
話題前編で伝えた通り、本田技研工業(Honda)はCLOの機能を、調達と需給調整を束ねる購買の本部に置いた。なぜ購買なのか。その答えが調達物流にある。部品の仕入れ価格には物流費が溶け込み、金額として姿を現さない。Hondaはこの物流費を切り出し、サプライヤー各社が個別に結んできた運送の契約をHonda側へ付け替え、引き取りに行く形へ改める。向こう2-3年で切り替える方針を掲げる。自動車部品の国内調達で広く見られる持ち込み型の取引を、着荷主の側から組み替える動きになる。SCM・間接材統括部長の大澤裕一執行職に、その中身と残る課題を聞いた。(編集長・赤澤裕介)
鈴鹿周辺の門前倉庫30か所、集約を検討
大澤氏の話は、一貫して着荷主としての責任に力点が置かれる。ただ、その動きはCLO制度が生んだものではない、と大澤氏は言う。
「持続可能性に向けた変革をしていくにあたって、法律上もそういうことをやらなければいけないとなってきているのは、推進力の一つという捉え方だ」
変革の起点は制度より前にある。Hondaは過去にも同じ改革を試みている。
「部品コストの中に含まれている物流費を切り出して、調達物流を効率化しようという動きは、日本で一回大々的にやろうと言って取り組み始めたことがある。残念ながら一回挫折して、仕切り直しで今やり直している」
何が改革を阻んできたのか。大澤氏が最大の障害に挙げるのは、物流費が見えないことそのものだ。
「結局、部品コストの管理費の内数みたいなところに入っちゃっているので、これが見えないというのが最大の問題だ。計算をしてみると、とんでもない金額を払っているはずだ」
金額が見えなければ、経営課題として認識されにくい。
「物流の現場で、積載率がどうだ、トラックが半分空で走っていると言っても、ふーんという反応だ。これが金額に換算されると、みんな目を向ける。工場で使っている費用に対して、物流はそんな金額なのかとなると、そこを何とかすることが我々の競争力になるという説得力になる」
一方、ジャストインタイムは維持する。
「ジャストインタイムは競争力の源泉だと思っていて、引き続きそうだ。それをどうやって持続可能にするかという意味で、本当に転換が必要な時期だ」
金額を見えるようにするための商流の切り替えが、運賃契約の付け替えだ。現状は、サプライヤー各社が個別に運送を手配する契約がほとんどを占める。大澤氏はこれを「いわゆるお任せ物流」と呼ぶ。この契約をHonda本体に付け替え、一定の地点までホンダが引き取りに行く形(=引き取り物流)に改める。大澤氏によると、すでに複数の取引先で切り替えを済ませている。
「向こう2年か3年ぐらいで全部切り替えたいと思っている。どこまでというのはあるが、基本は全部だ」
ただし、引き取りの起点をどこに置くか、対象をどの事業・地域・部品の範囲まで広げるかの線引きは、取材では詳らかにされていない。サプライヤーの側では、運送の手配や運賃変動の負担が減る可能性がある半面、部品価格に含まれてきた物流費の算定と価格の改定が必要になり、取引条件の調整は避けられない。切り替えの成否は、この算定と契約の組み替えをどう進めるかにかかっている。
運送契約をHonda側へ移せば、着荷主が輸送を組み立てられるようになる。改善の余地は、一社一社のサプライヤーには手が届かなかった領域にある。四輪の完成車工場は埼玉県寄居町の埼玉製作所と三重県の鈴鹿製作所にあり、その近在にはサプライヤーが手配した門前倉庫が点在する。
「鈴鹿でいうと、数えてみると30か所ぐらい倉庫がある。我々が全部管轄していないので、近在の倉庫から鈴鹿に入れてもらうとなると、物はそれほど積まれていない、スカスカだったりする。そこをまとめていこうということを我々の目線で考えると、一社一社のお取引先ではできなかったところに踏み込んでいける。そこに大きな改善の余地があり、それが持続可能性にもつながる」

集約は検討の段階にあり、何か所へどう束ねるかはこれから決まる。工場の側にも見直しは及ぶ。生産スケジュールに合わせた納入指示は、梱包の単位から見れば小さすぎ、荷はまばらなまま運ばれてきた。物流側が工場に条件の変更を求めるには、非効率を金額で示す必要があった。契約の付け替えで可視化した物流費を、受け入れ条件と梱包単位を見直す根拠に使う。効率化の見込みを、大澤氏は数字で示す。
「いろんな試算をしているが、効率化の余地は5%以上はあると見込んでいる」
その5%は、コスト削減の5%とは意味が違うという。
「単価の方は我々がもうほぼコントロールができない。あるいは持続可能性を考えると難しいとなると、リソースの確保とその効率的な活用の方に必然的に注力せざるを得ない。コスト改善で5%というよりは、物流効率という目で見た時に、5%ぐらいは間違いなく出るだろう」
単価の引き下げを競う局面から、輸送リソースの利用効率を競う局面へ重点を移す、というのが大澤氏の見立てだ。ただし、効率を測る物差しの内訳は取材では示されていない。積載率か、車両の台数か、走行の距離か。何を指標とし、どの時点と比較するかが、この5%の意味を決める。
ドライバー不足とEV化、供給網再編
契約の主体がHondaに移れば、サプライヤーや輸送手段を横断した組み立てができるようになる。鉄道への切り替えは、その先にある選択肢の一つだ。Hondaは軽のEV「N-VAN e:」のバッテリーパックで、茨城県の出荷拠点から鈴鹿製作所への輸送を鉄道に切り替えた。Hondaが2025年に公表した説明では、従来のトラック輸送と比べCO2排出量を74.5%削減できると試算する。環境の成果として語られがちなこの事例で、大澤氏はドライバー不足への対応を主目的に置く。
「モーダルシフトの目的を何に置くかということだと思う。どうしてもCO2削減みたいな話が前面に出てくるが、最大の課題は多分ドライバー不足に対する対処だ。トラックと競争するわけじゃなくて、どういう補完関係を作るか。長距離だったり、Hondaだけでは片荷になってしまうところが、鉄道を使いたい場面になる」
投資の判断を後押しするのは、CO2よりも事業の成立に直結するドライバー不足の方だ、というのが大澤氏の順序づけだ。だから、モーダルシフトの拡大は個別の成功事例の複製にはならない。
「全体のサプライチェーンの再設計をしていく中で、船を使うのか、鉄道を使うのか、トラックを使うのかを考えていく。物流目線でもう一回再設計をするところに、次の拡大はある。広げていかないといけないと思っている」
EV化も、調達物流の前提を変える。大澤氏は車の変化を電動化とSDVの二つに整理したうえで、供給網への影響は電動化の側が大きいと見る。最初に来る難題は需要予測とS&OPだという。
「EV需要は予測が非常に難しい。国から出る補助金もあれば、都道府県レベルで出るものもある。つくかつかないかで、受注はかなり変わってくる。ここを外すと在庫過多になったり、逆に長期のバックオーダーで、物が来ないならとお客さんが離れてしまう」
供給の側から見た影響は二つある。一つは部品の重量化だ。「部品自体が非常に重くなる、大きくなる。トラック輸送も含めていうと、重量負けの問題が出てくる」。容積に余裕があっても重量の上限で積めなくなる。もう一つが、物流網を描く自由度の低下だ。バッテリーやモーターの工場には大きな投資が要り、購買の契約は長期に及ぶ。どこから買うかが長く固定されるほど、後から物流網を描き直す余地は狭まる。だからこそ、調達先の立地を決める段階から物流の負荷を織り込む必要がある、と大澤氏は見る。バッテリーの回収という静脈物流については、率直だった。
「静脈物流まで言うと、正直、トータルでの設計にまだ具体的には踏み込めていない。その前に、この新しい車がいくら売れると読んで、それをどのように作るかという方が、課題としてはまだ大きい」
国際物流でも、従来の前提を見直す。2010年代までの供給リスク対応は地震や洪水が中心だったが、コロナ禍と半導体不足を境に様相が変わり、対応に追われる場面が続く。それでも大澤氏は、場当たりの問題とは見ない。
「これは設計問題だと思っている。2000年代の後半から2010年代は、自由貿易の流れで輸送コストは下がる、関税も下がるということを前提に設計されたサプライチェーンだったりソーシングだったりに対して、前提条件が全く変わっている。もう一回設計を見直さなければいけない」
海外を動くコンテナの動静を把握する仕組みの整備も、その見直しの一部として動く。経営レベルの対処と交渉の判断は松尾歩CLOが担い、環境の変化を見立てて動くのが大澤氏の役どころだ。社外との連携でも動きがあった。経済産業省のフィジカルインターネット実現会議では26年7月1日、日本自動車工業会が完成車メーカー14社による自動車ワーキンググループの設置を提案し、業界間連携の活動の軸にCLO間のコミュニケーションを含める案を示した。大澤氏も呼応する。
「取り組まれている皆さんに共通するのは、自部門で閉じないこと。自分の会社だけじゃなくて、他の会社だったり業界全体だったりとつなごうという意識で取り組まれているのが印象的で、私もそこに加わっていきたい」
一社の契約変更を、完成車メーカー間の連携へ広げられるかが次の焦点になる。多数のサプライヤーを抱え、ジャストインタイムの当事者であり、発注者として強い影響力を持つHondaの切り替えが広がれば、自動車部品の取引慣行にも影響が及ぶ可能性がある。だからこそ、成否の物差しが要る。契約の付け替えは入り口にあたる。切り替えた後、輸送の回数と積載効率、待機の時間、支払う物流費がどこまで動くか。運送会社とサプライヤーの負担がどう変わるか。向こう2-3年で、その答えは数字に表れる。
▶ ▶ 前編「Honda、契約を変えるSC購買本部にCLO」を読む
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