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関東西部許可取り消し問題が示す「物流危機」の本丸

2019年4月11日 (木)

話題違法な長時間労働が数度にわたる指摘を受けても改善されなかったとして、4月22日付でついにトラック運送事業の許可を取り消されることになった関東西部運輸(千葉県野田市)。「徹底したコスト管理」が生み出す運賃競争力を武器に元請け路線トラック会社へ食い込み、短期間に勢力を伸ばした。同社の本社営業所は最盛期、300台の幹線輸送トラックが並び、関東・新潟に8拠点を展開して一時は本体の西部運輸を上回る170億円を売り上げた。周囲も羨む成長を遂げた同社がなぜこうなってしまったのか。(赤澤裕介)

同社関係者はこう振り返る。

「急拡大する事業に管理が追いつかない状況だった。例えば、関東-中国・九州路線を関東西部運輸と同じ水準の運賃で引き受けられる会社は少なく、どんどんトラックが増えていった。コンプライアンスを意識するよりも売り上げて稼ぐことが重視されていた」

■ 「破竹の勢い」で駆け上がるも、急拡大の代償大きく

まさに「破竹の勢い」で関東屈指の幹線輸送会社としての階段を駆け上がっていった同社だが、”売上至上主義”がもたらす代償は大きかった。2014年7月15日、死亡事故を端緒とした監査が同社に入り、2年後の16年12月20日、同社としては初めての行政処分(延べ20日間の車両使用停止)を受けた。

運送業である以上、事故と無縁ではありえないが、行政処分を受ける事態に直面すれば「ただちに改善しないと会社の存続にかかわる」という危機感を持ち、体制の転換を図るのがまともな感覚だろう。数多くの従業員を抱える同社であればなおさらだが、実際はどうだったか。

最初の処分から半年が過ぎた17年5月10日、同社は千葉労働局柏労働基準監督署によって「月に最大246時間の違法な時間外労働」を認定され、法人としての同社と経営トップが書類送検されるに至る。このとき、西部運輸グループ本社の運行管理部門責任者はLogistics Todayの取材に対し、こう語っていた。

「違法なことはわかっていた。今回の書類送検は真摯に受け止めている。3年前から西部運輸グループ全体で労働時間の短縮に取り組んでいたが、徹底しきれなかった」

しかし結果的には、ここでも改善の機会を生かせなかった。

■16年12月の行政処分が転換点、以後半年おきに処分

さらに半年後の17年11月15日、同社は「月間183時間の違法残業をさせていた」として、2回目の書類送検となる。ここで、同社は社長名で「度重なる不祥事」への謝罪コメントを発表。「会社が書類送検された不安で乗務員の退職が続いたことで状況が悪化し、計画通りに改善が進まなかった」と弁明した。改善の意思は示していたが、車両使用停止に始まり、「半年おき」に2回も書類送検された事実は重い。

東西の長距離路線を結ぶ幹線輸送を「同社と同等の条件」で引き受けられる会社がほとんどなかったのだろう。こうした見方を裏付けるように、今度は半年よりも少し長い18年7月18日、30日間にも及ぶ「事業停止処分」と延べ50日間の車両使用停止処分を受け、さらに5か月後(半年に少し満たない)の12月18日にには、2回目の事業停止を命じられる。足掛け2年半に及んだ同社に対する当局の処分は回を重ねるごとに厳しさを増しながら、ついに19年4月22日、事業許可を取り消されることになったのである。

■ 長時間労働を改善できなかったのはなぜか、責任の所在

この間、同社を離れるドライバーも少なくなかったが、取引先の多くは離れなかった。会社を存続させたい「経営側」、従来並みの条件で長距離幹線輸送を維持したいがために取引を続ける「元請け運送会社」――。ここに問題の根源があるのではないか。

まず第一に、経営者が最大の責任を負うべきだろう。

経営者が会社を存続させたいと願うのは当然のことだが、従業員を守るためとはいえ「その手段として従来の取引を続けた」という主張は通らない。2年半もの間、常に「ノー」を突きつけられた状態にありながら、長時間労働にならざるを得ない無理な運行を続けさせた事実は動かせず、その結果として許可取り消し処分を受ける事態は容易に予測できたはずだからだ。元請け運送会社に改善を「要請」してはいただろうが、改善されないまま契約を継続したことは否定できない。

元請け運送会社の責任も重大だ。例えば、同社の最大の取引先(元請け運送会社)だったヤマト運輸が、拠点間を結ぶ幹線輸送のうち自社便でまかなえていた割合はわずか1割にすぎず、いまだ9割は関東西部運輸を含む下請け運送会社に依存している。

2年半の間、違法な運行状態にあることを指摘され続けながら、両社の関係者は4月11日時点でも取引を継続しているのを認めている。ヤマトは関東西部が許可取り消しになる4月22日までに代替できる手段を講じたとしているが、あまりに遅い決断だった。もちろん、ヤマト以外の他社も同様である。大企業たる元請け運送会社が招いた事態であり、関東西部だけの問題でないのは明らかだ。

この間、関東西部がまったく改善しなかったわけではない。例えば19年に入って行われた最後の監査では、チェック対象となった100件以上の点呼業務のうち、同社が指摘を受けたのはわずか1件だと聞いているが、初めて指摘を受けた会社ではない。なぜもっと早く対処しなかったのか、遅きに失したといわざるを得ない。

■ 関東西部運輸の許可取り消し問題が示す、物流危機の本丸とは

関東西部運輸が受けることになった事業許可取り消し処分は、物流業界のみならず、荷主、消費者、つまり日本社会全体が本気で向き合わなければならない問題をはらんだ「物流危機」の本丸だといえよう。1人のドライバーが関東-西日本の長距離を担うのは、もはや選択肢たりえない。

自動運転やダブル連結トラックは、普及までまだ少し時間が必要だ。現時点では途中の拠点で別のトラックやドライバーにバトンを渡す「中継輸送」が有力な代替手段となるだろうが、原価ベースで考えると従来の1.5倍はかかる。元請け運送会社への請求ベースでは、少なくとも3割程度の値上げが必要になるだろう。宅配にも幹線輸送は不可欠であることから、宅配料金もさらに値上げすることになるかもしれない。しかし、それを代替策なく拒むことが、第2の関東西部運輸を生み出しかねないことも忘れてはならない。

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