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「物流2024年問題直前対策会議」レポ(5)/国土交通省・仲澤純氏

国交省が改正法解説、「社会一丸で物流を支える」

2024年3月15日 (金)

話題本誌LOGISTICS TODAY主催の3日間にわたる大型イベント「物流2024年問題直前対策会議」。官民の物流キーパーソンが集結する今回のイベント、2日目となる14日に登壇したのは、まさに物流革新の中核、国土交通省物流・自動車局の仲澤純氏(貨物流通事業課貨物流通経営戦略室長)である。

▲国土交通省物流・自動車局の仲澤純氏(右)。後ろのスライドは、物流が困難となったことが原因で現在は無人化した島を調査する様子

2月13日に「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」「貨物自動車運送事業法」の改正案が閣議決定されたばかりとなるこのタイミング、仲澤氏からは今回の改正のポイントが解説された。

今回の法改正のポイントは3つ、「荷主・物流事業者に対する規制的措置」「トラック事業者の取引に対する規制的措置」「軽トラック事業者に対する規制的措置」となる。

荷主・物流事業者に対する規制的措置

まず、「荷主・物流事業者に対する規制的措置」は、荷主・物流事業者間の商慣行を見直し、荷待ち、荷役時間の削減や積載率の向上を図るもの。荷主(発荷主・着荷主)と物流事業者(トラック、鉄道、港湾運送、航空運送、倉庫)、それぞれに物流効率化へ向けた「取り組むべき措置」への努力義務が課された規制的措置が導入され、国が策定した「判断基準」に基づき、取り組み状況に応じて「指導・助言」や、「調査・公表」が行われる。

さらに輸送量の半分程度を占める企業を特定事業者として指定し、中長期計画の作成や定期報告などが義務付けられ、計画に基づく取り組みの実施状況が不十分な場合、「勧告・命令」を実施する。また、特定事業者のうち荷主に対しては、「物流統括管理者の選任」を義務付けており、企業の経営レベルでの物流への取り組みや責任の明確化を図る。

仲澤氏は発荷主だけではなく着荷主も、トラックだけではなく鉄道、港湾、倉庫まで、物流業界「みんなでいっしょに取り組む」意義を説き、業界一丸での取り組み、サプライチェーン(SC)全域での「意識合わせ」での改革実行を呼び掛ける。

ここでの「取り組むべき措置」としては荷待ち時間の短縮、荷役時間の短縮、積載率の向上──の3項目を提示。「判断基準」については、「荷待ち時間の短縮」のための適切な貨物の受け取り、引き渡し日時の指示、予約システムの導入、「荷役時間の短縮」でのパレット活用、標準化、入出庫の効率化に役立つ資機材の配置、荷積み・荷下ろし施設の改善、「積載率の向上」での十分なリードタイムの設定、運送先の集約についての取り組み──などを想定し、改正法案の可決後、ガイドライン的な形でより詳細な判断基準が示されることとなる。

トラック事業者の取引に対する規制的措置

「トラック事業者の取引に対する規制的措置」で、多重下請け構造にもメスが入れられる。貨物自動車運送事業法の改正では、元請け事業者に対して、実運送事業者の名称などを記載した実運送体制管理簿の作成を義務付けた。荷主・トラック事業者・利用運送事業者に対し、運送契約の締結に際して、提供する役務の内容やその対価(付帯業務料、燃料サーチャージなど含む)について記載した書面による交付も義務化される。

トラック事業者・利用運送事業者には、ほかの事業者の運送利用、すなわち下請けに出す行為について適正化の努力義務が課され、中でも一定規模以上の事業者には、管理規定の作成、責任者の選任が義務付けられている。

仲澤氏はこうした法改正を通じて「下請けに仕事を出す業務の適正化」への意識を高め、実運送会社が適正な運賃収受で、ドライバーの賃上げ原資が確保できる体制作りを目指す。

軽トラック事業者に対する規制的措置

EC(電子商取引)の拡大で需要が増すラストワンマイル配送領域では、「軽トラック事業者に対する規制的措置」が定められた。これは、軽トラック運送業において死亡・重症事故事件数が最近6年で倍増していることに対応するもの。軽トラック事業者には、必要な法令知識を担保するための管理者選任と講習受講、国交大臣への事故報告を新たに義務付けた。また、国交省による公表対象に、軽トラック事業者に関する事故報告・安全確保命令に関する情報などを追加し、「緊張感を持って取り組む」(仲澤氏)ことを促す。

安全対策こそが、事業で車両を運用する事業者にとっての生命線であることを、軽トラック運送業のみならずすべての関係者が意識し、物流危機を理由に後回しすることないよう再確認する必要があるだろう。

さらに「トラックGメン」「標準的な運賃」「自主行動計画」で改革後押し

こうした法改正を待たずに、昨年の「政策パッケージ」「緊急パッケージ」を通してすでに実行に移された施策も、すでに商慣習の見直しに効果を表している。

昨年組織されたトラックGメンは、荷主・元請け事業者への監視・指導を強化、取り組みを強化した「集中監視月間」では、2か月間で106件以上の「働き掛け」「要請」などを実施、最も重い処分である「勧告」2件も初めて実施し、改革の「本気度」を示した。

また、現状の水準に則した「標準的な運賃」「標準運送約款」の見直しも進められ、運輸審議会の答申を終えて告示を待つ状況となった。適正な運賃交渉の基盤となるものだけに、業界内の周知と積極的な活用が求められる。

さらに、政策パッケージとともに公表された「ガイドライン」に基づいた企業・団体の自発的な「自主行動計画」策定を促し、現在120以上の企業・団体が、物流革新のための活動指針として公表している。改正法の施行までには時間があるため、まずは自主行動計画による取り組みとフォローアップを進めることで、歩みを止めることなく物流革新を進める。

法改正など規制的措置の話題が先行するが、輸送モードの変更や、物流効率化の取り組みを支援する予算措置も整理された。政策パッケージ関係予算案として、23年度補正予算案と24年度当初予算案合わせて一般会計404億円、財政投融資322億円、自動車安全特別会計9億円などが、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)やモーダルシフト推進、担い手の多様化や宅配での再配達率半減に向けた取り組み、即効性のある設備投資、効率化の推進や物流拠点の機能強化、高速道路料金の大口多頻度割引の拡充や特殊車両通行制度の利便性向上──に充てられ、エネルギー対策特別会計506億円で物流GX(グリーントランスフォーメーション)とDXなどを推進する。

求められる「協調」「自発的な取り組み」

仲澤氏は、政府のこうした施策の意義を、物流業界の持続的な成長を図り、商慣行の見直しや行動変容を「仕組みで支える」こととする。法改正による変化だけではなく、さらに再配達率の削減や、モーダルシフトなどガイドライン項目への対応を進めながら、官民あるいは企業同士で協力して支えていく仕組みを用意して後押しする。政府としても関係省庁横断的な取り組みで対策を主導し、「関係省庁連絡会議」などが政策パッケージなどへと結びつくなど、連携と協調による成果を体現しながら改革の方向性を指し示す。

粘り強い持続的な活動には「自発的な取り組み」(仲澤氏)となることが不可欠であり、こうした意義を理解して積極的な取り組むことが求められるとともに、適正な取り組みには政府としてしっかりと環境を準備して応える。新しい「標準的な運賃」の運用においては、トラックGメンと連携するなど、各事業者が用意された仕組みを活用することで、有効性の高いものとすることも必要であり、本当の意味での「標準的運賃」として定着するまで続けていかなければならない。

また、多重下請け構造の是正ではトラック確保がますます難しくなるなど一時的な混乱も指摘されるが、荷主や元請け事業者が、実運送事業者を「まずは意識すること」(仲澤氏)、構造の可視化によって業界全体が適正な料金収受へ向けたレベル合わせができるよう「一歩進めることが大事」(仲澤氏)として、長年の課題へ踏み込んで抜本的な解決への姿勢を示し、それぞれの取り組むべき課題に向き合うことの積み重ねによる革新を促す。今後、改革に伴って運送業界の再編も予想されるが、「良いことをする企業が増えていくことは望ましいこと。そのための協調や連携、効率化も当然増えていくべき。(運送会社を増やす、減らすの観点ではなく)こうした良い取り組みを増やしていくことに、注意を払っていく」(仲澤氏)ことが語られた。

仲澤氏はSC全域での物流革新に向けて、「届けてもらう消費者も物流関係者」と再認識すること、持続可能な物流を作るのは物流関係者だけではなく、私たち全員で支え合うことの大切さを呼び掛けていく。