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「物流2024年問題直前対策会議」レポ(10)/Azoop・朴貴頌社長

「運送業界と一蓮托生」で、経営DX普及進める決意

2024年3月18日 (月)

話題15日のLOGISTICS TODAY主催イベント「物流2024年問題直前対策会議」にAzoop社長の朴貴頌氏が登壇した。朴氏は、自身が家業(トラック運送業、商用車流通業)の取締役として、トラック運送事業者の事情に精通。こうしたバックグラウンドが課題解決のためのAzoop設立につながったと語る。そんな運送会社目線での改革を主導する朴氏は、24年問題という重大局面に、トラック運送事業者がどう立ち向かうべきなのかについて、「利益の最大化に向けて取り組むこと」と、明快に答える。

▲(左から)LOGISTICS TODAY編集長の赤澤裕介、Azoop 代表取締役社長・CEOの朴貴頌氏

運送事業は利益率が極めて低い業界である。さらに、ドライバーの働き方を改善することで会社の収益が低下すれば、どこで利益を生む経営構造にできるか、これまで以上に精査し、原価計算を見直すことが必要だ。

とはいえ「しっかりと原価計算を経営に生かしている事業者は、10%といったところでは」と、朴氏は肌感を語る。見方を変えれば、原価計算に取り組んで利益最大化に取り組めば、まだまだ経営改善の余地がある会社も多いということ。同社は、運送事業経営支援ソフト「トラッカーズマネージャー」で、車両やドライバーなどのデータを一元管理することで、経営の改善点の可視化をサポートし、原価計算に基づいた経営体質への変革を促している。

▲トラッカーズマネージャー概要イメージ

「運賃交渉」にどう取り組めば良いのか。Azoopが伴走した適正料金収受の取り組み

利益最大化に向けて、自社努力で取り組めることの1つは、もちろん収益を増加させること。現在可能な打ち手としては、収益の上がらない案件や運用を見直し、しっかりと収益を産む構造に変えることだろう。行政による「標準的な運賃」の改定や、荷主対策の深度化も進められており、環境自体は整いつつある。「まずは、運賃交渉に取り組むことが、利益最大化のための1つの方策です」(朴氏)

この、運賃交渉が難しいという事業者が圧倒的多数であろう。労務費や燃料コスト、車両維持費の高騰分は、当然運賃価格に反映しなければ十分な収益を上げることなどできない。また、附帯作業料金、有料道路料金などは運賃とは別建てでの収受も必要だ。運賃交渉による適正な料金収受ができなければ、ドライバーの賃上げ原資など捻出しようがあるまい。ならば運賃交渉は、「苦手」「わからない」ではなく、「やらなければならない」ことなのである。

「荷主との運賃交渉には、燃料費や人件費などを考慮した合理的な金額を提示して、納得してもらうことが必要」(朴氏)であり、事業経営のDX化を伴走型でサポートする同社は、実際にトラッカーズマネージャーを活用した運賃交渉データ作りに取り組んだ事例を、「どの荷主か」「どの仕事か」「いくら上げるか」の過程にわけて紹介する。まず交渉を優先すべき荷主を、運賃と案件数の大小で変わる交渉難易度から選定(どの荷主か)、さらにその荷主ごとに案件数の多い運賃レンジを算出して実際のコストと比較して適正料金かを分析、人件費・燃料費・車両費を踏まえた概算コストを算出してベースアップすべき案件を明確にし(どの仕事か)、上乗せが妥当と思われる増額分を算出する(いくら上げるか)というプロセスに、一緒に取り組みながら、運賃交渉に臨む武器を整えたという。

もっともここまで準備しても、荷主の特殊な事情やタイミングなどを理由に満足な結果が出ないこともある。それでも、朴氏自身が家業を通して目にした運送業の課題である「どんぶり勘定」からの脱却、持続的な経営に向けた企業の基礎体力は向上し、必ず次の改善に生かせるはずだ。

トラックの「健康寿命」可視化など、DXで実現するコスト削減

▲健康寿命とは(クリックして拡大)

そこで必要となる、運送会社の利益最大化のもう1つの打ち手は「コスト削減」であり、朴氏は「トラックの健康寿命を見直す。車の運用ひとつで利益を創出できる」と言う。

同社では、運用すればするほど赤字となる車両の代替えが必要となるタイミングを、トラックの「健康寿命」と定義し、車両の収支を管理・分析して可視化することで、コスト改善に大きく貢献すると説く。健康寿命を把握できれば、運用場所の転換、資産価値が落ちない段階での売却、あるいは健康寿命自体を延ばすといったことにも取り組むことができる。もちろんそれには、車両に係る故障、点検、修繕の履歴をデータで一元管理しておくことが必要であり、トラッカーズマネージャーの機能が発揮される領域となる。「修繕費はブラックボックスとなっているケースも多いですが、しっかりと管理すれば修理会社ごとの工賃や、また修繕が必要となる頻度などもわかり、車両維持のコスト削減につなげる」(朴氏)こともできる。

中小運送事業者にとってDX投資は難しい判断である。目的化した目先のDXに飛びついたことでの失敗事例も聞こえてくる。朴氏はDX経営実現のポイントは「社長・経営者のコミットメント」であり、「しっかりと目標を見定めた」舵取りだと語る。そうした改革への取り組みに、同社もまた、運送事業者と「一蓮托生で」(朴氏)、改革の実現を支える決意を語った。