話題日本の夏の暑さはもはや災害級だ。5月から列島各地で30度超えが続き、北海道でも30度超えが珍しくない。かつて「窓を開ければしのげた」北国の夏はどこへやら、いまや冷房が前提だ。気候の揺らぎは現場を直撃し、工場や物流倉庫の金属屋根は60-70度まで熱を帯びる。空調のない室内はまるで蒸し風呂だ。熱がこもるほど作業効率は落ち、健康被害のリスクは跳ね上がる。現場はただ「夏を越す」ことで手いっぱいになりつつある。
2025年6月施行の改正労働安全衛生規則により、企業には熱中症対策の強化が求められている。企業は従業員を熱から守る具体策を講じねばならない。もはや、熱中症は「気合」で防げない。のどの渇きを待たない水分・塩分補給、休憩の確保、暑さ指数(WBGT)を踏まえた作業計画などなど、先手の備えが必要だ。企業の経営や人事・総務がハード面の熱中症対策に踏み込むのは、こうした切実な声に背中を押されてのことだ。
「断熱」「遮熱」より効果の高い「Radi-Cool」

▲ 放射冷却塗料「Radi-Cool(ラディクール)」(出所:出光エナジーソリューションズ)
そこで今、脚光を浴びているのが、出光エナジーソリューションズ(東京都千代田区)が販売代理店を務める、ラディクールジャパン(中央区)の放射冷却素材「Radi-Cool」(ラディクール)だ。
熱対策の定番は大別して2つ。熱の入りを遅らせる「断熱」と、日射をはね返して入熱を抑える「遮熱」だ。だが遮熱にも限界があり、熱はじわりと室内へ回り込む。
同社ソリューション事業部 事業推進リーダーの西山遼氏はラディクールについて、「日射反射の長所はそのままに、侵入した熱を自発的に放射して逃がす。そこが従来品との決定的な違いです」と話す。
「大気の窓」を使い、屋根の熱を外へ追いやる
ラディクールの最大の特徴である「放射冷却」は、冬の澄んだ夜に誰もが体感する現象だ。雲のない夜、地表の熱は赤外線となって宇宙へ抜け、明け方の冷え込みをつくる。熱が出ていく通り道は8-13μm(マイクロメートル)の波長帯で、水蒸気やCO2に吸われにくい「大気の窓」と呼ばれる。ラディクールはこの帯域で90%超の放射率を持つ素材を塗料に混ぜ込み、真夏の昼間でも屋根の熱を大気圏外へ吐き出し続ける。要は、電気を食わずに屋内を冷やす仕掛けだ。「冬の放射冷却を夏でも起こす素材です」と西山氏は話す。
夏の屋根で効果が最大化する理由
さらにラディクールは、近赤外線日射反射率94.4%という高い反射性能も備える。太陽光をはね返して入熱を抑えつつ、入り込んだ熱は放射冷却で外へ逃がす。

▲ 近赤外線日射反射率94.4%という高い反射性能を備える(出所:出光エナジーソリューションズ)
遮熱と放射の二枚看板が同時に働くことで、断熱や従来型の遮熱だけでは困難だった冷却効果を発揮する。
放射量は絶対温度の4乗に比例する(ステファン・ボルツマンの法則)。60-70度まで熱を持つ夏の金属屋根は、冬より放射できる熱の”持ち分”が大きい。だからこそ、熱が最も集まる夏の屋根で効果が最大化する。
倉庫で7度減、空調電力は31.7%削減
その効果を数字が示す。山口県周南市の一般倉庫では、施工前の2023年8月に40度を超えていた室内温度が、施工後の24年8月には33度を超えなくなった。この期間の外気最高気温は前年より平均1度上昇していたにもかかわらず、室内温度は下がった。博多港ベイサイドミュージアムの事例では、屋根表面温度が65.9度から31.6度へと34度低下した。空調消費電力は最大31.7%削減し、8時間稼働で131.5kWhから89.8kWhへと圧縮した。「施工前後で気象条件をほぼ同一の日を抽出して比較した、信頼性の高いデータです」と西山氏は説明する。
コスト削減・脱炭素・人材確保への波及効果
ラディクールの効き目は、体感温度の話だけで終わらない。空調負荷が軽くなれば電気代はすっと下がり、電力使用が減ればCO2も減る。

▲ 塗装が5000平方メートルの場合、工期は1〜2カ月、塗料の耐用年数は10〜14年(出所:出光エナジーソリューションズ)
脱炭素の目標が、机上の数字から現場の手触りへ近づく。加えて、人手不足の時代に「暑い職場は敬遠される」という現実がある。暑さ対策に投資する姿勢そのものが、採用の看板にもなるのだ。同社ソリューション事業部 事業推進課課長の中山智広氏は「熱中症対策にとどまらず、コスト、脱炭素、人材まで波及する。経営層に届く施策です」と語る。
製品は塗料とフィルムが中心。建設業許可を持つ同社が施工まで一貫対応し、塗装が5000平方メートルの場合、工期は1〜2カ月、塗料の耐用年数は10〜14年。「塗り替えるなら、同じコストで付加価値を」。この一言が、決裁者の背中を押すはずだ。
倉庫から船舶・農業施設へ広がる応用領域
現在、関西・名古屋エリアを中心に需要が拡大しており、北海道の自治体庁舎や船舶のデッキ、農業施設(牛舎・鶏舎)など、応用領域も広がりつつある。

▲ 出光エナジーソリューションズ ソリューション事業部 事業推進課 課長の中山智広氏(左)、ソリューション事業部 事業推進課の西山遼氏(右)
「放射冷却素材という概念の認知度向上が最大の課題ですが、一度体感していただければ、その違いは一発でわかります」と西山氏は話す。記録的猛暑が常態化する日本で、「遮る」だけでなく「逃がす」という発想が、工場・倉庫で働く人々の夏を変えようとしている。
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