話題本誌LOGISTICS TODAY主催の3日間にわたる大型イベント「『物流2024年問題』直前対策会議」。13日は、エコランド(東京都杉並区)社長の高嶋民仁氏、金羊社ロジテム(大田区)社長の天野祐一氏が登壇、モデレーターをトラボックス(渋谷区)会長の吉岡泰一郎氏が務め、「運送経営者、24年問題に物申す」をテーマに討論が行われた。
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高嶋氏は運送事業経営から、エコ回収、買い取り事業を展開するエコランドを分社化。また、勤怠管理システム「勤怠ドライバー」を提供するロジ勤怠システム(杉並区)の代表としても、運送事業経営の知見からドライバーの働き方改革や物流業界の構造の変革にアプローチする立場である。
一方、天野氏は、運送会社R5エクスプレス(川崎市高津区)の創業から、エンターテインメント関連印刷物の運送を預かる金羊社ロジテムの経営を継承、現在運送会社シクロシュプリーム(群馬県邑楽町)の共同経営者として、24年問題の最前線に立っている。
今回のモデレーターを務めた吉岡氏のトラボックスは、累計運送会員数2万件以上、年間マッチング実績70万件の実績を持つ求荷求車サービス提供者として、2人とはまた違う立場から、物流業界への提言をとりまとめた。
荷主、運送会社に「まずこれを言いたい」
24年は運送事業にとって、正念場である。事業の舵取り次第で、事業の存続、さらにはインフラとしての物流維持にも影響を及ぼす。物流業界はこの局面に、どう立ち向かうべきか。
高嶋氏は「コンプライアンスを守る経営をすると決めること」がまず第一と訴える。運送会社の経営者自身が襟を正して会社運営の方向性を定めなくては、物流の改革は先導できない。順法精神に則った経営となっているか、あらためて見直す必要がある。
天野氏は「誰が運んでいるかを知ること。責任を持って仕事を流すこと」が基本として、物流サービスにおける責任を担い、多重下請けの是正にもしっかりと関与していく姿勢の重要性を説く。
両者ともに共通して訴えるのは、経営改革が成功するかしないか、また運送事業者として生き残れるかは「経営者で決まる、経営の手腕にかかっている」ということ。政府が法改正などさまざまな対策を実施し、物流危機の状況が社会的にも広く認知され始めた今、経営改革の土壌は育っており、「実運送会社にとってはチャンス、今やらなければいつやる」(天野氏)と語る。
物流業界の実情、社会的認知はまだまだ?
24年問題について報道される機会も多くなり、一般への認知が進んだとはいえ、「もっと物流業界のことをよく知ってもらいたい」との思いも重なった。天野氏は貨物車両事故などについて運送事業の営業ナンバー車によるものばかりと勘違いされることをあげ、一般車による多くの事故まで運送業者のイメージ悪化につながる「勘違い」が見直されてほしいと言う。運送業界の地位の低さがこうした誤解を生んでいる側面もあると思われるだけに、運送業界を知ってもらうこと自体が物流課題の解決にもつながっていくのかも知れない。
高嶋氏も「安全はタダじゃない」との表現で、点検、点呼、運行指示など多様な人たちがかかわっていること、安全な運送のために大きなコストと労力、努力が伴っていることを知ってもらいたいと語る。身近なラストワンマイルだけではなく物流業界全体を知り、「適正な事業者」を見極めることも、物流業界の成長に不可欠なのである。「正しい事業者に正しく発注すること」(高嶋氏)が、物流産業を育てることにもなり、物流関係者にとっても大切な視点だ。
「その荷物、本当に急いでますか?」、SC全域での解決課題へ
天野氏の金羊社ロジテムは、適正な運営で24年問題とは無縁としつつも、運送業界特有の悩みとして「外部要因が多すぎる」ことを挙げ、混雑や事故、災害などが事業リスクに直結する現状の改善を求める。道路、物流インフラの整備など、国が主導必要な部分も大きい。
高嶋氏は「その荷物、本当に急いでますか?」とあらためて問いかける。サプライチェーンの全域でリードタイムの見直しへの協力体制が出来上がれば、大きな物流の改善につながるはずである。物流業界の一番の課題は、繁閑の波動の大きさが平準化の障害となっていることであり、多重下請けを「必要」とする要因にもなっている。急ぎではない荷物は積極的に余裕を持った着日指定とする習慣を、消費者レベルまで広めていくことも重要だ。
今回の討論では、「若い人が来やすい業界へ向けて、足並みをそろえて裏切ることなく」(天野氏)、コンプライアンスに則った改革を続けていくことの大切さが参加者で共有された。また新たな障壁が立ちはだかることも予想されるが、経営者を先頭に着実に前進していくこと、適正な事業者としての舵取りが重要だと総括した。
<目次>
▶特集(1)もはや30年への対応へ、加速する改革に遅れるな
▶特集(2)軽トラック事業への規制的措置は、どこを目指す?
▶特集(3)環境は整った、後は運送会社自身に求められる改革
■「物流2024年問題直前対策会議」レポート
(1)着々と進む政府の物流革新、さて企業の準備は?/経済産業省
(2)成約事例から見る、失敗しない物流M&Aの進め方/スピカコンサルティング
(3)24年問題を追い風に、フジトランスポートの快進撃/フジトランスポート
(5)国交省が改正法解説、「社会一丸で物流を支える」/国土交通省
(6)農産物の物流は24年問題を乗り越えられるのか/農林水産省
(7)2代目社長が挑む、改善基準告示100%順法経営/菱木運送
(8)積載率向上へ、共同輸送のチャレンジにみんなも続け/プロロジス、NEXT Logistics Japan
(9)効率化が義務となり、予約受付システムも進化続く/Hacobu
(10)「運送業界と一蓮托生」で、経営DX普及進める決意/Azoop
(11)効率化の決定打「そうだ、ETCという手があった」/古野電気
(12)運送マッチングから生み出す、新しい物流のうねり/トラボックス