
話題改正物流効率化法で、取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主・特定連鎖化事業者3200社程度に、物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられた。本田技研工業(Honda)は、CLOの機能をサプライチェーン購買本部に置いた。同本部は調達と需給調整、物流を束ね、運賃契約の変更にも関わる。届け出上のCLOは松尾歩本部長(執行役常務)。実務を動かすのは、SCM・間接材統括部長の大澤裕一執行職だ。取引条件と物流運用の双方に手を入れられる体制の意図を、実装を担う大澤氏に聞いた。(編集長・赤澤裕介)
届け出は松尾執行役常務、管理室が推進と検証
HondaのCLO選任は、義務化の1年ほど前に済んでいた。
「法律の施行自体は当然前から分かっていた。我々は1年ぐらい前に、CLOはこの人にしましょうということで、すでに選任していた。現在サプライチェーン購買本部長をやっている松尾が、届け出上のCLOだ」
先行できた背景には、部品価格から物流費を切り出す調達物流の変革を、制度に先んじて進めていた事情がある(後編で詳述する)。松尾歩執行役常務は、直接材購買を担う統括部と、大澤氏が率いるSCM・間接材統括部を傘下に持つ本部の長で、経営会議の常任メンバーでもある。大澤氏は自らの立場を「いわゆるアクティングCLO」と説明する。正式な職制の呼称とは別に、CLOに関わる実務を担う立場を本人が表した言葉だ。役員CLOが経営の判断を引き受け、実務のトップが現場を動かす。ダイキン工業でも、村井哲執行役員がCLOを務め、生地幹物流本部長が実装を分担していた。Hondaも、役員CLOと実務の担当が役割を分担する。届け出上のCLOだけを見ても、改革の具体像は分からない。契約や現場を動かす実務責任者にこそ、その中身が表れる。
体制の要になるのが、2026年度に統括部の中へ新設したSCM管理室だ。CLOのサポートを主な目的に、事業や拠点を横断する調整と、国へ提出する中長期計画の推進を担う。Hondaでは補修部品の物流を別の本部が事業と一体で持っており、大澤氏の統括部にない物流の現場が社内に残る。そこを横断してつなぐ役割も管理室に与えた。統括部の陣容は1室4部。SCM企画部が需要予測とS&OPによる需給調整を、製品物流部が国内と海外向けの販売物流を、部品物流部が調達物流と部品の輸出入を受け持ち、間接材購買部には26年度、物流購買課を新たに設けた。日本国内の統括部要員数は800人弱になる。管轄する子会社は、自動車専門商社のホンダトレーディングと、物流のホンダロジスティクスの2社だ。
「ホンダロジスティクスは、基本的には事業展開をしている国の中の物流をやっている。グローバルに物を動かすのは、Honda自身、あるいはホンダトレーディングでやっている。本社側が設計をして、ホンダロジスティクスで実行するという関係性だ」
国をまたぐ輸送は本体と商社が握り、各国の域内物流を物流子会社が実行する。会社をまたぐ案件は、経営会議へ上げる。
「サプライチェーンは購買であり、物流であり、SCMというのは、およそ単独の部門で決定することはほとんどない。多くの場合、部門をまたいでやっていく。松尾自身は経営会議の常任メンバーでもあるので、案件に応じてそういうところに上げていく」
法に基づく最初の中長期計画は、26年10月末が提出期限となる。計画の推進は管理室が担うが、指標に基づく活動の中身は現場の物流部門が書く。管理室はそれを検証にかける。
「現場がやってますということをそのまま報告書に書いても、これはダメだということが必要だ。書いてあることが本当に事実か。国に対して説明して、何か問い合わせがあった時に責任を持って答えられるか。第三者的な立場も果たしながら、全体をリードしていく」
国へ出す文書の事実性を、社内で先に問う仕組みだ。ただ、計画を推進する部署が検証も担う。社内の実態把握には利点がある半面、検証の独立性をどう担保するかは今後の論点になる。取材した7月上旬、策定の作業は進行のさなかにあった。作業は書式を埋めることからは始まらない、と大澤氏は言う。
「そもそもスコープの設定から、法律に書いてあるからじゃなくて、これをどう解釈して、我々としてどう取り組むかを一つ一つ決めていかなければいけない」
決めるのは統括部だけではない。調達の物流なら生産する工場、販売の物流なら営業との関係の中でしか、改善は進まない。だから大澤氏は、営業や生産の部門長と話しながら計画を組む。部門間の合意形成の進め方は、なお固めている段階にある。

物流改善からSCM経営へ
大澤氏の出自は物流ではない。Hondaに入って25年が過ぎ、そのうち20年ほどを直接材購買の畑で歩み、責任者も務めた。その購買の目が、物流の課題を捉え直す起点になった。
「これまで物流に関する購買業務は、拠点ごとに分散されていて、現業部門が業務の中で必要なものを買っていた。ものだけに限らず、輸送のようなサービスもそうだった。私から見ると、これは案件処理になっている。購買視点が不足していると思ったところから、間接材購買部の中に物流購買課を新設しようと、今年度からやっている」
案件処理の何が足りないのか。大澤氏の整理はこうだ。個別案件を横断して、価格や品質、対応力を比較する機能がない。取引の適正化をめぐる法令への対応を統括する場がない。物流会社の仕事ぶりを評価し、フィードバックし、そこから継続的な関係を作る機能がない。現業の中で案件をさばく体制では、そこまで手が届かない。だから、契約と法令対応と評価と選定は購買が受け持ち、積載率や梱包や段取りといった実運用の改善は物流部門が受け持つ分担を敷いた。
「現場のオペレーションをどう変えていくのかということと、それをどのように買うかという契約とは、多分両輪だ。どちらか一方で改善できるものじゃない」
需要予測から始まる需給調整、現場の物流、それを変えていく購買。この一連が一つの統括部にまとまる形を、大澤氏は「物流改善ではなくて、SCM経営みたいな観点でいくと、それなりの合理性を持っている」と位置づける。統括部長への就任時には、コストセンターと呼ばれてきた部門を、ROICの向上とESGへの貢献で測る部門に定義し直した。部門内の改善だけでは足りず、営業や生産の条件まで変えにいく。いまは部門をまたぐ複数のプロジェクトが並行して走る。
物流の畑を長く歩いた社内の同僚との対話で、大澤氏は動き方の違いに気づいたという。
「他部門を動かしに行くということはしない。なんか自分で勝手にブレーキをかけている。やってくれと言われたものを全力でやる。何かの本で読んだが、後処理物流だと」
購買出身の大澤氏には、他部門へ踏み込む動き方への抵抗がない。実際に動いてみると、身構えていた反発は起きなかったという。
「私の立場で営業の責任者と話をする、生産の責任者と話をするとなると、ほとんどネガティブな反対の意見は出てこない。運べない問題が事業の制約となりつつあることが体感できるところまで来ているので、物流要件を明確に言ってくれてありがとうと感謝される」
輸送力の不足が事業を縛り始めているという認識は、すでに営業や生産の側にも共有されている。それが部門の垣根を低くしている、というのが大澤氏の見立てだ。ただ、具体的な価格や契約条件の変更にまで反対が出ないかは、これから試される。制度が始まって社内の何が変わったかという問いへの答えは明快だった。
「周囲が変わったというよりは、我々の動き方が変わっていくにあたって、周囲の反応も変わってきた。CLOは制度というよりは、行動じゃないかなと思う」
肩書と届け出だけではCLOは動かない。Hondaが用意したのは、契約を変える購買、需給を動かすSCM、現場を改める物流を一つの統括部に束ね、営業や生産の意思決定につなぐ機能の配置だ。物流改善の責任者を新たに立てたというより、商流に手を入れられる横断の機能としてCLO体制を組んだ。その体制が最初に取り組むのが、部品価格に溶け込んだ物流費の分離と、運賃契約の付け替えだ。後編で詳しく追う。
(後編に続く)
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