤氏は佐々木太郎・小林一幸両氏とともに、物流を経営アジェンダ化するための問題意識と実践の道筋を整理した。書籍には「100日プラン」の実践内容に加え、ダイキン工業、三菱食品、日清食品など先行CLOのインタビューも収められている。改正法の施行と同じタイミングで世に出した狙いを、こう語る。「物流を経営アジェンダ化する、とずっと言ってきた。物流はこれまで、運んで当たり前と受け止められ、厳しい現場を支えながらもスポットライトが当たりにくい領域だった。今回の制度改正は、そうした物流を、本来あるべき経営テーマとして捉え直す契機になる。物流に関わる方々が現場で抱えてきた問題意識を、制度を契機に経営の言葉として表に出したい」
佐藤氏が繰り返し強調するのは、物流を「現場の実務」ではなく「経営判断」のテーマとして扱うことだ。日本企業では、物流が特定部門の配下に置かれがちで、経営の場で議論されにくい。佐藤氏はその構造を変える起点としてCLOに期待を寄せる。
改正物流効率化法によるCLO選任の義務化は、物流を経営アジェンダとして捉え直すチャンスになり得る。だからこそ新任CLOには、最初の100日で現状把握と優先順位づけを進め、経営の言葉に翻訳していく役割を担ってほしいという。
ケース単価で現状を変える
では、その初動で何を手がかりに自社物流の実態をつかめばよいのか。佐藤氏が「CLOなら必ず押さえてもらいたい」指標として挙げるのが、ケース単価である。
ケース単価とは、1ケース、あるいは一定の物理単位の売上を上げるために必要な物流コストを示す指標である。例えば、商品1ケースを販売するために、輸送、保管、荷役を含めてどれだけの物流費を要しているかを把握する考え方だ。この指標を可視化することで、経営陣は物流が売上や利益に与える影響をより具体的に理解しやすくなる。
「最初に見るのは売上高物流費率といった数字で、これは当然見る。だが、ラフでもよいのでケース単価としてどれくらいの物流コストがかかっているかを、数字としてしっかり押さえたい」と話す。単純に総物流費を総ケース数で割ればよいという話ではない。佐藤氏は、まず地域別に算出し、どの地域で物流負荷が高まっているのかを把握することから始めるべきだと見る。地域別に水準感を持てば、さらに拠点別、納品先別、商品群別へと深掘りすべき対象が見えてくる。完璧な原価計算を組むより、まずざっくりでも自社のケース単価を把握し、その水準感を持つことが先決だという。

佐藤氏がケース単価を重視する理由は、大きく3つある。
1つ目は、ケース単価が経営会議に持ち込める共通単位として機能する点。拠点間比較、3PLとの交渉、自家物流と委託の比較、商品群や配送条件ごとの比較。いずれも単位コストが見えていれば、数字で議論できる。逆に言えば、CLOがケース単価を把握していないと、社内の物流コストに関する議論はすべて感覚論にとどまる。経営アジェンダ化の前提となる共通言語が、ここにある。
2つ目は、ケース単価を拠点別、商品群別、納品先別、配送条件別に分解することで、初めて「どこに投資するか」が見えるという点。トラックの自動配車に投資するのか、倉庫の自動化に投資するのか、共同物流に投資するのか。そうした判断は、ケース単価を精査してどこに負荷や非効率が集中しているかを見極めることから始まる。
3つ目は、CLOはコストの安い高いを見るのではない。そのコストが売上、利益、サービスレベルに対して妥当かどうかを見るという点。コスト削減から投資対効果の議論に移すための単位として、ケース単価が機能する。
そのほか100日で最初に押さえるべきものとして、配送リードタイム、ネットワーク図、さらに物流品質においては物流クレームも重要だ。配送リードタイムは平均だけでなく、ばらつきの幅を見る必要がある。約束した時刻にどれだけ正確に配送できているか、外れたときの幅はどれくらいか。あわせて自社のネットワーク図、つまりどこからどこに何がどれだけ流れているかを書き起こす。品質面では物流クレームの発生状況を起点に、拠点別、キャリア別、品目別へと深掘りする。
ここまで新任CLOが「初動100日」で何を見るべきかを整理してきたが、佐藤氏がCLOに期待するのは、物流を経営判断につなげる力だ。では、その力は具体的にどこで問われるのか。佐藤氏が真っ先に挙げるのが「物流投資」である。
物流投資を経営判断に変える
「日本の物流には、投資が十分に進みにくい構造的な要因があった。荷主は委託先の物流企業に業務を任せることが多く、コスト調整が優先されやすい。その結果、物流企業側も投資に踏み切りにくくなるという連鎖が続いていた」と話す。荷主側が物流コストの圧縮にこだわり、3PL(サードパーティロジスティクス)や運送会社の利益率が下がる。利益率が下がれば車両更新、IT投資、ドライバー処遇改善の原資が削れる。荷主側のコスト圧縮が、物流事業者側の投資余力を削ってきた。
CLOが経営会議で投資判断を引き出せるかどうかが、この連鎖を反転させる起点になる。「より良くなる、より収益が得られる、より売上が上がる」と立証できれば、CLOは経営者として投資を取りに行ける立場にある。物流部長の予算要求では通りにくかった案件も、CLOが経営判断として位置づけ直せば、議論の土俵に上がる。たとえば3PLとの長期契約、車両・倉庫設備への共同投資、共同物流や企業間データ連携への参画も、物流コストを圧縮する話から経営投資の議論に持ち上げ直せる。従来の物流部長とCLOの違いのひとつが「物流投資を経営判断に位置づけられるか」だ。
もうひとつ、佐藤氏が挙げる違いは会社を代表して物流を語れる立場にあるかどうかである。西友時代、佐藤氏はメーカーなど発荷主側から物流提案を受ける立場にあった。その中には、物流の基本条件や全体最適の視点が十分に整理されていない提案も少なくなかったという。これは相手企業の担当者個人の問題というより、提案が現場間の調整にとどまり、経営判断として位置づけられにくい構造の問題でもあった。だからこそ、佐藤氏はCLO同士の対話に期待する。相手企業のCLOと直接話せれば、その会社が物流を通じて何を変えようとしているのか、経営としての真意を確認できる。CLO to CLOの直接対話が成立すれば、物流は現場交渉から経営間協議に上がる。
ただし、佐藤氏はCLOを個人技で語らない。「経営会議で議論できることが要件だが、CLO一人で何もかもできるとは思っていない。チームだ」。一人のスーパースターを当てにする制度設計を、佐藤氏は取らない。その人物を支えるチーム全体で企業の物流変革を引き上げる、という前提に立つ。
CLOに求められる適性とチーム
求められるCLOの適性は企業の状態によって変わる、と佐藤氏は整理する。物流が縦割りでバラバラになっている企業では、組織を横断する突破力のある人材が必要になる。逆に、物流を完全に外部委託して社内で見えなくなってしまっている企業では、データを集めて読み解く分析力のある人材が向く。委託先のオペレーションを社内で再構築する作業から始めなければならないからだ。共通項として佐藤氏が挙げるのは、サプライチェーン全体を俯瞰する力と、現場から経営まで会話できる力の2つだ。
経営会議などでの発言力が弱いCLOについては、別ルートからの補強を提案する。「製造側の生産管理の方は、しょっちゅう経営と話してきたはずだ。CLOをサポートするチームを作り、CLO一人に頼るのではなく、物流を経営アジェンダ化する社内体制を作っていくことが望ましい」。経営企画や生産管理など、普段から経営層と接している部門の人材を物流部門に入れる選択肢である。CLOが個人として全条件を満たす必要はない。チームの構成で必要な能力を埋める形を取る。
物流部長から肩書だけが上がったCLOと、経営機能として実質を伴うCLOとの間には差がある。だが、その差は組織として補強できる範囲にある、というのが佐藤氏のスタンスだ。
法令対応は「入口」にすぎない
改正物流効率化法の施行で、荷待ち・荷役時間の短縮や運送契約の書面化など、CLOが対応すべき事項が明示された。法令順守はCLOが取り組むべき前提として置かれる。ただし佐藤氏は、法令対応を「入口」に、物流を持続可能なものにするために何を変えるべきかを経営課題として位置づけ直すべきだと強調する。その方針と優先順位を最初の100日で形にしていく——それがCLOの役割だという。
最初の100日でCLOが見極めるべきものとして、佐藤氏が挙げるのは中期経営計画上の物流の意味づけだ。「中期経営計画を形だけ作るのは簡単だ。この会社にとって物流の意味合いとは何かをCLOの方には見極めてほしい」。会社の事業戦略の中で物流が何を担うかを言語化し、経営判断として位置づけていく。その起点として、まず自社物流を数字で捉えることが欠かせない——佐藤氏が初動で「ケース単価」を勧める理由もそこにある。
▶ ▶ 後編「着荷主CLO、欠品ゼロをデータで問い直す」を読む

◆ この記事をより深く理解するために ◆
・着荷主CLO、欠品ゼロをデータで問い直す(5月29日)― 同インタビュー後編。Hacobuの伴走支援と2035年の物流像
・日清深井CLO、改革は意志ある先行企業から(4月30日)― CLOシリーズ第1回。発荷主CLOによる自社統治と社外協調の進め方
・四月一日物流改正の全体像(4月1日)― CLO選任義務化の制度概要と対象範囲






























