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「物流2024年問題直前対策会議」レポ(6)/農林水産省・青木貴広氏

農産物の物流は24年問題を乗り越えられるのか

2024年3月15日 (金)

話題2024年問題で深刻化する輸送力の不足が、30年には30%に達するとする試算もある。とりわけ、農産品は都市部から離れた地域で生産されるために、長距離の輸送が必要となることも多く、他産業以上に輸送力不足の深刻さが指摘されている。24年問題を超えて、農産品の物流、流通はどうなるのか、政府の舵取りも注目されている。

LOGISTICS TODAY主催のイベント「物流2024年問題直前対策会議」のなかで、農林水産省で農産品の物流対策を担当している青木貴弘氏(大臣官房新事業・食品産業部食品流通課企画調査班企画係長)に聞いた。

生鮮食品輸送の97%を支えるトラック輸送には問題が山積

▲農林水産省の青木貴広氏

24年問題は物流業界の働き方改革によりトラックドライバーが不足し、物流の停滞が懸念される問題であるが、特に農産品の物流はトラックへの依存度が高く、影響が大きいと青木氏は語る。「21-22年のデータでは、農水産品・食品の物流はおよそ97%がトラックによる輸送です。また、特に生鮮品の輸送では、長距離輸送が多い、ばら積みによる手荷役作業が多い、荷下ろし時間の集中などにより待ち時間が長いといった特徴があり、他品目と比べてもドライバーの拘束時間が長くなっています」(青木氏、以下同)

ほかにも、ドライバーの拘束時間が長くなっている背景として、特に野菜・果物といった青果物の輸送では、一般的に1人のドライバーが、産地側において複数箇所で積み込み、消費地までの幹線長距離輸送を行い、消費地側でも複数箇所で荷下ろしを行う実態が挙げられる。また、パレットの使用率は近年向上してきているものの、ばら積みが4割ほど残っており、使われているパレットも木製やプラスチック製、11型や12型など、その他さまざまな規格が混在している。また、パレット積載であっても、荷下ろし時間が集中することで、ピーク時にフォークリフトや作業人員が不足し、待機が発生するケースもある。

生鮮品流通のすべてのプロセスを改善

農水省は、2024年問題への対応策として、(1)長距離輸送の削減(2)荷待ち・荷役時間の削減(3)積載率の向上・大ロット化(4)トラック輸送への依存度の軽減──の4類型があり、これを地域や品目の実情にあわせて組み合わせて対応してほしいと訴える。イベントでは、特に有効と考えられる中継輸送・大ロット化、パレット化、モーダルシフトの3つの対策について、農水省の取り組みと現場の先進事例が紹介された。

農産品の24年問題対策(1)中継輸送と大ロット化

「今後、ドライバーの1日当たりの拘束時間の上限をクリアし、ドライバー、特に働き方を重視する若いドライバーを確保していくためには、日帰り運行が可能となるよう日本各地に中継共同物流拠点を整備し、産地での集荷・消費地での配送と長距離幹線輸送をそれぞれ別のドライバーで分担し、長距離輸送も途中の拠点でリレーできるような流通網を構築する必要があると考えています」

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実際に、高知県では00年ごろから県内の小口品目を一元的に集約し、大型トラックに満載して出荷する体制が構築されているほか、九州でも、北九州市中央卸売市場の敷地内に、九州各県の荷を集約して関東・関西の消費地へ大ロット輸送・モーダルシフトを行う拠点が整備されるなど、遠隔地を中心に取り組みが始まっている。

農産品の24年問題対策(2)パレット化で積下ろしを短縮

また、積み込み・荷下ろし時間を大幅に削減できるパレット化も効果的な対策である。

「農水省では、23年3月に『青果物流通標準化ガイドライン』を策定し、11型プラスチック製レンタルパレットを標準仕様として定めました。これに基づき、産地側では11型パレットに適合し、パレット化による積載率の低下を可能な限り抑えた段ボールサイズへの変更・標準化を、卸売市場側では関係者によるパレット管理の体制・ルール作りを推進していくこととしています。実際に、例えば佐賀県では主産品であるたまねぎ・みかんの大部分でパレタイザーが導入されており、パレットへの積み付け、トラックへの積み込みが機械化されているほか、これまでばら積み輸送だった北海道のかぼちゃ、福岡のなす、宮崎のきゅうりやピーマンなど、全国の各地域・品目でも相次いで輸送試験が行われています」


▲(左から)抑制かぼちゃの11型パレット輸送、市場内仲卸配送用パレットの循環実証

こうした施策は青果物だけでなく水産物や「花き」でも進められている。

トラックを中心とした物流だけでなく、パレタイザーや共同配送システムの導入、トラックバースやフォークリフトの拡充など、積み下ろし地での作業も効率化をすることで、荷役や待機などの問題を解決していく必要があるだろう。いずれにせよ、産地から消費地までのすべてのプロセスを見直すことなくしては、生鮮食品の流通の効率化はなしえないといえる。

農産品の24年問題対策(3)モーダルシフトの早期着手を

「鉄道・船舶へのモーダルシフトは、農産物は出荷量の季節波動が大きく、通年でロットを確保しにくいこと、振動による輸送品質への影響、トラックの方が安価であること、異常気象・災害時の柔軟性が低いことなどが、拡大に向けた課題となっています。こうした課題に対し、県をまたいで複数産地の荷を積み合わせたロットの確保、振動を抑制する輸送機材の活用といった取り組みが行われています。輸送コストは難しい問題ですが、今後トラック輸送がさらにひっ迫していくことを踏まえて、今のうちから鉄道・船舶の利用割合の拡大について検討いただきたいと考えています」

全国でも特にモーダルシフトが進んでいるのが北海道と宮崎県とのことで、北海道では地理的な条件から道外への輸送のすべてで鉄道か船舶を利用しており、宮崎では宮崎港・志布志港・大分港を活用し、既に県外出荷の57%でフェリーを活用、24年には70%に向上させる目標を立てている。

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農林水産省でも全国の取組を支援

農水省では、昨年12月に農林水産大臣を本部長とする「農林水産省物流対策本部」を、また本省・各地方農政局に「農林水産物・食品物流相談窓口」を設置している。物流の確保に不安や課題を抱えるJAや食品業者などに対し、職員の現地派遣も行いながら伴走して取り組みを進めていく考えだ。

「省本部による現地へのサポートに加え、物流改善に幅広く活用できる実証や機器導入の予算も措置しており、こうした支援策も活用いただきながら、各地で取り組みを進めていただいければと思っています」

24年問題に関連して運送業界では運賃交渉が進みつつあり、高騰する燃油費の転嫁が進んでいる。農産品の物流においても、各地で運賃交渉が始まっており、多くの地域で運賃は上昇する見込みだ。他方で、荷主にとっては輸送費の上昇だけでなく、物流対策に伴って生じる中継拠点の利用料やパレットレンタル料といったランニングコストや、設備やシステムへの投資がのしかかってくる。

日本は長いデフレのトンネルを抜け、緩やかなインフレを迎えている。農林水産省でも、物流費だけでなく資材費も含め、原価を考慮した価格形成に向けた議論が進められているところだが、消費者側でも、全国の農業と、それを営む生産者が持続可能であるために農産物の価格上昇を一定程度受け入れていく必要があるのではなかろうか。