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「日本製の物流プラットフォーム」第3回コラム連載

2020年5月21日 (木)

話題永田利紀氏のコラム連載「日本製の物流プラットフォーム」の第3回を掲載します。

第2回掲載(5月18日)▶https://www.logi-today.com/377070

第5章- コンテンツホルダー

ひと昔もふた昔も前には、業種業態別に物流作法が存在した。そこだけを聞けば「ずいぶんと不合理で高コスト必然の状態だったのだろうな」と感じる諸氏は多いだろう。しかし、そのアナログで縦割りの時代のほうが、現在よりも物流技術の追求とプロとしての気位保持が大切にされていたと聞く。

「荷」に対する理解と扱いの工夫、荷役の研究と結果へのこだわりは、荷主もしくは営業や仕入などの他部署に対する体面以前に、自尊心がそうさせるものだった。

■ 多様なようで単調

昭和の時代を生きた物流マンの多くは「荷は違っても、仕事の中身はさほど変わらない」と言う。つまり、荷物の種別は物流業務の根幹には大きな影響を及ぼさないという意である。それは物流の本質をついている。

手前味噌の「あらゆる物流業務フローは直列化できる」と同じことだと思う。魚にはたくさんの種類があるが、料理人は魚にあわせて変わったりはしない。包丁や煮・焼・蒸などの調理方法を決め、その道具と盛り付ける器を選ぶだけだ。

ひとりの物流専門職が多種多様な荷物の物流業務を設計し、OJTして現場を動かすのと同じ理屈だ。さばくのは魚ではなく荷物だというに過ぎない。

■ まるで配信される番組

物流現場では、荷物の種類がテレビやインターネットにおけるコンテンツに相当する。最大の共通点は荷の受領者や番組の視聴者たちは、ひとりで多種多様な買い物や視聴をするという点だ。この立場から考えれば、受領や視聴の方法へのこだわりはあまり重要なポイントではないと推測できる。「受け取る」「観る・聴く」ことが肝心であり、そのために最も適した道具を選択しているだけだ。

購入などの最終行動は受領者それぞれであるため、制御できるものではない。そしてすべての受領行為に至るまでの荷役全工程は、受領者にとって関心の向くものではないのだ。支払コストでしか受領までの一連を評価しないのは、消費者に与えられた権利であり、それには個々の価値観や感覚が大きく影響する。

テレビ画面であろうが、パソコンモニターであろうが、モバイル端末であろうが、目的は視聴であることと同様に、消費者にとっては受け取ることだけが関心事。その条件として商品代金や配送料金、配送スケジュールや受領場所の選択肢などを勘案しているのだ。

有形のモノがあるかぎり物流が発生する。物流は消費の子であり、その母を超えては存在できない。消費は種々多様であるが、消費の母である荷の受領者の数は減り続ける。多様性を維持したまま少量化する消費。現状のままでは物流は成り立たなくなる。生存をかけて考えるときが到来している。

第6章- プラットフォームホルダー

価格競争、差別化、品質本位、顧客本位、過当競争、競合脱落。そんな時代があったと「競合できたあの頃」を振り返る日がやってくると予想している。悲観論ではないことが何よりの悲観材料ともいえるのだが、俯いていても仕方ないので、御し方を考えるべきだろう。まずは「どうして競合できなくなるのか」について説明する。

■ 先鋭化する大手物流

ある大手物流会社は独自のWMSを開発し、全ての荷主企業の物流業務で運用している。いわば自動車メーカーの純正のカーナビのようなもので、その物流会社が自社業務に最も親和性が高いと判断した内容で構成されている。ゆえに必要な機能のみに特化しており、非常にシンプルで動きが軽く、操作も直感的に行えるので、現場業務への寄与度は高い。そのような現象は競合他社でも同様であり、委託元である荷主企業はWMSをはじめとするすべての業務フローと什器や設備も委託先物流会社の仕様に従っている。

顧客よりも先を歩き、道標としての技術改新や提供を怠らないことが、何よりの顧客サービス。大手物流会社の提案書にある各項目の行間にはそう書いてある。

■ 生き残るために没個性化

かつてのように荷主によって棲み分けされていた悠長な時代は終わり、大手物流は独自開発した高機能で簡易導入できるWMSと最新設備を備えた大型倉庫への格安入居条件を腰だめにして、中小企業市場に参入してくる。つまり、中小物流や内製型の自社物流が誇ってきた”気の利いたWMSを活用した業務品質”は、もはや何の付加価値も持たなくなっていることを痛烈に思い知る。

大手物流のWMSと同じ内容のシステムを導入しても、それが動く環境を用意できない。もはや、ゆく道の選択肢は限られている。いずれかの大手物流のシステムの運用ライセンスを取得している正式な取扱いディーラーとして、技術的には傘下に入るしかない。

■ 寡占化する物流業務のプラットフォーム

そしていつか来た道を歩き始めていることに中堅・中小物流の皆が気づく。個配業界のガリバーたちによる寡占化の功罪と現状を考察してはいるものの、営業活動を行う限りは、競合に勝つための努力はあたりまえである。なぜなら大手ディベロッパーから格安で仕入れた大規模倉庫の床を売らなければならないからだ。

開発した受託荷主共通の業務プラットフォームがあれば、規模や業態による垣根はとても低くなる。今までは「荷主」と考えることすらなかった企業を誘致する活動が可能になる。既存営業網以外からの新規導入は、企業としての未来を明るくすることに間違いはない。

そんなマインドが準大手・中堅物流各社に拡がりはじめたら、プラットフォームの寡占化への道が見えてくるだろう。

―第4回(5月25日公開予定)に続く

第1回:https://www.logi-today.com/376649
第2回:https://www.logi-today.com/377070

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
https://www.logi-today.com/356711

コハイのあした(コラム連載・全9回)
https://www.logi-today.com/361316

BCMは地域の方舟(コラム連載・全3回)
https://www.logi-today.com/369319

駅からのみち(コラム連載・全2回)
https://www.logi-today.com/373960

-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め
https://www.logi-today.com/374276

物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
https://www.logi-today.com/376129