ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

「日本製の物流プラットフォーム」第2回コラム連載

2020年5月18日 (月)

話題永田利紀氏のコラム連載「日本製の物流プラットフォーム」の第2回を掲載します。

初回掲載(5月13日)▶https://www.logi-today.com/376649

第3章- 支配と従属

委託者(寄託者)と受託者の関係は、通常の理解と逆転していることが多い。「荷主の要望を叶えるために」という言葉に偽りやごまかしの実情は全くないはずだ。それは企業内の物流部門とその関与部門の関係に置き換えても同様だろう。

外部委託の場合は亭主関白を装った”かかあ天下”。これが全部ではないが、珍しくない。内製の場合は物流虐待に近いか、真逆に物流部門の専横。これも全部ではないが、珍しくない。大げさでも極端な例でもないのだが、他所のハナシと聞き流す企業がほとんどだろう。

■ はずせない補助輪

外部委託では、荷主の物流機能を正常化・合理化するために各種のサポートが付される。つまり自走するための補助輪的な役割を担うための約束事を業務開始までの間に打合せ、実際にその補助輪に支えられて、まっすぐに走れるようになる。

――以前よりふらつきが少なく、スピードも速い。あんなに転んでいたのに、もはやそんなことはめったにない。たとえ転びそうになっても、補助輪のおかげで傾く程度で済んでいる。本来ならそろそろ外してもいい時期なのかもしれないが、特別邪魔になるわけでもないので、このままでいいと感じている。下手に外してまた曲がったり、遅くなったり、転んだりしたら痛いしイライラするだろう。あんな状態に戻るのはごめんだ。「さすがプロは違う」と社内でも委託先の評判はすこぶる良いぞ――と、思ってもらえれば物流会社は満願だ。「実績」として堂々と宣伝の具にできる。

物流会社に従ったからこそ、荷主企業の物流業務は正常化したし、営業寄与、在庫管理の健全化も叶った。補助輪を外すという無謀な行為など考えもしないだろう。ひとたび物流会社の補助輪を装着すれば、物流を内製化するなど考えもしなくなる。

外せない補助輪こそ、物流会社の最重要で最強の営業ツールだ。

■ 独自・特化・柔軟

物流会社にしても、自社物流部門もしくは物流子会社にしても、その荷物や販路、繁忙の波動、付帯業務の消化手順などを「それなりの工夫と体制」でこなしている。

――独自のシステムや段取り、〇〇業や〇〇製品に特化した、波動やイレギュラーにも柔軟に対応できる仕組と体制づくり。一朝一夕では成らず、人知れぬ努力と紆余曲折の果てに得た成果。まさに自社独自のノウハウであり、門外不出の技術や仕組みが庫内業務を支えている――という物語や事例研究が、物流誌や経営関連の記事には数多く存在する。

しかし、私見ながらも最上と感じるのは以下のようなものだ。

「どこの誰がやっても同じ」
「特別な仕組は使っていない」
「単純で簡易な方法であり、他社でもすぐに導入できる」

こんな言葉をサラッと吐くのが本当のプロなのだが、多くを語らないことも玄人の矜持。めったに見聞きできないのは仕方がないことなのかもしれない。

第4章- 箱と中身

業務フローこそ物流業務の基幹要素。そう言い続けて久しい。建屋や設備の優劣以前に、業務フローこそが個々の物流業務の品質を決定する鍵だ。

すぐれた業務フローの定義は非常に明快だ。「必要最短の動線と最少の工数・時間が実現されている」に他ならない。物流倉庫や運輸の諸設備というハードの充実はありがたいことだ。労働環境や美装作業の点でも、働く者たちには好ましく、利点が多い。

しかし労働に携わる時間すべてを支配する業務フローとOJT厳守の結果は、ハードといわれるモノがもたらす恩恵など比べ物にならぬほど個人にとっては重要である。「今日もノーミスでつつがなく仕事を終えた」という安堵と充実は、働く者にとって最も大切な結果といえる。

物流業務に「たましいをいれる」とは、業務フローの充実による何も起こらない毎日を続けることである。

■ そうはいっても

しかしながら、せっかくの素晴らしい業務フローであっても、労働環境が悪ければ効力が減じてしまうことも否めない。それは賃金も同じ。恒産無ければ恒心無しという言葉どおり、一定レベルの業務に見合う賃金条件と福利厚生、建屋や設備の充実――は、人材確保と維持には不可欠要素である。

ここでも業務フローが関与してくる。最少工数と時間、多能工化による一人当たりの生産性向上と労働時間の終日化によって総労働時間は最少化できる。つまり、一人当たりの賃金を高めに設定しても収支は折り合う。優秀な人材の安定雇用により組織運営は安定する。少数精鋭で多能優遇に抜かりなく、と物流責任者諸氏には申し上げる次第だ。

■ 壁や垣根の消失

物流会社でも自社物流でも同じ理屈で運営できる時代になろうとしている。情報の機密化が難しく、ノウハウや固有という言葉が所有から共有へと転じてゆく予感が実感になりつつある。俗にいうハードの希少価値や特化要素は今やなくなってしまった。

ソフトの独自性や抜きんでた秀逸さは、その所有者や運用者が内向的に思い込んでいるに過ぎない。見回せばどこもかしこも似たり寄ったりの「独自の秀逸な仕組」に胸を張っている他社の様子が目に入る。

「皆で使えば便宜向上とコスト削減が同時に叶いますよ」
「弊社の情報を開示するので、貴社のノウハウもご教示願えませんか」
「物流機能を共仕・共用・共同しませんか」

こんな言葉があたりまえになることを願うのみだ。

―第3回(5月21日公開予定)に続く

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
https://www.logi-today.com/356711

コハイのあした(コラム連載・全9回)
https://www.logi-today.com/361316

BCMは地域の方舟(コラム連載・全3回)
https://www.logi-today.com/369319

駅からのみち(コラム連載・全2回)
https://www.logi-today.com/373960

-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め
https://www.logi-today.com/374276

物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
https://www.logi-today.com/376129