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「物流2024年問題直前対策会議」レポ(1)/経済産業省・大西智代氏

着々と進む政府の物流革新、さて企業の準備は?

2024年3月13日 (水)

話題本誌LOGISTICS TODAY主催の3日間にわたる大型イベント「『物流2024年問題』直前対策会議」が13日に初日を迎えた。官民の物流キーパーソンが集結する今回のイベント、そのトップバッターとして登壇したのは、経済産業省商務・サービスグループ物流企画室室長補佐である大西智代氏である。

▲経産省物流企画室室長補佐の大西智代氏

経産省は物流革新に向けた取り組みにおいて、所管する荷主企業のあり方など積極的な変革を主導してきた。今回のイベントでは、あらためて日本の物流の現状と、24年問題とされる物流危機について共有することから、政府としてその対応のためにどのような取り組みを行い現状に至ったのかが総括された。

物流の現状と、それに対応する政府の歩みを振り返る

まず、日本の物流の現状においては、トラック輸送に頼らざるを得ない輸送状況や、EC(電子商取引)の活況による物流の小口多頻度化が進行していることから、貨物1件当たりの貨物量が半減する一方、物流件数はほぼ倍増したことが、40%以下となる効率の悪い積載率につながっている状況が確認された。

一方、他業種に比べ長時間労働、低水準の所得傾向にあるトラックドライバーは、人手不足、高齢化という社会的課題にも直面しており、需要に対して運ぶ人、供給が足りない状況が顕在化。4月1日からのドライバーの時間外労働時間の上限規制も加わり、「効率化も同時進行していかなくては、24年、さらに30年へと、物流環境はどんどん悪化していく試算」(大西氏)も示された。

こうした「物流危機」に対して、企業は問題意識を持ちながらも具体的な対策が進まない状況。さらに、企業内でも現場、物流部門での意識に比べ、人事・総務・経営レベルでの意識変容が進んでいない状況を、経産省としては「特に荷主に対しての意識変容を促す」(大西氏)取り組みを中心に対策を打ち出し、政府として一体での物流革新を進めてきた。

イベントでは、物流危機対応に向けての政府の直近の取り組み、施策展開の経緯も整理して紹介された。

22年9月、官民学の有識者による「持続可能な物流の実現に向けた検討会」が設置され、各方面での課題が洗い出され、取り組むべき事項が整理されることとなった。同検討会の最終取りまとめでは、「荷主企業や消費者の意識改革」「物流プロセス課題の解決」「物流標準化・効率化」が取り組むべき事項として提言され、ここで言及された「(荷主の)経営者層の意識改革を促す措置、荷待ち・荷役時間の削減などの効率化、多重下請け構造の是正など、2月に提出された物流関連の改正法案への素案もここで示されている。

23年度には荷主、事業者、消費者、さらに政府が一体となって「物流に関係するすべての人たちが協力」(大西氏)して対応すべく、関係閣僚会議の設置、さらには6月の「物流革新に向けた政策パッケージ」の発表などにより詳細な取り組みを示し、具体的なアクションを促してきたとする。今回の法改正は、政策パッケージでもすでに提示され、規制的措置の導入についてもすでに明言していたものとして、物流革新に向けた取り組みを、政府として着実に進めていることが説明された。

改正法については施行までのタイムラグがあるが、「(物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関する)ガイドライン、自主行動計画の策定と実行」(大西氏)によって持続的に取り組んでいくこと環境を準備したとする。まずは、取り組むべき項目を具体的に列挙したガイドラインの順守、さらに自主行動計画策定団体、企業に関してはその取り組みを進めることが、改正法思考の準備になると言えるだろう。

物流法の改正、国が策定する「判断基準」とは?

今回の法改正で、大西氏は、経産省の目指す2つのポイントが、「荷待ち・荷役時間の削減」であり、「積載率の向上」であるとする。前者においては現状3時間とされる荷待ち・荷役時間を1時間以上削減、後者においては将来的に50%に高めることが必要だ。

そのために導入された規制的措置を含む改正法案、特に経産省が主導する「物資の流通の効率化に関する法律」では、物流効率化の取り組みに関して、荷主と物流事業者それぞれに努力義務が課され、国が策定した判断基準に基づき、取り組み状況に応じて「指導・助言」や、「調査・公表」が行われる。さらに、一定規模以上の事業者を特定事業者として指定し、中長期計画の作成や定期報告などが義務付けられ、計画に基づく取組の実施状況が不十分な場合、「勧告・命令」を実施。さらに特定事業者のうち荷主には物流統括管理者の選任が義務付けられることとなった。

大西氏は、「指導・助言」の根拠となる「判断基準」については、「政令、省令としてこれから審議。ガイドラインを想定した具体的なもの」を取り組みの指針として提示する予定だと言う。特に荷主、なかでも特定事業者にはさらに大きな責任を担うこととなるため、自主行動計画の実行などを通した準備を促す。

今回取り組みを求める物流効率化については、「物流効率化に向けた先進的な実証事業」として予算額55億円も用意する。荷主企業(3PL事業含む)における物流効率化に向けた先進的な実証事業として、物流施設の自動化・機械化に資する機器・システムの導入などに関する費用を補助し、その効率化効果の実証を行う。「すでに公募を開始しており、4月3日を締め切りとしています。まずは詳細を検索、確認してください」(大西氏)と呼び掛ける。何をもって先進的とするかについては公募後の審査を待たねばならないが、大西氏は「物流の効率化へ投資すること自体が先進的と考えています」と語り、取り組みに意欲的な事業者が積極的に活用することで、物流効率化を前進させたいと語った。

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改正法を武器として、商慣習を見直そう

これまで、物流業界の問題点として「荷主」に起因することが長らく指摘されながら進展がなかったことについて、「経産省は荷主の味方」とする声もあるが、との問い掛けに、大西氏は「物流において荷主の果たすべき責任をしっかりと呼び掛けていく」ことで実効性の高い改革とすることを約束する。荷主が物流をわがこととして危機感を持つ土壌となり、規制的措置の導入においても、荷主から前向きに取り組みたいという声も多く聞かれるようになったという。

「法改正などは、行政からのメッセージ。運送会社は改正法を武器として、荷主との取り引きの見直しなど、物流改革に取り組んでいただきたい」(大西氏)