話題2月に閣議決定された物流関連の改正法案では、「荷主・物流事業者に対する規制的措置」が規制的措置として導入された。荷主(発荷主・着荷主)と物流事業者(トラック、鉄道、港湾運送、航空運送、倉庫)、それぞれに物流効率化へ向けた「取り組むべき措置」への努力義務が課され、さらに一定規模以上の企業には中長期計画の作成や定期報告などが義務付けられ、計画に基づく取り組みの実施状況が不十分な場合は「勧告・命令」を実施するとしている。
この「取り組むべき措置」には、荷待ち・荷役時間の削減とともに、「積載率の向上」が提示されている。改正法の施行後3年で、積載率の16%増加を目指すKPIも設定して、具体的な対応が求められる状況であり、積載率を向上させる手段としての「共同輸送」も、あらためて注目される。
プロロジス、NEXT Logistics Japan(NLJ、東京都新宿区)は、それぞれの方法で共同輸送の促進を目標とした取り組みを進める。14日に開催されたLOGISTICS TODAY主催「物流2024年問題直前対策会議」2日目のイベントには、プロロジスからはバイスプレジデント開発部長の高橋健太氏、NLJからは社長の梅村幸生氏が登壇し、それぞれの取り組みを紹介した。

▲(左から)LOGISTICS TODAY編集長の赤澤裕介、プロロジス・バイスプレジデント開発部長の高橋健太氏、NLJ社長の梅村幸生氏
「共同輸送コミュニティ」と「異業種混載」、それぞれの取り組み
大手デベロッパーとしての印象が強いプロロジスであるが、「ただ単にスペースを提供するだけのサービスでは終わらない」(高橋氏)。コンサルティングサービスを通じてカスタマーの物流自動化、効率化にも取り組み、さらには人材育成にも力を注ぐ。
共同輸送に興味はあるが、どこから始めてよいかわからない、どう相手を見つければよいかわからないといったカスタマーの相談に対して、同社が用意したのが「共同輸送コミュニティ」である。「共同輸送に興味を持つ企業同士が、少人数、対面で定期的に話し合い、実現に向けて一緒に実践していく『場』を作ること」(高橋氏)を目的として、すでに2期にわたるコミュニティを運営、新たに6月からの第3期コミュニティに向けて参加メンバーの募集を始めている。

▲共同輸送コミュニティ
共同コミュニティでは、参加メンバーがそれぞれの企業ごとの課題を持ち寄り、その解決のために共同輸送がどう活用できるかを、同様の課題を持つ多様な業種同士で話し合うことで、基本的な知識やマインドセットを習得し、実践へとつなげることがテーマとなる。
実際に23年度の第2期コミュニティからは、関東から北海道への輸送に課題を抱える住宅設備関連の2社のマッチングが成立、ライバルともいえる企業同士の垣根を越えた共同輸送実践例として発表される予定で「まさに共同コミュニティから生まれた成功事例」(高橋氏)として新たな連携へと広がっていくことも期待される。
NLJは、積載率の向上やドライバーの不足など物流危機の課題解決自体を設立の目的としており、持続可能な物流実現に向けて新たな運送スキームを構築し、賛同する協力企業・パートナー企業とともにさまざまなプロジェクトを通して課題解決に取り組む。ダブル連結トラック運用はその代表的な取り組みの1つであり、ドライバー1人で2台分の輸送ができる仕組みを作り、高積載率でトラック荷台をより有効に活用した共同輸送を実践している。開業以来4年で、積載率65%での車両運用を実現しており、40%を下回るとされる業界平均を大きく上回る生産性の高い輸送を実現。異業種の荷を、ダブル連結トラックに混載して定時運行するという生産性の高い運送スキームを構築している。

▲積載率88%のダブル連結トラック(出所:NLJ)
NLJでは「異業種混載」という形で、パートナー企業間の共同輸送を実現した訳だが、実現までには「それぞれに個別最適化した物流があるのですから、それを共同輸送に転換することなど本来あるはずがない」(梅村氏)状況を変える必要もあった。次代の物流を考えた時に、物流の課題に気づいた意識の高い企業が主導する取り組みとなったことが、実現を後押しし、「どこまでなら擦り合わせができるのかを話し合える雰囲気作り」(梅村氏)こそが重要だったと振り返る。
高橋氏もまた、「細部から入ると成功しない、まずはやる、という結論から始める」ことが大切とする。両者ともに目指すのは、「雰囲気作り」(梅村氏)「場作り」(髙橋氏)であり、担当者同士が経営レベルでの効率化に向けた取り組みを進め、まずは「やってみる」ことから共同輸送が実現すると語る。プロロジスが少人数による対面でのペアワークを軸に話し合うことを重視するのも、NLJが「仲間つくり」で賛同する企業との連携の輪を広げるのも、大きな決断に向けて話し合う環境を用意することと言える。プロロジスはコミュニティ設立によって、NLJはパートナー企業との連携によって、共同輸送の具現化を進めるきっかけを用意していく。企業トップレベルの「決断」に加えて、現場担当者間の信頼関係こそが、共同輸送の推進力となるのだろう。
共同輸送に取り組むこと自体が、物流革新へのアプローチ
その意義は認識されながらも、実現までのハードルが高い共同輸送。髙橋氏は、大きなゴールを目指すあまり細部にこだわることが実現を妨げるとして、荷積みや荷下ろし、利益の分配などで細部に拘らず、まずはスタートすることが重要だと説く。梅村氏は、共同輸送に積極的な各荷主企業の運用をより効率化するため、独自の物流最適化ソリューション「NeLOSS」(ネロス)を開発し、異業種間の混載において課題となる荷姿やルートごとの最適積み付けパターンを量子コンピュータで指示することで、共同輸送における大きな課題の解決策を示し、広く参加しやすいインフラとしての共同輸送定着を目指す。
それぞれ、物流の未来に向けたアプローチとして積載率向上を目指す取り組みだが、プロロジスはあくまでも荷主同士の自発的な共同輸送の取り組みを活性化することで、経済全体への大きな波及を目指し、NLJは幹線輸送におけるドライバー不足など眼前の物流危機に対応可能なスキームを提示することから、さらなる連携へと拡大することを目指していると言えるのかも知れない。
梅村氏は「とにかく個社では限界」として、これからは連携が必須だとする。プロロジスの共同輸送コミュニティでは、NLJ梅村氏の講義をカリキュラムに組み込んで、より実践的な知見を学べる機会も設けた。まずは共同輸送の実現事例を1つでも多く作り上げ、次の事例へと結びつけていく連携の広がりを後押しする。いざ取り組むとなると、さまざまな障壁が顕在化する共同輸送だが、将来に向けては必ず必要な取り組みとして、今のうちに準備しておくことと、そのための連携を拡大していくことが重要だと、2人の見解は一致する。
プロロジス自体は、共同輸送コミュニティの運営自体で直接的な利益を得ることはない。また、運送効率化は「トラック車両数の削減」に備えることであり、NLJにとっては親会社である日野自動車の事業との矛盾もはらんだ取り組みとも言える。それでも見据える先は物流革新の実現であり、そのための取り組みを今進めることは、業界全体の発展を見据えた価値ある行動となる。見える範囲の損得ではなく、未来に有効な先行投資を先導する2社の動向を、私たちもしっかりと追いかけなくてはならない。
<目次>
▶特集(1)もはや30年への対応へ、加速する改革に遅れるな
▶特集(2)軽トラック事業への規制的措置は、どこを目指す?
▶特集(3)環境は整った、後は運送会社自身に求められる改革



■「物流2024年問題直前対策会議」レポート
(1)着々と進む政府の物流革新、さて企業の準備は?/経済産業省
(2)成約事例から見る、失敗しない物流M&Aの進め方/スピカコンサルティング
(3)24年問題を追い風に、フジトランスポートの快進撃/フジトランスポート
(4)社会的な認知度の向上へ、運送経営者が「物申す」/エコランド、金羊社ロジテム、トラボックス
(5)国交省が改正法解説、「社会一丸で物流を支える」/国土交通省
(6)農産物の物流は24年問題を乗り越えられるのか/農林水産省
(7)2代目社長が挑む、改善基準告示100%順法経営/菱木運送
(9)効率化が義務となり、予約受付システムも進化続く/Hacobu
(10)「運送業界と一蓮托生」で、経営DX普及進める決意/Azoop
(11)効率化の決定打「そうだ、ETCという手があった」/古野電気
(12)運送マッチングから生み出す、新しい物流のうねり/トラボックス