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「日本製の物流プラットフォーム」第5回コラム連載

2020年5月28日 (木)

話題永田利紀氏のコラム連載「日本製の物流プラットフォーム」の第5回を掲載します。

第4回掲載(5月25日)▶https://www.logi-today.com/378377

第9章- 技術の共通化

前章で述べたが、まずはアリババやアマゾンを倣って、素晴らしい物流プラットフォームを共有するところから始めればいいではないか、と思うのは私だけではないはずだ。

■ ガラス張り

(出所:amazon)

両巨人ともにプラットフォームの表面的なフローや汎用化できそうなロジックは、すべてガラス張りにしている。物流のプロがひと通り検分し、同等の業務フローに準じた仕組をSEが設計すれば、近似するプラットフォームが出来上がるだろう。ピッキングや名寄せなどのシステムについては、他社からも実績報告が出ている。それらを寄せ集めるだけで相当高レベルの仕組が期待できる。

使用する物流会社が増え、それに魅力を感じる荷主企業が集まれば、スケールメリット、ボリュームメリットの恩恵を関与者全員が享受できるだろう。

■ きわめて平凡

誤解を招かぬよう断わっておくが、両社の業務フローを盗んでコピーすることを推奨しているわけではない。そもそも盗む必要などない仕組だからだ。

簡単に説明すれば、直線的で最少工数の業務フロー、一切のぜい肉をそぎ落とした骨格のみの荷役構成と出荷後の追跡管理。入荷・保管・出荷・配送。追跡による完了確認。これらの各業務部分に特殊さや目を見張るような秀逸な仕掛けなどほぼない。日本のどの物流会社でも企業の自社物流倉庫でも同じようなことはすぐにできる。

だからこそ声を失うほどに唸ってしまったのだった。

■ 平凡の徹底は非凡

唸り声の奥底にあったのは「ごくごく平凡で平易な仕組とルールを施し、イレギュラーなしで貫いている」ことへの感服だった。

(出所:amazon)

たしかに人間が機械のように動かされている。その光景を素晴らしいとは思わなかった。生産性の設定数値をもう少し手前で止める「ゆるさ」があってもいいのでは、と感じた。しかし、業務フローを活かしきるためのOJTの徹底が可能となっている事実は重い。

「この作業はこの時間でできる」という計算根拠に破綻がなく、最大に近い効率値の間際を生産性グラフが這うように伸びていくさまが目に浮かんだ。最大のノウハウは「あたりまえで単純なことを、あたりまえではないほどやる」だった。夢見話に出てくる理想郷ではなく、世界屈指の機能性を有する物流現場といえる。

我が国の各地で今もその機能が稼働しているし、アジア諸国や欧米でも同様だ。現状の我々にとっては差別化や加減の余地などみじんもない。すぐに取り込む以外の選択肢はないはずだ。ただし、いつまでも屈するために膝を曲げて、首を垂れているわけではない。これも前章で述べたとおりだ。

第10章- 運送会社と共通化

物流のプラットフォームが共通化されると、荷役から運送への接続が定型化される。したがって運送各社は大歓迎…とはならないケースが気がかりだ。それは配車のコントロールを誰がするのかという点と、そこから派生する実車率の最低基準の設定、大手運輸に有利な一方で中小事業者にはハードルが高すぎる、などが懸念されるからだ。

共通化は素晴らしい効率と合理性を生み出す。ルート別の配車ムラも緩和されるだろう。一方で、仕組の貫徹の犠牲ともいえる、「ルールに従うと収支が合わなくなる」現象が生じるおそれがある。

■ 同質化と共通化は別物

(イメージ画像)

どの業界でもありがちだが、呉越同舟の様を想像する参加各社は、その効用や意義を理解しながらも、感情的な抵抗感を抱くかもしれない。自社の個性や強みの発揮が全くできないではないか、という類の不満と表現してもよい。

共通の仕組に準じて、そのルールに従うことは、没個性と同義ではない。むしろ逆であるはずだ。同じ土俵で居並ぶからこそ、個々の違いが明確に出る。共通化しても同質化することなどありえない。それどころか、評価の両極化が顕著になることを案じている。

■ 参入してくる後発企業

個配大手などの市場参加者は、仕組の損得勘定に神経をとがらすかもしれない。しかしながら、個配を追加サービスとして、自社業務に付加する後発の参入企業にとっては、プラットフォームの存在はメリットになるだろう。

スキームや配送技術の詳細に無関心でありたい非運送系企業は、大きく安定した信用できる仕組に依存したいはずだ。「ただただ忠実に従っていればよい」が本音であり、本業への寄与効果が実感できれば十分だと判断する。参入簡易な仕組であるほど、サービス提供者の数は増える。仕組と価格が標準化されるなら、サービス内容と顧客対応力の勝負になるからだ。

■ 通信や電気・ガスの先例にならうと

(イメージ画像)

中距離以上の路線便はモーダルシフトの啓発効果もあって、鉄道や船舶の比率が上昇するだろう。最終配送を担う個配便については、現在大手3社が約90%のシェアを維持する寡占状態だ。プラットフォーム導入の後、一定年数を経た寡占なら健全な淘汰だと評価できるが、現在の寡占状態にいきなり新制度をかぶせるのは乱暴すぎて、先行きが危ぶまれる。さりとてかつての電電公社や電力・ガス会社のように、公共性の高い許認可事業というわけでもない個配事業者に、公的な運用規制など強いることはできない。

ならば、携帯電話の基幹回線と同じ考え方でどうだろうか。個配大手3社は、後発の参入希望企業に、個配ルートの開示と車両提供を有償で行う。つまり個配のOEMが出現するということになる。

このハナシは改めて別記事で詳しく書くつもりだ。

―第6回(6月1日公開予定)に続く

第1回:https://www.logi-today.com/376649
第2回:https://www.logi-today.com/377070
第3回:https://www.logi-today.com/377916
第4回:https://www.logi-today.com/378377

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
https://www.logi-today.com/356711

コハイのあした(コラム連載・全9回)
https://www.logi-today.com/361316

BCMは地域の方舟(コラム連載・全3回)
https://www.logi-today.com/369319

駅からのみち(コラム連載・全2回)
https://www.logi-today.com/373960

-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め
https://www.logi-today.com/374276

物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
https://www.logi-today.com/376129

好調決算支える「運賃値上げ」が意味すること
https://www.logi-today.com/377837