国際ホルムズ海峡の事実上の封鎖が長期化するなか、アジアの新興国を起点に燃料の購入制限や配給制が世界へ波及している。バングラデシュやスリランカではQRコードによる数量管理が本格化し、欧州でもスロベニアがEU加盟国として初めて全国規模の購入上限を導入した。IEA(国際エネルギー機関)は史上最大となる4億バレル規模の備蓄協調放出を進める一方、速度制限や在宅勤務の推進など需要側の即時対策10項目を各国に強く求めている。3月25-26日時点の各国措置を地域別に整理する。(編集長・赤澤裕介)
アジア・南アジアが最も深刻だ。バングラデシュは8日から車両別の燃料配給を本格化させた。オートバイは1回2リットル、乗用車には週単位の上限を設け、1回の満タン給油を禁止している。大学や外国語学校はオンライン授業に移行し、肥料工場は操業を停止、1日5時間の計画停電が続く。軍が備蓄施設の警備にあたる。ディーゼルは中国とインドから1か月分を確保したものの、月間消費を27万トンに圧縮して需要を抑え込んでいる。
スリランカは15日に「ナショナル・フューエル・パス」のQRコード配給制を再導入した。当初は乗用車15リットル/週、三輪車15リットル/週としていたが、21日深夜に割当を引き上げ、乗用車25リットル、三輪車20リットル、バイク8リットル、バス100リットル、バン50リットルに改定した。セイロン石油公社の発表による。引き上げと同時に燃料価格を25%前後値上げしており、ディーゼルは1リットル382ルピーに達した。価格引き上げで需要を抑え、割当を広げて行列を緩和する組み合わせだ。18日に導入したナンバープレート末尾による曜日別の給油制限も続く。水曜日を公休とし、学校・大学・非必須業務を休みにする週4日勤務体制が続く。燃料在庫は6週間分の見込みだが、17日にスポット購入を緊急承認している。
パキスタンでは高オクタン燃料が200%の値上げとなった。政府職員は週4日勤務と50%の在宅勤務に移行し、学校は2週間の閉鎖、非必須車両の半減と燃料配分50%カットを実施している。一部地域で奇数・偶数ナンバーによる走行規制も始まった。LNG(液化天然ガス)不足による大規模停電のリスクも浮上しており、商船護衛に軍艦を派遣する事態となっている。
インドは直接的な購入制限こそ導入していないが、調理用LPG(液化石油ガス)の優先配給で実質的な消費抑制に踏み切った。家庭用ボンベは25日間隔で1本のみ、ホテルや外食産業向けは削減する。工業用ガスも大幅にカットし、精製所には国内LPG供給の優先を指示した。プネー市ではガス火葬を一時停止し、木材と電気による代替に切り替える措置まで出ている。
中国は12日からガソリン、ディーゼル、航空燃料の精製品輸出を禁止した。本誌が3月8日付で報じた通り(※1)、中国は危機初期からディーゼルとガソリンの輸出制限に動いていたが、禁止対象を拡大した形だ。ただし船舶向けバンカリング用ジェット燃料の扱いには例外規定がある可能性があり、「全面禁止」の運用範囲には注意が必要だ。国内向けに価格上限を設定し、ガソリン1トンあたり1160元、ディーゼル1115元としている。大規模な戦略備蓄を保有するため混乱は比較的抑えられているが、スタンドでの行列は各地で報告されている。ブータンはジェリカンでの燃料販売を禁止、ネパールはLPGボンベの半分充填と政府車両の利用制限で対応する。
東南アジアでも措置が連鎖している。タイは26日から全燃料を1リットルあたり6バーツ値上げし、補助金を圧縮した。ディーゼルの価格キャップは維持するものの、燃料基金の赤字は日額3200万ドル規模にまで膨らんでいる。カンボジアとラオスを除く国への燃料輸出を停止し、バイオ燃料のブレンド比率を5%から7%に引き上げた。スタンドではジェリカンでの購入を禁止し、一部で在庫切れが発生している。農業用ディーゼルの不足や象キャンプの輸送への影響も報じられた。フィリピンは24日にフェルディナンド・マルコス大統領が国家エネルギー非常事態を宣言した。政府職員の週4日勤務と非必須旅行の禁止に踏み切り、民間にも在宅勤務を推奨している。フェリーの運航が削減され、マニラでは燃料高騰に対する抗議デモが起きた。ベトナムは在宅勤務と公共交通の利用促進を進めるとともに、4月末まで燃料輸入関税を一時的にゼロとした。ミャンマーは7日から私的車両への燃料配給と奇数偶数規制を導入している。カンボジアではスタンドの3分の1が閉鎖に追い込まれ、インドネシアは燃料輸出を制限しつつ電動二輪・三輪車への移行を加速させている。
東アジアの先進国は備蓄と補助金を軸に対応する。日本は購入制限を導入していないが、経済産業省が25日に発表した3月26日-4月1日の補助金支給額はレギュラーガソリン1リットルあたり48円10銭で、2022年1月の補助開始以来の過去最高となった。軽油、灯油、重油、航空機燃料も補助対象だ。16日に民間備蓄15日分と国家備蓄1カ月分の過去最大の放出を開始しているが、24日の関係閣僚会議で追加放出を決定し、26日から850万キロリットルの追加国家備蓄放出に入った。予備費8007億円も計上している。全国平均170円前後の維持を目指すが、本誌が3月14日付で報じた通り(※2)、補助金は価格を抑える仕組みであり、流通する軽油の絶対量を増やす機能はない。量の確保は備蓄放出に頼らざるを得ない構造だ。経産省はポータルサイトを通じて通常給油を呼びかけている。
韓国は30年ぶりとなる燃料価格キャップを再導入した。公務員車両にはナンバー末尾の奇数・偶数による週1日の使用禁止を適用し、政府備蓄の放出と追加の原油輸入確保を進める。民間への制限は現時点で任意だが、警戒レベルの引き上げに伴い強化を検討している。台湾は価格上昇分の60%を政府が吸収する仕組みで対処する。
4月危機、欧州ディーゼル不足の現実味
欧州で注目を集めるのがスロベニアだ。3月22-23日にEU加盟国として初めて全国規模の燃料購入制限を導入し、個人は1日50リットル、事業者・農家は1スタンドあたり1日200リットルの上限を設けた。価格キャップにより近隣国より割安だったことから、オーストリアなどからの「燃料観光」が殺到し、行列が常態化していた。軍が配送支援に投入される事態となり、ロベルト・ゴロブ首相は「スロベニアには十分な燃料がある」と説明しつつも、24日から燃料代の値上げを発表した。一部のスタンドでは独自に30リットルの上限を設ける動きも出ている。
ドイツは燃料価格パッケージ法案を連邦議会に提出し、スタンドの値上げを正午の1日1回に限定し値下げは随時認めるオーストリア型の規制を導入する。26日に採決の見通しで、イースター前の施行を目指す。あわせて独占禁止法の改正で元売りの不当な値上げに対する立証責任を転換し、競争当局の取り締まりを強化する。独占委員会のデータによると、ドイツでは原油価格の上昇が他のEU諸国より速く消費者価格に転嫁されており、競争環境の弱さが指摘されている。オーストリアは週3回の値上げ制限、フランス、スペイン、クロアチア、ハンガリーなどが価格キャップや補助金で対応する。英国、ポルトガル、スウェーデンは配給制や夜間のスタンド閉鎖、速度制限を含む緊急計画の準備段階にある。
シェルのワエル・サワンCEOは、4月以降にディーゼルとガソリンの不足が南アジアから東南アジア、さらに欧州へと波及するリスクが高いと警告した。航空燃料はすでに危機前の2倍に達しており、ディーゼルが次の焦点となる。定量的な裏付けもある。IRU(国際道路輸送連盟)が16日に欧州委員会に提出した緊急要請によると、EUのトラック車両の90%超がディーゼルで走り、2月27日以降ディーゼル小売価格は加重平均で20%上昇した。ドイツでは小売価格が1リットル2ユーロを突破し、欧州平均を上回るペースで高騰している。欧州のガス先物も1メガワット時65ユーロを超え、22年のウクライナ侵攻時以来の水準に迫っている。本誌が3月20日付で報じた通り(※3)、海上、空、陸すべてのモードで燃料サーチャージの上昇が始まっており、欧州への波及はコスト面でも物量面でもさらなる制約をもたらす。
アフリカ、中東、オセアニアでも対策が広がっている。エジプトは政府職員の非必須旅行を制限し、商業施設やレストランの営業を21時で終了、看板照明の消灯、庁舎の18時閉鎖を実施する。非補助パンの価格にもキャップを設けた。エチオピアは燃料補助金を拡大し、国防、公共交通、輸出産業への優先配分を進める。ケニアと南アフリカはディーゼルの制御配分と輸出停止を検討中だ。
豪州は地方への供給を優先しつつ備蓄を放出し、燃料の不当な価格吊り上げに対する罰則を強化した。地方の一部では在庫の枯渇が報告されている。ニュージーランドは4月から低所得層に週50NZドルの燃料支援を開始する。在庫は7週間分を見込むが、航空燃料の高騰でフライトのキャンセルが出ている。ブラジルはディーゼル税を一時停止、セルビアは輸出禁止を延長しつつ備蓄は十分として配給導入は見送った。
各国の措置を俯瞰すると、明確なパターンが浮かぶ。輸入依存度の高い新興国はQRコード管理、数量上限、ナンバープレート規制といった直接的な配給に踏み切り、先進国や中間国は価格キャップ、補助金、税の軽減を主軸とする。その上に需要抑制策として週4日勤務、在宅勤務、学校の短縮や休校、速度制限、公共交通の運賃割引、非必須照明の削減、エアコンの温度制限が世界的に重なる構図だ。IEAが20日公表の報告書「シェルタリング・フロム・オイルショックス」で推奨する即時対策10項目は以下の通りだ。
(1)から(6)までの6項目が道路輸送に関わり、(6)が物流に関わる中核的な対策に位置づけられている。本誌が20日付で報じた通り(※)、(2)と(6)を合わせれば22年の試算ベースで日量46万バレルのディーゼル削減に相当する。10項目すべてを広範に採用すれば世界の石油需要を大幅に削減できるとする。
日本の物流事業者にとって直接的な影響は、補助金で抑制されている軽油価格がいつまで現行水準を維持できるかに集約される。補助金支給額は過去最高の48.1円/Lに達し、予備費8007億円の追加計上に加え既存基金残高も活用される見通しだが、財源の持続性は原油価格に左右される。加えて、中国の精製品輸出禁止やタイの輸出停止は、アジア域内の燃料流通構造を変えつつある。本誌が14日付で報じた通り(※)、すでに一部の地方では通常の流通ルートで軽油を確保できず、200円を大幅に上回るスポット価格を提示される事態が始まっていた。補助金の有無にかかわらず、物理的な供給制約はすでに現実になっている。
4月以降の欧州波及が現実化すれば、国際的な燃料争奪がさらに激化する。ホルムズ海峡の再開時期が見通せないなか、自社のインタンク残日数の確認、燃料商社との補充スケジュールの擦り合わせ、荷主との燃料サーチャージ再交渉を同時に進める段階に入っている。
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