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「物流人になる理由」第1回コラム連載

2020年10月5日 (月)

話題物流コンサルタントの永田利紀氏によるコラム連載第7弾がスタートします。物流の切り口から鋭く現代社会を捉える永田氏は、徹底した現場目線を信条とするコンサルタントとして豊富な現場経験を重ねてきました。今回の連載テーマは「人材」です。

第1章- 今までと今

「夢は物流業界で活躍することです」という就職活動中の学生さんや転職希望者の声を聞いたことがないのは、ひとえに私の世間が狭いからなのだろうか。似た感想を持つ読者諸氏がどのぐらいいるのか判らないが、少なくとも一般の経済・経営媒体などで大きく取り上げられた記事の記憶がない。

「物流業界は人材不足。‘腕におぼえあり’なら絶好のチャンスですよ」といい続けているが、経営幹部候補から現場のパート従業員に至るまで慢性的に質も量も不足したままだ。

■ 災害や疫病が教えてくれたもの

(イメージ画像)

今回のコロナ禍では生活者や事業者の声としてマスコミが大々的に取り上げたこともあって、物流の重要性と存在価値の具体的な実感が再認識された。というよりこれほど脚光を浴びたのは初めてではないだろうか。

地震や台風による暴風雨などの災害時には、物流が担っているライフラインの重要性が明らかになる。物資の供給は水道光熱と並ぶ生活必需機能だ。物流人が誇りと意志をもって不屈となる場面を称えて評価しない生活者はいない。縁の下で地味なルーティンを粛々とこなすことを常とする業務ながら、その本質は経済の血液といわれ、災害時には命をつなぐライフラインのひとつとなり、疫病が蔓延する中でも流通や配達を途絶えさせない。

そんな物流人にとっての「あたりまえ」を「輝いて尊いこと」に感じていただけたなら、業界にとって至上のよろこびにほかならない。

■ 静かで大きくて透明

平常時には物流機能のことなど意識しない人がほとんどだろう。それは当然のことだし、それこそが理想的だ。

(イメージ画像)

人々は物資供給の滞りや個人的な物品受領に関するミスの発生時に物流機能を意識する。言い換えれば、何の支障もない状態では無音で無色の空気のごとく存在するモノに近い。「物流人は標高ゼロの山頂を目指して歩き続ける」という拙論はそんな特性の一面を言い換えているだけだ。

この特性が物流業界への人材流入を妨げている要因のひとつなのだともいえるだろう。なぜなら往々にして企業では標高のある仕事が評価されるし、具体的な比較も明確になってわかりいい。その「わかりいい」評価が人事に直結し、役職や権限、報酬につながるのであれば、魅力を感じることは至極当然というものだ。

■ 逆風の時こそ

災害や疫病流行などの不可避な到来、人口動態に抗えぬ国内景気の縮小と消費の飽和感。意図せぬまま個人の意識は「内」へと向かう。その詳細は景気動向や消費マインド、労働意識と生活スタイルなどの専門家による各種解説を参照願いたいが、キーワードとして頻出するのは「分相応」「必要最低限」「できる範囲で」のような単語まじりのものだろう。

人々の生活意識や購買志向がいかにあろうと、物流は粛々と動き続ける。呼吸し水を飲むように、モノは求められるままに出荷され配送される。遥か昔から人々はそれを兵站と呼んで、必要不可欠な機能として認めてきた。

第2章- 矛盾から基調へ

近年、企業の喫緊課題として認識を強めている事項として、物流経費の評価がある。「うちの物流費ってどうなの。標準からして高いのか安いの。そもそもいくらなら適正なのかがわからないし、正解を導くための試算方法を知らない」という内部での会話は珍しいものではないだろう。

■ 創業以来

(イメージ画像)

「対前年」という計測方法は、企業経営において最も説得力とシェアを持つ基準となっている。直近の相対比較は足下の実感を反映しやすいし、前年の状況にかかわらず、字面には好調不調のイメージが即座に描かれる性質を持っている。

前期や前々期に特需による空前の増収増益、もしくは天災や疫病の流行による甚大な被害と事業停滞、人的・物的事故などに見舞われた、などの経緯を踏まえた当期損益の評価には、より以前の実績推移の勘案が必須だが、部分的切り取りによる短絡評論が後を絶たぬことも事実だ。

企業広報にしても、その傾向に乗じて好調な印象を前に出してみたり、漸減傾向の基調を不問にしたまま、前年の特異性を挙げて、今期業績の下振れを説明しようとする。それ以外の方法論など採らぬし、考えたことすらないという企業は多い。

■ 一喜一憂

「今日は昨日よりいい日だったので嬉しかった。ずっとこうならいいのに」「今週は先週みたいに楽しくなかった。学校が嫌いになりそうだ」と、青少年が日々めまぐるしく一喜一憂して感情を起伏させれば、教員や親を含む周囲の大人たちは、「もっと長い目で考えないといけない。生きていればいろいろなことが起こるのだから、そのたびにクヨクヨしたりはしゃいだりを繰り返していてはいけません」と諭すだろう。

しかし、その大人たちがひとたび企業に身を投じ、組織内で考えたり判断する際には、対前年や対前月、対同業種平均や対競合企業などの数値を引き合いに、一喜一憂するだけではなく、降格や昇進したり、職を辞したりして、場合によっては転勤や転居などでわが子の毎日を変えてしまいかねない事態を招いたりする。

■ 矛盾ではなく基調

大人たちの一喜一憂は、過去に比しての現在と、あくまで想像の域を出ない「きっと明日はこうなる」の思い込みに因るものだ。そこには合理性や論理性がないに等しいのだが、他の測定基準という代案の不保持者が大勢を占める企業内で「常識」として存えている。

(イメージ画像)

しかしながら、その常識も通じなくなろうとしている。それは戦後復興以来、長きにわたり右肩上がりの成長を続けてきた基調が変転することを意味している。経営に波動はつきものだし、事業とはそういうことを繰り返して成長してゆくものだ。という経営学の本を読んだ世代は、私あたりが最後になるのかもしれない。対前年比マイナスが当たり前で、減収増益や減収減益ながら堅調、といったひと昔前なら矛盾して意味不明とされた広報や評論が一般化するだろう。

小さくなる・少なくなる・増えない・戻らない、という市場環境下にそぐう物流機能を設計し、忠実に運営することが損益の分岐に大きく影響するようになるはずだ。その基調を早々に読み取った企業から順に生存可能性が大きくなるといえよう。

―第2回(https://www.logi-today.com/401617)に続く

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
■連載
コハイのあした(連載9回)
https://www.logi-today.com/361316
BCMは地域の方舟(連載3回)
https://www.logi-today.com/369319
駅からのみち(連載2回)
https://www.logi-today.com/373960
日本製の物流プラットフォーム(連載10回)
https://www.logi-today.com/376649
もしも自動運転が(連載5回)
https://www.logi-today.com/381562
あなたは買えません(連載5回)
https://www.logi-today.com/384920
物流人になる理由 (連載中)
https://www.logi-today.com/400511
■時事コラム
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ
https://www.logi-today.com/356711
-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め
https://www.logi-today.com/374276
物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
https://www.logi-today.com/376129
好調決算支える「運賃値上げ」が意味すること
https://www.logi-today.com/377837
■取材レポート
業界の“風雲児”MKタクシーに聞く「タク配」の可能性
https://www.logi-today.com/380181
その仕事、港湾でもできますよ -兵機海運取材レポート-(連載3回)
https://www.logi-today.com/386662