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「日本製の物流プラットフォーム」第4回コラム連載

2020年5月25日 (月)

話題永田利紀氏のコラム連載「日本製の物流プラットフォーム」の第4回を掲載します。

第3回掲載(5月21日)▶https://www.logi-today.com/377916

第7章- 融合と共通化

「販売主体が物流まで設計し運用するのは自然で必要不可欠なこと」そんな言葉を吐く企業は少なくない。そして、勝者であり強者であり続けるために、日々進化を求めてやまない。

■ 奇形化の理由

物流だけが切り離された事業体は、いわば奇形だとも評せるが、それが大勢を占めてきた時代が長かったのも事実だ。不動産価値の高騰が自社倉庫取得の機会を遠ざけ、労働集約型ビジネスの大資本化が、中小零細企業をはじめとする「物流は面倒でしんどいなぁ」と真顔でつぶやきながら目を逸らす現状を定着させてしまった。

そもそも物流は自前でこなすことがあたりまえの姿であり、他社に委託するなど稀だったはずだ。もちろん大昔から物流会社は存在したが、それは自社物流機能の独立版であったり、大手企業の自社物流の下請けとして営まれていることが常だった。

自社の商品を自社で開発し、自社で販売し、自社で保管し、自社で配送手配をする。それは今の時代でも極めて真っ当で、顧客への作法として維持すべき責任ともいえる。

■ さらに掘り下げて

究極のサービス、というか始末というかは別として、商品やカスタマーサービス以外は各社競わずに共通化する、というのはまだ早いのだろうか。毎度の論調で恐縮だが、物流機能はインフラ化すべきだし、そうすることで競うポイントが明確化する。これは真面目に商品開発をして、正しい情報を発信している企業にとっては願ってもないことだと想像する。

倉庫作業や配送過程の仔細などは舞台裏として扱い、観客ともいえる顧客の目には触れないようにするのだとしたら、物流機能に企業の独自性や差別化は不要であり、それはあまねく共通化してしまうほうが万事都合よいはずだ。ここでいう都合とは、消費者にとってのという意であるので、物流提供者側の言い分や事情は勘定に入れていない。

■ それぞれの都合

だからと言って「知ったことか」などとは思っておらず、いつまでも旧態依然のままではガラパゴス化して、絶滅の危機にさらされる可能性が高くなるだけだと危惧している。ここで何を書いてどう主張しようが、すぐに大きな変化が起こるとは考えていない。しかし、「流れ」という大きな力が業界を見舞ったなら、それに抗うことは難しい。かつての通信や放送のたどった道をなぞれば明らかなことだ。

断るまでもなく、ここに記している内容はあくまで私見で固めた予想である。訳知り顔で悲観を雑文の具にするつもりなど毛頭ない。ただ単純に、生活者にとって恵みや利便の充実が期待できる方法は何か、そして同時に物流関連の各位が未来を語る根拠としてどうか、それだけを自問しつつ書いている。

第8章- ECと共通化

前章まで物流プラットフォームについて書いてきたが、もはやそんな記述が「今さらですか」と失笑を買うところまで進んでいる企業集団や国がいくつもある。国土面積や優先順位の違いはあれ、日本国内で長年こだわり定型化している価値観や仕組が、ものの見事に否定どころか存在すらしない。

日本は地理的な島国にとどまらず、情報と国際標準の価値認識から孤島化する…というのは言葉が過ぎるかもしれないが、さりとて猛ダッシュで接近しなければならないと言いたい。追いついたら、速やかに抜きさってしまおうではないか。

■ 誰もが思い浮かべる並び立つ巨人

販売から物流に至るまでの一貫した独自プラットフォームの運用と普及、それによるデファクト化がもたらす市場制覇とインフラ化。方法論としては本記事の主旨にもっとも近いのだが、すでに存在しているし、日本国内でもすっかり浸透している。

まずはアマゾン。そしてアリババ。物流については双方とも圧倒的に素晴らしい。そして多数の点で非常に似ている。究極化は同質化と同じ、という数学者や哲学者の言葉が脳裏に浮かぶ。

■ 彼らの往く道

「ダブルA」と呼ばれる両社は、新興国市場を除いてすでに頭打ちとなりつつある物販からコンテンツサービスへの注力に舵取りを行っており、物販同様にコンテンツホルダーでありプラットフォームホルダーでもあるという自己完結の徹底を実践している。

卑近な例では、アマゾンプライムのコンテンツ制作や配信は、テレビなどの既存メディアと競合すらせずに、物販でつながってきたユーザーに、何の環境変化や新しいハードの追加や購入を求めないままで、買い物同様に楽しめるプラットフォームを提供している。巨大企業からの広告収入に依存せず、支配や影響もまったく受けずにコンテンツ制作と配信を内製化している事実は、テレビをはじめとするメディアには衝撃だろうし、背後から迫り来る後発者への恐怖は初めての体験に違いない。

■ これ以上のスペックは不要

アマゾンはそんな既存メディアを競合とすら認識していないのかもしれない。コンテンツの経済的価値は元来のホルダーから離れてゼロとなり、かつそれを視聴する媒体や仕組はすでに生活者の掌や鞄の中に入っている。もはや競争する理由がないのだろう。そんな巨人が何度も改変を繰り返して運用する物流プラットフォームを皆で倣って、同じように運用するところが第一の踊り場であると納得すべきだ。

我が国の企業が手掛けなければならないのは、仕組の繊細な加工と運用貫徹主義が生み出している「身もふたもない粗雑さ」を排除し、ユーザーの違和感を減らすことだ。

―第5回(5月28日公開予定)に続く

第1回:https://www.logi-today.com/376649
第2回:https://www.logi-today.com/377070
第3回:https://www.logi-today.com/377916

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
https://www.logi-today.com/356711

コハイのあした(コラム連載・全9回)
https://www.logi-today.com/361316

BCMは地域の方舟(コラム連載・全3回)
https://www.logi-today.com/369319

駅からのみち(コラム連載・全2回)
https://www.logi-today.com/373960

-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め
https://www.logi-today.com/374276

物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
https://www.logi-today.com/376129