ロジスティクス日本3PL協会は10日、「EC物流委員会成果発表会」を開催した。
今回のテーマは「進化するAIでEC物流の未来はどう変わるか」。同協会の副会長でEC物流委員会委員長の川村勝宏氏の基調講演に続き、3つのワーキンググループ(WG)が研究成果を発表した。
開会あいさつで加藤進一郎専務理事は、EC物流委員会が2010年に発足したことを紹介。当時は国内で「EC」という言葉自体がまだ広く浸透していなかったが、大手EC事業者などの協力を得ながら活動を始め、その後のEC市場拡大とともに委員会活動も発展してきたと振り返った。
協会は現在、会員数360社超となり、基盤整備から「成長フェーズ」へ移行している。加藤氏は、物流には企業同士が競争するだけでなく、共通課題について連携できる領域が大きいとして、協会が掲げる「共創と実践」の重要性を強調した。

▲川村勝宏氏
川村氏の基調講演では、国内EC市場の現状と物流自動化、さらにAIがもたらす次の変化を整理した。
海外と比較してまだまだ国内のEC化率は低く、なかでも食品EC化率は4%程度にとどまり、今後の成長余地が大きいとした。物流センターでは、庫内自動化が進んできたものの、荷降ろしや積み付け、ラストワンマイル配送などには依然として人手作業が残り、AIをいかに活用できるかが成長の鍵を握る。
川村氏は、生成AIからAIエージェント、さらに現実空間で動作する「フィジカルAI」への進化を今後の焦点に挙げた。センシング、AIモデル、ロボットなどのハードウエア、通信インフラ、現場データを組み合わせることで、自動化の対象領域はさらに広がるとの見方を示した。
特に重要になるのが「データ」だ。調達、生産、倉庫、輸送、店舗、顧客までサプライチェーン全体をデジタル空間上で再現し、シミュレーション結果を現実のオペレーションへ反映する「デジタルツイン」を次のステージとして提示した。
「DXを進めるには、データを徹底的に取ることが必要になる」
センター内の自動化だけではなく、顧客分析、需要予測、受発注、生産性管理、配送までをつなぎ、プロセス間をオーケストレーションすることが重要になる。AIによる設備の予知保全にも言及し、マテハン設備の異音や稼働状況を分析して停止を事前に防ぐなど、AIの役割を「止めない物流」へ広げる考えを示した。
「AIセンター長」で管理職を支援
WG1は「AIエージェントによる倉庫マネジメントへの変革」をテーマに研究した成果を発表した。着目したのは、現場作業者だけでなく、センター長などマネジメント側の人手不足だ。
EC物流では業務が複雑化する一方、パート、派遣、スポットワーカー、外国人など働き手も多様化しており、管理負荷が高まっていると分析。そこで提示したのが「AIセンター長」の考え方だ。AIが管理者に代わるのではなく、日報作成や情報収集、分析などを担い、センター長が収益改善、人材育成、組織づくりなど、より経営的な仕事に集中できる環境をつくる。
一方、AI活用には、センター長の勘や経験、現場ノウハウを言語化し、WMS(倉庫管理システム)や出荷実績などと合わせてデータとして蓄積することが前提になるとした。
さらに、将来的にはAIが発送順守率や梱包品質など物流データまで含めて商品や事業者を評価する可能性があり、購買行動にも大きな影響を与えると指摘。「人に選ばれる物流」から「AIに選ばれる物流」への変化を見据え、3PL事業者も物流品質を定量化しておく必要があると提言した。
秘密を守りながら「共同最適」へ
WG2は「AIによる物流トレードオフ解消構想」をテーマに、企業間でデータを共有しにくいという壁を越えながら、サプライチェーン全体を最適化する方法を検討した。
同WGは、物流危機を単なる人手不足ではなく、荷主、3PL事業者、配送会社がそれぞれ自社のKPIを追うことで「全体最適できない構造問題」と捉えた。荷主側では納品スピードや欠品防止、物流側では在庫削減や積載効率向上を求めるなど、企業ごとの最適が相互にトレードオフを生んでいると分析した。
その解決策として提示したのが、各社の価格、在庫、販売データなどを直接開示せず、必要な情報だけをAIで活用する「秘密計算AI」を基盤とした共同最適化構想だ。
競争上の機密を守りながら、荷主、3PL、運送会社が連携し、需要と供給をリアルタイムで調整する。WG2は、データ秘匿、AI学習、既存システムとの接続、リアルタイム最適化を、全体最適を実現するための条件として挙げた。
「配送するAI」から「受け取ってもらうAI」へ
WG3は、ラストワンマイルの「配送」ではなく、生活者の「受け取り方」に着目したAIを提案する。
対面受取、置き配、宅配ロッカーなど選択肢は増えているが、最適な受取方法は世帯構成や就業状況、在宅時間、不安や好みによって異なる。そこで、AIが一人ひとりの生活状況や過去の受取行動を学習し、受取時間、場所、方法を提案する「エモーショナルAI」を中核とした地域共創型ラストワンマイルOSを構想した。
「配送するAIから、受け取ってもらうAIへの転換」が研究の基本的な考え方だ。
利用者を在宅しやすさや安全性重視か利便性重視かなどで8つのペルソナに分け、例えば共働き世帯には在宅可能性の高い時間帯を通知し、若年単身者にはロッカーや店舗など自宅以外の受取場所を提案する。高齢者には重量物の搬入支援や、家族への受取完了通知なども想定した。
WG3は、AIによって受取行動を少し変えることが、再配達削減にもつながるとした。AI活用で再配達率が1ポイント改善した場合、単純換算で5800人分の配送力を別の需要へ振り向けられるとの試算も示した。AIを単なる配送効率化の道具ではなく、「人が受け取りやすい社会を設計する」ための仕組みとして位置づけた。
3つのWGに共通したのは、進化著しいAIを単独業務の省力化にとどめず、人、データ、企業、さらには生活者までつなぐことで、EC物流の多様な課題を改めて浮き彫りにすると同時に、解決の可能性を指し示した形だ。
なお、日本3PL協会は9月30日から10月2日まで、東京ビッグサイト(東京都江東区)で「食品物流&3PL総合展2026」を開催する。今回のような成果発表に加え、荷主、3PL、物流テック企業などが互いの知見を持ち寄る場を作ることで、共創と実践を具体化する姿勢である。

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