話題全日本トラック協会の副会長の任を受けたのは2024年6月。以来、平島竜二氏は同協会が取りまとめた「多重下請構造のあり方に関する提言」を遂行すべく、トラック運送業界に広がる多重下請け構造に警鐘を鳴らし、運送依頼を2次下請けまでにすべきと訴えてきた。
多重下請け構造による実運送事業者への支払いの減少、特に、中小運送事業者が影響を受けやすい現状を指摘し、業界全体の取り組みが必要とくぎを刺す。
提言に盛り込んだ利用運送専業事業者への規制の必要性、元請け運送事業者に対して実運送体制管理簿の作成の義務化、国土交通省による管理簿作成の効果検証など、取り組むべき課題が山積している。京都府トラック協会の会長も務める平島氏に話を聞いた。
「下請けは顔が見え、声が伝わる2次まで」が持論
全ト協副会長の平島氏が主張するのは「多重下請け構造の問題は運賃の低下やドライバーの賃金低下につながり、業界全体で解決すべき課題」だということ。多重下請構造のあり方検討会の委員長として、運送業界の多重下請け構造の是正に向けた施策を提言した。ここでは、トラック運送業における適正な運賃の確保やドライバーの賃金水準向上を目指し、下請けの制限や運賃・手数料の見直し、利用運送専業事業者のトラック協会への入会制限など訴える。
「以前から、多重下請け構造がもたらす問題を看過できないと考えていた。何らかのトラブルが発生した時に処理できない。運送業の経営者としての経験から、“実運送は2次請けまで”という昔からのやり方を続けてきた」
下請けは2次までが持論。車両制限値を超える特殊車両のドライバーにルートを指示するなど、顔を見ながら、生の声が伝わり、声が聞けると強調する。
求荷求車マッチングも法的責任を持つべき
求荷求車マッチングアプリについて、「ルールの抜け目、抜け目を探すイタチごっこのよう」と眉をひそめる平島氏は、アプリのサービス提供者の責任の所在を問題視する。
「マッチングアプリには何の責任も発生しない。荷物を落とそうが、事故を起こしたり、遅延しようが、それらは全部、運送事業者の責任だ。運送に関与している以上、マッチングアプリにも法的な責任を持たせるべきではないか」
責任を負わずに報酬を受け取る水屋を疑問視
さらに「水屋」とも呼ばれる取扱事業者への規制が重要と指摘。輸送において責任の所在が不透明で、明確な運行指示がないまま横流しする実態を挙げ、仮に不測の事態があっても責任を負わず、報酬を受け取る現状に対し、何度も首をかしげる。運送会社だけがリスクを負うにも関わらず、ドライバーは低賃金のままという業界の不健全な側面を憤る。
「高い運賃を受け取り、下請けに安値で発注する。そこには契約書などの書面もなにもない。こうした商習慣という名のふらちな現状は解消すべきだ」
法外な安値で仕事を引き受けるモラルに言及
依然としてなくならない多重下請け構造について、事業者のモラルにも言及する。配送後に空荷で帰るのを避けたい事業者が法外な安値で仕事を引き受ける。こうした物流の悪しき慣行が後を経たない。
「安値で仕事を発注すること自体論外だが、それを引き受ける側も同罪。これらの問題には規制が必要だ。求車側、求貨側、お互いがきちっと法規制を作るべきだ。これをクリアしない限り、多重下請け構造はなくならないだろう」
適正運賃の支払いなど報酬体系を荷主が管理すべき
多重下請け構造の解消策として、国はマージンの別枠化を提言している。自社の取り分を差し引かず、透明性のある報酬体系を実現し、労働環境の改善を期待したものだ。これに対し、平島氏は「別枠という所に落とし穴がある」と懸念を抱く。
「お金を払う荷主がきちんと報酬体系を管理しないと、成立しない。バレなければいいと考える運送事業者がいないわけではない。適正運賃の支払い、2次下請けまで運賃の割引率が10%以内なのかについて、荷主は管理責任も負うべきだ」
Gマークと標準運賃を守れば、運送業者は健全化
平島氏が労働環境の改善策として打ち出したのは、「HKT25」と命名した「標準的運賃の収受(H)」「改善基準告示の厳守(K)」「多重構造からの脱却(T)」の3つだ。
「ことしはこの3つを達成しないと、生き延びれない。そのためにも安全性優良事業所に認定されると付与するGマークも持てば、何も心配ない。Gマークは厳しい安全評価基準を網羅している。Gマークと標準運賃さえ守れば、運送事業者は自ずとA評価になる。Gマークの取得とトラックGメン対策が運送事業者が健全化へと進む追い風と考えている」
会長就任以降、D・E判定事業所を一掃
そう断言するには理由がある。京都府トラック会長就任時、会長表明として京都府にある事業所の中から適正化事業のD・E評価なくすと明言。それまで府内の事業所はD・E判定の事業所が少なくなかった。ところが去年、適正化事業指導員が245の事業所を巡回指導した結果、D・E評価はゼロだった。
「D・E評価の事業者さんがC評価になり、さらにB評価へと改善すればいい。しかし、DやEの評価のまま、こんなことを現状維持するのが最悪だ。低評価の事業所を野放しにさせないよう、うちの適正化事業部は各事業所を厳しく監視している」
物流の2024年問題は業界にとって追い風
物流の2024年問題に対しても、平島氏の考えは明快だ。「業界への向かい風はせいぜい1割から2割だろう。8割はまさしく追い風となるはずだ。物流業界は24年に向かうまで悪質事業者がいたり、労務管理を怠る事業者が多く存在し、紆余曲折があった。しかし、24年問題を契機に、そうした課題に白黒決着をつけて解決できる。まさに千載一遇のチャンスだ」と断言する。
2割程度の悪質業社が淘汰され、業界は健全化する
トラック運送事業者の今後について尋ねると、トラック所有台数が鍵だと話す。「経営的な観点からみれば、10台から20台では心許ない。自身の経験上から言うと、20台以上保有していれば、顧客(荷主)からも信頼を得やすい。24年問題をめぐる規制や取り組みを通じ、運送事業者の数は今後、減少していくだろう。それは自然減少ではなく、ドライバーの労務管理を怠るような悪質な事業者が淘汰されるという意味だ」
会長として大事なのはアイデア、知恵、決断力
地元の京都では物流専門メディアの数社と意思疎通を図り、業界の情報を共有している。
「47都道府県のトラック協会が発行する広報機関紙は全て目を通す。全国の協会のみなさんがどんな事業を担い、何に取り組んでいるのか把握することが大事。そうして培ったアイデアと知恵、決断力が会長職を履行する上で、最も重要だと考える」
業界の健全な発展を推し進めるためにも、平島氏の辣腕(らつわん)が必要だ。
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