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古本尚樹:防災・危機管理アドバイザー

BCP専門家が語る「新型コロナ流行下の物流」

2021年1月18日 (月)

話題自然災害(雪害を含め)について考察する。年末年始から日本は、豪雪による影響を大きく受けている。まず年末の関越道などで大規模な車両の立ち往生、年末年始における数年に一度の寒波、更には先日の北陸における豪雪により北陸道などで大規模な立ち往生が発生している。一方で、今新型コロナ禍という国際的なリスク下にもある。これにより物流会社を含め倒産や従業員の健康対策が懸念される。またステークホルダーを守るためにはBCPを中心とした危機管理体制が重要なのだが、中小企業のそれは遅れている。

■海外の影響を受けやすい日本の物流

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新型コロナは国際的な物流、特に衛生用品や医薬品、食料品への影響が大きい。これは日本が輸入に傾倒している傾向が強い分野でもある。ここに生産拠点の多くある中国が絡んでいるのが、日本の物流に大きな影響を及ぼしている。すなわち大型の物流における動きに左右されやすい、いわゆるチャイナリスクに近い状況を作っている。その好例はマスクである。また医療用のグローブが高騰しているが、これはマレーシアが原産国で、そこでの国際的な取り合いも影響している。このように日本の物流は海外の動向を受けやすく、国際的な感染症のように長引くリスクには脆弱である。これは企業も国としてでもある。日本の物流は日本の企業活動と一体化しており、「両輪」でもあるのだ。

■多くの災害に見舞われた2010年代

一方で、1月17日は阪神淡路大震災から今年26年を迎える。そして3月11日には東日本大震災から10年の節目でもある。2010年からの10年間は特に日本では自然災害の多い時期であった。主な災害を挙げてみる。

平成30年台風第24号(2018年9月29日から10月1日)、平成30年北海道胆振東部地震(2018年9月6日)、平成30年台風第21号(2018年9月4日から9月5日)、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)(2018年6月28日から7月8日)、大阪府北部地震(2018年6月)、九州北部豪雨(2017年7月5日~6日)、熊本地震(本震)(2016年4月14・16日)、関東・東北豪雨(2015年9月9日~11日)、御嶽山噴火(2015年9月)、広島市土砂災害(2014年8月)、平成26年豪雪(2014年2月)、平成25年台風第26号(2013年10月)、平成23年度台風第12号(2011年8月)、長野北部地震(2011年3月)、東日本大震災(2011年3月)——となっている。

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年ごとの災害とともに、冬期間のような雪氷災害時における影響、特に物流への影響も大きい。先述の立ち往生の事例では、生鮮食料品を中心に北陸では店先から品物が消える事態になっていた。災害時における品不足は慢性的になっている。尚、新型コロナ禍でも共通の部分があるが、災害時に価格が高騰しやすいのは、野菜のうち特に葉物である。キャベツやレタス、ホウレンソウといった商品が品不足になりやすい。

■災害時の物流課題

災害時の物流は、基本的に以下のことが問題視される。

(1)元来、災害時における都市交通の脆弱さがあり、こうした場合物流が停滞、あるいは止まってしまい商品が消費者に届かない

(2)消費者の数~10%程度が多めに「買いだめ」すると都市の物流は混乱する

(3)デッドストックの最小化

(4)都市の流通構造(生産拠点→流通拠点→各店舗への階層 構造が多層かつ幅が広い)

このうち(2)に関しては、東日本大震災時は、日本全国で品不足の状態になったが、この件では東日本地区の人が主に「買いだめ」の意識の元動いて、日本全体に影響が及んでいる。

■気象条件に対してどれだけ敏感になれるか

ここからは今の時期、冬期間における物流について記述する。冬期間に車両の立ち往生が発生する原因はいくつかある。ノーマルタイヤであったり、スタッドレスタイヤであってもチェーンをしていない車両が雪に乗り上げる。またトラックなど大型車が一度、滞留すると大規模な立ち往生になることが知られている。大型車が止まると後続車のう回ができなくなる。

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国土交通省によれば、2015年度に国道で発生した雪による多数の車の立ち往生では、原因となった車6割をトラックなどの大型車が占めている(15年度に国道で発生した立ち往生の原因となった車547台のうち61%が大型車だった。中型車は24%、乗用車を含む小型車は15%だった)。勾配が5%以上の坂道での発生が目立ち、チェーンが未装着の車も多かった(把握されている300台が冬用タイヤだったが、うち約270台はチェーンを着けていなかった。道路の状況別では勾配が2~5%未満の道路で立ち往生した車が約140台だったのに対し、5~9%は約230台と大幅に増えた)。この立ち往生を回避するためには、物流業界などに大雪時の道路利用を控えるよう要請する必要を指摘する声もある。

一番の対策は、気象予報を把握し、危険が察知される場合はその個所を通過しないようにすることである。しかし、それができない場合、すなわち降雪の予報がある場合には立ち往生する可能性がより少ないルートを選択し、その影響を最大限排除するドライバーの危機管理対策が不可欠である。ひとたび大規模な立ち往生が発生すれば10時間以上になることは珍しくない。それであれば遠回りでも、より荒天にならないルートを最初から通るほうが賢明である。

課題は、その気象条件に対してどれだけ敏感になれるかである。最近の豪雪は局地的である。降り始めた時にはすでに手遅れになっていることがほとんどである。道路管理者における除雪能力には限界があり、かつ除雪をするためには自動車等車両が除かれた状態でなければ、基本出来ないので、立ち往生が発生してからの除雪は二重に手間がかかるのである。また、物流が滞ることで市民生活にも影響が出るので、そのためにも回避を目指す必要がある(安全と市民生活への影響を回避するため)。

■コロナ禍で対応がより難しく

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先述のように、ドライバーの安全やロジと呼ばれる物流での影響により、市民生活では商品など物資が届かない等に加えて、現在は新型コロナ禍である。ソーシャル・ディスタンスの確保の観点から、人的接触は感染へのリスクを伴うので、極力避けなくてはならない。このため、除雪や支援物資の配布等でも注意が必要になる。また大人数での支援が難しいので、それだけ時間もかかる。一方、災害時の物流は我が国では脆弱で、すぐに店頭での品不足になりやすい。小売店では在庫をあまり置かないシステムや流通経路が多層にわたっていることなど災害対応には不十分なところがある。

2018年1月にも北陸自動車道では立ち往生が発生し、最大400台以上の車両がこれに巻き込まれた。また同年2月には国道8号で最大1500台の立ち往生が発生している。この時は大型車の脱輪などによる渋滞や、並走する北陸自動車道の通行止めによる車流入が原因とみられる。こうした過去の事例から道路管理者を中心に対策が講じられてきたわけだが、今回も立ち往生が発生した。この北陸地域の高速道また一般道における冬期間の安全対策としてハード面とソフト面双方からの対策見直しが必要と思われる。

■ハードとソフト双方からの対策見直し

(1)除雪体制

著者の調査では、全国の国道や高速道での立ち往生においては、県境がネックになることが多い。高速道だと除雪ステーションを設置しにくいポイントにあることが考えられる。国道では国が管理するのだが、県境は地理的にも勾配のあるところが多く、降雪しやすいところが多い。そのため除雪対応も遅れがちになる背景があるとみられる。

(2)万が一の立ち往生に備えたドライバーと外部からの支援体制の強化

まずドライバーが自分達も立ち往生を助長する立場にならないような配慮が必要である。タイヤやチェーンの装備、情報の確保等が必要だ。また、自治体や災害派遣の自衛隊、沿道の地域住民もこれまで多くが支援活動に関与してきたので、「三位一体」での支援を目指し、各分業と、協力体制をきちんと確立すべきと思われる。特に北陸など「災害」の経験があるところでは必要と思われる。この協働の支援体制が「立ち往生」の場合確立されていない。災害派遣による自衛隊が来るまでの間、県レベルや住民レベルで各自ができうることを明文化して、合同訓練も行うべきである。また業務継続計画BCPも、こうした事例に特化した形で策定すべきだろう。

(イメージ画像)

先の関越道での立ち往生事例からも指摘する。このエリアでの主要な道路は、関越道か幹線道路だと国道17号になるが、セーフティネットとして、国道が使えない時は高速道、高速道が使えない時は一般道という基本的な考えになる。今回高速道で大規模な立ち往生が発生したが、関越道で仮に早期通行止めにしていたら、おそらく幹線の国道17号で同じことが起きていたと予測する。この問題は一般道と高速道双方で対策を講じる必要がある課題なのである。高速道での急な降雪・豪雪対策では除雪体制の強化もあるが、情報に関係する部分が特に大きい。

研究の分野で、実は自動車に利用していることが今やほとんどと思われるナビゲーションに、降雪に関する情報、また待機場所(避難)、除雪の状況やう回路を反映させることができるように、製造メーカーを中心に取り組みがされている。VICSが渋滞情報をナビゲーションに反映させるのを、降雪関連情報によるバージョンにもするようなイメージになる。まだ、一般向け実用化には金額的なことも大きく、まだ時間がかかりそうだ。通常の災害であれば、ラジオが様々な情報を得るのに活躍することが多いが(例えば、東日本大震災)、この移動する車両とその同乗者への対策が、冬期間の立ち往生に関する問題では重要であり、そこに車両に取り付けられることが多いナビゲーションに目をつけているのは、期待できる。

高速道路だけでなく一般道と合わせて対策を議論し、構築する必要があることに加えて、高速道特有の課題がある。高速道路から非常時に一般道へ避難する道路が基本的に一般車用に確保されていないことだ。だから、ボランティアで近隣の人がスノーモービルや徒歩で近づいたり支援にあたったり、わずかな隙間の部分を高速道から徒歩で移動できるように、除雪して、一般道側の食堂等への移動を確保している。

(イメージ画像、出所:国交省)

こうした雪氷災害対策用にも使えるし、非常時の通行止め対策に、非常用避難道をある程度確保すべきと思われる。また、先述のようにこれまでの事例においても、食料や物資の提供に沿線住民が協力してくれることが多い。あくまでの自主的なボランティアの状態である。立ち往生しているドライバーや同乗者にとっては、ありがたいことと思う。自衛隊の災害派遣も同様だが、こうした沿線の地域住民における自主的な活動に感謝しながら、災害時、特に冬期間における支援のあり方として、ボランティアでありながら、自主防災組織に近い形で、今後確固たる形で組織化できるように国や自治体も「後押し」するべきだと思う。

対策の中で、情報をいかに移動するドライバー等へ伝達するかは、非常に重要な部分になっている。ひとたび立ち往生が発生すれば、数百台単位で生じることは珍しくない。気象条件とともに、通行量の把握が重要だし、特に局地的な天気の変化に対してビビットにならなくなくてはならない。道路管理者としてはこの部分が最新で細かい配慮が必要だ。そのうえで、う回路あるいは一時避難所の確保と誘導を早める必要もある。

また、立ち往生が万が一発生した場合において、状況把握が今回不明瞭だったことも今後改善しなくてはならない。当初、ネクスコでは立ち往生の車両数における正確な数字がわからない旨の説明をしていた。トンネル内での状況なども把握しきれなかったようだが、これでは支援をする側の物資量や人員手配にも悪影響を及ぼす。正確な状況把握をするための対策は急務で、例えば、Nシステムの活用や高速道入口通行時の画像把握などを検討したい。

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一方で、冬期間の豪雪地域を移動するドライバー自身も自主的な対策が重要である。暖房対策、ガソリンなど燃料不足による暖房確保ができないこと、積雪による車両マフラーの埋まりを防ぐこと、狭い空間でのいわゆるエコノミークラス症候群対策等も欠かせない。情報を得るためのスマートフォンの充電対策も必要である。

特に課題になるのが、食料とともにトイレの確保である。自然災害時の避難所でも同様のケースが見られるが、トイレの利用を我慢するがゆえに、水分の補給を避ける避難者が、結果脱水症状や栄養状態の悪化、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)等の健康障害を引き起こすおそれが生じる。健康を害する危険があるので、車内における簡易トイレのストックや、先述の一般道の例えば道の駅あるいは高速道PAへの移動確保を勧める必要がある。その際も、優先されるのは要配慮者、すなわち体の不自由な人や高齢者、乳幼児、妊婦等である。

■危機管理体制の確立求められる

一方で物流会社や日本の経済環境、新型コロナの影響で、企業そのものが倒産等してマンパワー不足になっている。いわゆる働き方改革もあり、ゆとりのある物流との兼ね合いを目指しているといえるだろう。しかし、自然災害や新型コロナ禍での経済への影響は、物流を支える企業や商品を動かすドライバーの労働環境自体を狭めている。大中小とある物流を支える企業がこうしたリスク下で事業継続できるBCPを有してるか——には、かなりの格差がある。

普段、私はBCP(Business Continuity Plan=業務継続計画)が専門分野であるので、企業等で講師を務めていて実感することがある。我が国でのBCP策定している大企業は概ね8割を超えている。その一方で、中小企業や個人事業主のそれは2~3割程度である。しかも、中小企業ではBCP策定推進が中小企業庁等関係機関からも要請されていながら、なかなか進まない。正確には進められない環境がそこにあるからだろう。大企業と異なり外部からの指導者を呼ぶ資金的な余裕はない。

またBCPには定期的なアップデートと訓練が必要だが、それも困難になってくる。今回の新型コロナでは、危機管理体制の弱い企業から倒産等になっている。また、危機管理体制に感染症対策として経営や従業員の健康対策などを盛り込んでいる企業は、大企業でもまだ数は少ない。

日本では東日本大震災や西日本豪雨など近年連続して災害により、大きな被害が出ている。更に現在のような新型コロナ禍である。これにより多くの小売り業や観光業など倒産が相次いでいる。8万人に及ぶ関連解雇者が出ている。この深刻なダメージを克服していくためにも、新型コロナ対策を加味したBCPを起点としたリスク対策が浸透することが期待される。また、この経験を活かした危機管理体制の確立が企業には求められる。


■古本尚樹(ふるもとなおき)
昭和43年5月3日生まれ(52歳)
札幌市在住
肩書:防災・危機管理アドバイザー(博士[医学])
専門分野:新型コロナウイルス対策(特に住民・自治体・企業対策、また企業の従業員健康や雇用への対策、企業業務継続計画[BCP]、経済との関係など)、企業危機管理、災害医療、自然災害における防災対策・被災者の健康問題など。また、企業等の人材育成にも携わっています(銀行や自治体など)。
(阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターリサーチ・フェロー、西日本放送【香川県】ラジオコメンテイター、信越放送【長野県】ラジオコメンテイター)
個人ホームページ:https://naokino.jimdofree.com/

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(編集部) 

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