話題アリババグループの菜鳥網絡(ツァイニャオネットワーク)が日本国内で業務開始するという記事がリリースされたのは、中国国内で「双十一」と呼ばれる巨大セール当日11月11日のことだった。
ちなみに、世界最大のECセール日といわれている「双十一」の2020年売り上げは、アリババGHの天猫(Tモール)が4982億元(7兆9000億円)、2位の京東集団(JDドットコム)も2715億元(4兆3000億円)と発表された。ことしはセール期間を数日増やしたことや、コロナウイルスの影響で海外に旅行できない国民の輸入品購買が売上増加に寄与した。(企画編集委員・永田利紀)
(https://www.logi-today.com/407360)
■ 天猫(Tモール)だけでも
物流にかかわる数字を挙げれば、アリババHDのTモールには、世界89の国と地域・20万超のブランドが参加し、総出荷件数は22億件に上る。アリババのルールとして、セール期間の購入品については到着日ではなく出荷日の約束事を設けており、アリペイによる決済完了から5日間以内の出荷完了が出品事業者に課せられている。それは日本国内の年間個配総数の約半分にあたる件数を、わずか5日間で消化するということだ。ただし天猫国際(Tモールグローバル)については、出品者が自国内の物流拠点から購入者に直接個配出荷する件数も相当数ある。したがって、必ずしも出荷全件数が中国国内で処理されるわけではないのだが、それにしてもすさまじいことに変わりはない。
■ 越境ECは死語となる
今回のニュースを読んで「国内にナトリ(菜鳥網絡の国内俗称)があれば、越境ECという言葉は不要になる」と感じた天猫国際の国内出品者は少なくないだろう。それは、単に中国国内への国際小包や民間の海外個配サービスを想定した言葉ではないはずだ。
世界人口の70%以上を占める国々への商品供給ルートを着々と構築し続けている菜鳥網絡、京東物流(JDロジスティクス)、順豊速運(SFエクスプレス)という中国の3大巨人を筆頭とする中国系ECを母として生まれた国際物流事業者たち。あまり勘繰りたくはないが、「後回しにしていた日本市場をそろそろ刈り取りにかかろうか」などという会議室でのやり取りを妄想してしまうのは、下世話で不謹慎なのだろうか。
■ 戦の基本
「アリババの双十一セールでの国別流通総額ランキングでは、2019年まで4年連続日本が1位」などの情報を聞くたびに、期待と不安が入り混じった複雑な思いがしてきた。それほど売れる品を持つ国なら、乗り込んで拠点を構えるのは手なりの戦略。(※)
「その先鞭をつけるのは物流」というなら、まさに戦の基本通りだ。独立独歩のアマゾンとは対照的に、共栄同化を取引先から顧客に至るまで貫くアリババの物流戦略は、日本国内でいかなる現象や改革を巻き起こすのか。いずれにしても消費者にとっては歓迎材料ばかりだ。
(※アリババジャパンとして株式会社アリババが2008年に設立され、現在も盛業中。日本企業の商材を、中国をはじめ,各国に紹介するアテンド業務を手掛けている)
■ 警戒よりも理解を
アリババHDや京東の本体が販売進出するわけではない――とはいえ、国内の各マートは警戒アラームの音が大きくなる一方と察する。しかし、直撃されて死活問題に至るのはマート事業者だけではない。むしろ、そのマートにぶら下がり、「EC物流」という名称で無理やりジャンル化され、流行りに乗じて業績を伸ばしている物流会社だ。倉庫にしても最終配達業務にしても、米中の巨人が競合すれば、一気にサービスと価格の席巻が進む。
彼らが剛腕を振り回す倉庫は量産されて、各地で主の到来を待っている。戦闘部隊が到着して、現地で労働力を手当てすれば、すぐに活動を開始できる状態になっている。中国の1省程度でしかない国土面積を津々浦々まで網羅することなど、ナトリ1社だけでも過剰なぐらいだ。
その際に、EC事業者の物流で食っている国内業者はどう生きるのか。遅まきながらも、考察と準備に取り掛からねばならない企業は少なくないと考えている。必ずしも淘汰を憂うばかりに終始する必要はない。協力関係を望むのであれば、間違いなくテーブルと席が用意されるはずだ。
少なくとも、日本からの出店・出品企業や提携する物流企業とのやり取りを長く観察してきた限り、彼らは非常にビジネスライクながらも会話と理解を重視しているように感じるからだ。双方に利のある内容なら、相手を選ばずに握手するだろう、ということも付記しておきたい。
■ 狭い部屋の訪問者
今回の菜鳥網絡に限らず、先に挙げた京東の京東物流などの巨大ECを支えるグループ会社がいくつか存在し、その膨大な出荷を担う運送事業者にも注目すべき点は多い。
順豊速運をはじめとする、運送事業者は14億人が住まう広大な国土の津々浦々に配達するだけでなく、今や東南アジアの先進都市に拠点を構えてハブ化している。日本の個配事業者のサービス品質は世界一であることにゆるぎないが、単純な「速く多く届ける」という容量面での圧倒感は、もはや抗う気力を奪い去るものだ。しかも近年の配達精度や品質・モラルの向上は日進月歩であるとも聞く。中国国内だけで個配数はおよそ600億個超。人口比からすれば1人当たりの数値はさほど変わらないが、数の威力は理屈や理性を圧倒することも否めない。
日本という四畳半ぐらいしかない部屋に、巨躯のガリバーが突然やってきた。ひとりでも入りきれそうもないのに、そのうえに別のガリバーやらその友人と称する違う陣地のガリバーまで入ってこようとしたら、小部屋の先住民たちは部屋を追われてしまいかねない――という夢にうなされそうなまま就寝した、2020年11月11日だった。
■連載
コハイのあした(連載9回)
https://www.logi-today.com/361316
https://www.logi-today.com/369319
駅からのみち(連載2回)
https://www.logi-today.com/373960
日本製の物流プラットフォーム(連載10回)
https://www.logi-today.com/376649
もしも自動運転が(連載5回)
https://www.logi-today.com/381562
あなたは買えません(連載5回)
https://www.logi-today.com/384920
物流人になる理由 (連載6回)
https://www.logi-today.com/400511
■時事コラム
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ
https://www.logi-today.com/356711
-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め
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物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
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好調決算支える「運賃値上げ」が意味すること
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ヤマトのDM便委託は「伏線回収」の始まりか
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コロナ発生時の初動、天災が人災と化すことを危惧
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越境ECは死語になるか、菜鳥網絡日本参入の意味
https://www.logi-today.com/407525
■取材レポート
業界の“風雲児”MKタクシーに聞く「タク配」の可能性
https://www.logi-today.com/380181
その仕事、港湾でもできますよ -兵機海運取材レポート-(連載3回)
https://www.logi-today.com/386662