
話題改正物流効率化法の施行を受け、特定事業者に指定された荷主ではCLO(物流統括管理者)の選任が進む。中長期計画の提出期限も迫るなか、積載効率の向上や荷待ち・荷役時間の削減をどう計画に落とすか。「何から手をつけていいのかわからない」という声は少なくない。
セオリーは決まっている。まず物流実態の「可視化」だ。物流コスト、入出荷量、在庫、積載率。ダッシュボードに並べるところから始めましょう——どのセミナーでも聞く話である。
ところが、事業会社でSCM・物流領域で本部長を務めた経験を持つブレインパッドの池田大介氏は、この定石に首を振る。
「まず可視化」の定石こそが、落とし穴になるというのだ。
「可視化は、そんなに簡単なものではない。最初に取り組むものというより、むしろ”最終奥義”に近いのでは」
第一歩のはずの可視化が、最終奥義。この矛盾をほどくところから、データ・AI活用を軸に企業の意思決定を支援してきたブレインパッド(東京都港区)の物流支援は始まる。

▲池田大介氏
「見える化」と「可視化」は別物である
矛盾の正体は、言葉の混同にある。同社は、物流現場の数字を画面に表示するだけの「見える化」と、経営判断や改善行動につながる「可視化」を明確に区別する。
多くの企業は、物流センターや部門ごとの月次実績を把握し、財務面でも物流費を管理している。数字はすでに「見えて」いるのだ。しかしそれらは、与えられた条件の中で日々の業務を管理するための数字である。
どのような物流を目指すのか、会社をどの方向へ変えたいのか。その意思がないまま数字を並べても、輪郭をなぞっただけのスケッチにとどまる。どの数字から何を判断し、どの行動につなげるのかまで設計して、初めて経営に使える「可視化」になる。だからそれは、最初に置くものではなく、目指して登っていく到達点——最終奥義なのだ。
では、CLOは何のためにその奥義を目指すのか。
与件は、物流現場の外で決まっている
物流部門はこれまで、営業が決めた納期、生産部門が組んだ製造計画、調達部門が設定した発注条件を受け入れ、その枠内で効率化を求められる立場になりがちだった。物流現場がどれだけ改善を積んでも、コストと負荷の源泉である「条件そのもの」は物流の外で決まっている。
CLOという役職の本質は、この構図を逆転させることにある。「その納品条件では全社のコストが増える」「この条件を変えれば利益を改善できる」。物流側から営業、生産、調達へ提言し、経営判断に関与していく。その武器がデータだ。
例えば、少量の商品を週に何度も納品する契約が物流費を押し上げているとする。物流部門が「非効率だ」と訴えるだけでは営業は動かない。配送頻度を見直した場合のコスト削減効果と、在庫、欠品、顧客サービスへの影響を数字で示して初めて、「会社としてどちらを選ぶか」という経営判断の土俵に載る。
データサイエンティストとして大手総合商社の物流・SCM分析を手がけてきた塩見氏は、「CLOが見るべきなのは、部門や拠点ごとの結果だけではない」と指摘する。条件を変えたら、全社のコスト、利益、在庫、サービス水準がどう変わるのか。複数の選択肢を比較できる形にすることが、CLOの判断を導く。
つまりCLOに必要な可視化とは、現場を監視する画面ではない。営業部門等の他部門が決めた納品条件だけを所与とせず、条件そのものを問い直し、会社として全体最適・顧客ファーストを軸に他部門と対話ができる共通言語である。

▲塩見佳大氏
可視化、その手前に必ず壁がある——「データはまず疑う」
ここまで聞けば「では可視化を」となりそうだが、その手前に必ず壁がある。
荷主企業には、WMS(倉庫管理システム)、TMS(輸配送管理システム)、基幹システム、受発注データ、運行日報と、膨大なデータが蓄積されている。だが「データがある」と「分析できる」は違う。
実際に分析を始めると、WMSと基幹システムで在庫数が一致しない。商品マスターが更新されていない。必要な項目がTMSに存在しない。システム上のデータより、センター長がExcelへ手入力した数字の方が信頼できるケースさえある。委託先ごとにWMSが異なれば、同じ名称の項目でも定義や集計方法が違う。センターの責任者が違えば「作業時間」の測り方が違い、そのまま比較しても意味を持たない。
「データはまず疑う必要がある」と塩見氏は話す。
だから実務の第一歩は、ダッシュボードの構築ではない。いまあるデータの検分——どの数字が信じられて、何が欠けていて、定義がどこで食い違っているかの棚卸しだ。現場で使う「待機時間」「欠品」「適正在庫」の定義を拠点や部門をまたいで揃え、利益やキャッシュフロー、CO2排出量と結びつく形に翻訳していく。冒頭の矛盾はここで完全にほどける。第一歩はデータの検分であり、可視化はその先にある到達点なのだ。
そしてこの翻訳作業は、データの技術だけでは進まない。数値の不自然さは、物流実務を知らなければ気付けない。逆に物流に詳しくても、複雑なデータを分析可能な形へ加工し統計的に検証する技術がなければ、経営判断に耐える数字にならない。
フォークリフトにも乗るデータサイエンティスト
ブレインパッドの物流支援を象徴するのが、池田氏と塩見氏という2人の組み合わせだ。
池田氏は大手食品卸や大手メーカー、コンサルティング会社、物流会社でSCM運用やシステム設計に携わり、食品、電機、タイヤ、建材、アパレルなど幅広い業界で倉庫構築やWMS設計を重ねてきた。物流技術管理士に加えてロジスティクス経営士を取得したのは、物流を現場改善だけでなく、PLや事業価値まで含めて捉える必要を感じた経験からだという。
対する塩見氏は生粋のデータサイエンティストだが、本人が注力するのは分析技術だけではない。「現場を深く知らなければ正しい分析はできない」と、フォークリフトの運転資格(技能講習修了)まで取得した。あるルート配送最適化のプロジェクトでは、データ上で描いた新ルートを机上の検証で終わらせず、現場で成立するかまで確かめる。
データ上では最適でも、現場で実装されなければ意味がない。逆に、現場経験だけでは、その改善が利益や在庫、キャッシュフローへどう影響するかを示せない。経営目線、現場目線、データ。この3つを一気通貫でつなぐのが同社の物流支援の特長だ。
あえて「半製品」のダッシュボード
こうした思想は、同社がCLO向けに提供するダッシュボードの設計にも表れている。同社はこれを、あえて「半製品」と呼ぶ。
荷主ごとに物流ネットワークも、システムも、重視するKPIも異なる。必要なデータが最初からすべて揃っている企業もほとんどない。そこで、汎用的な基盤と分析の型を持ちながら、表示項目や計算式を企業ごとに追加・変更できる設計とした。ゼロからのフルスクラッチ開発より時間と負担を抑え、既製のBIツールより個社の経営課題に合わせて作り込む。型を持ちながら、各社が目指す方向に合わせて完成させる——それが「半製品」の意味だ。
「私たちはツールを作っているわけではない」と塩見氏は言う。ダッシュボードはゴールではなく、意思決定を支援するための入り口だ。可視化で問題を見つけた後は原因を深掘りし、改善策の仮説を立てる。
ただし、課題が見つかるたびに新たなソリューションを導入・実装するわけではない。需要予測、在庫最適化、自動発注、ルート最適化など、さまざまな選択肢の中から、何がいま必要で、何を将来に備えるべきかを見極める。既存のシステムやソリューションを生かせる場合は、それを前提に改善策を組み立てる。判断の軸に置くのは、あくまで顧客にとっての利益だ。
実際の支援でも、分析は「条件を問い直す」ところまで踏み込む。ある大手小売チェーンの店舗配送では、配送頻度を一段階減らせるかを検証した。商品の販売実績や欠品リスクに加え、店舗の限られた売場・保管スペースに収まるかを体積ベースでシミュレーション。その結果、欠品を増やさず、保管スペースにも余裕を残したまま配送頻度を見直せることを示した。
食品メーカーの事例では、多頻度少量配送にかかる物流費を可視化し、配送を集約した場合のコスト削減効果を明らかにした。
自動発注でも、すべてを一律に自動化するのではない。需要を予測しやすい売れ筋商品と、人の判断を残すべき商品をシミュレーションで線引きする。完全自動化した場合の欠品による販売機会の損失まで統計的に算出することで、経営層はリスクを理解した上で省力化を選択できる。
分析の目的は、唯一の正解を出すことではない。「この条件ならこうなる」「こちらを選べば、この利益とこのリスクがある」——経営が意思決定できる状態をつくることにある。
物流を「調整部門」から、経営に意見する部門へ
「CLOは数字を眺める人ではなく、数字によって意思決定できる人」と池田氏は言う。
最初から完璧なデータは要らない。まず会社として何を実現したいのかを定め、判断に必要な数字を明らかにする。使えるデータと足りないデータを検分し、課題を見つけ、打ち手を選び、実行する。その積み重ねの先に、営業・生産・調達と対等に戦略を議論できる物流部門が立ち上がる。
ブレインパッドが目指すのは、物流部門を各部門の要望を受け止め続ける「調整部門」の立場から、企業価値を生み出す部門へ変えることだ。同社のCLO向けダッシュボードは、単なる報告画面ではない。物流部門が経営や他部門と対等に対話し改善するための武器であり、CLOの意思決定を支える「参謀」である。

・ブレインパッド|物流業界向けご支援
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・ブレインパッド|CLOダッシュボード
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