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「日本製の物流プラットフォーム」第10回コラム連載

2020年6月15日 (月)

話題永田利紀氏のコラム連載「日本製の物流プラットフォーム」の第10回(最終回)を掲載します。

第9回掲載(6月11日)▶https://www.logi-today.com/380734

第19章- 相似と汎用

国内物流に共通プラットフォームが存在すれば、少なくとも個配を中心とする生活関連配送で完結する物流機能はインフラとして定着するし、その成熟は国民の暮らしに大きく寄与するだろう。

現在”ラストワンマイル”と表現される部分のインフラ化が進めば、おそらくそれを支える基幹運輸機能も規格準拠してゆくと想像している。

もはや仕組みを実現する要素はほぼ揃っている。やっかいなのは参加すべき企業の同意だ。足並みが揃わなければ画餅の典型として日の目を見ることはないだろうし、奇妙で多種多彩な”物流に似た仕組み”としてこのまま存えてしまう。

■ 1、2、3、4のパーティー順に準拠

業務の単純化とルール統一自体は難しいことではない。一見多種多様に見える現状の生活関連物資の物流は、並べて検証すればほぼ同じ内容だと判明する。入荷や保管、出荷の業務フローは、全作業内容の直列化によって、すべてと言って差し障りない数の企業をカバーできるはずだ。最も簡易で単純な物流形態であるEC専業なら、間違いなくすぐに統一できる。

俗にいう1stパーティーと呼ばれる製造業とそれに続く2ndパーティーの流通業、そしてそれらの物流を完全代行する3rdパーティーである物流会社、物流コンサルタントのような4thパーティーのそれぞれが「統一」を理解し準じれば、事の概ねは成ったも同然だ。特に製造・流通段階で物流の共通プラットフォームへの準拠を宣言すれば、その業務を請ける3PLや4PLは自然とその流れに従うだろう。

■ 相似性の長所

(イメージ画像)

ECなら特に明確だが、共通規格とそこから生まれるプラットフォームの最大の利点は、物量による有利や不利が少ないことだ。同じ形のまま拡大や縮小で業務とコストの結果が事前測定できる。もし何らかの破綻が潜んでいて、ある会社の目論見が大きく外れたという事態が発生するなら、それは参加全社に及ぶトラブルとなるはずだ。

したがって、関与各社は自社のためにひたすらに仕組みのあら探しを心がける。つまり、自社の利益確保のために行う努力が全体の利益に置き換わる。それは参加全社が同じように供出する労力であり、同時に享受する利益でもある。

■ 経年後には

改廃を伴って進化と成熟を成し遂げる物流の共通プラットフォームは、国内物流に特化した当初の目的を果たしつつ、他国や海外の国境を越えた共同体から注目を集めるようになるだろう。各社各論の主張自粛による物流のインフラ化とコストや稼働の安定性の実現。それは、現在進行形で経済発展を遂げ、物資の往来頻度が増す一方である多くの新興国がいずれは直面する「日本がいつか来た道と突き当たった壁」の向こう側を開示している。

先に栄えて先に老いた、かつての覇者たちの数多い仕組みを我が国はまねてきた。次は逆の立場になる日が近いと書けば、「そんな夢物語を」と失笑を買うのだろうか。

第20章- 餅は餅屋で

日本は総じて白紙に絵を想い描くことが苦手な国だが、塗り絵やデッサンは世界一ともいえるほどの優れた能力を有している。

素材が呈示されれば、それを並び替え、加減を施し加工して、高性能で高品質、低価格で耐久性にすぐれ、拡張性や改廃安易な構造設計まで付け加えて「完成品」を創り出す。物流は日本が最も得意とする業務機能にできること間違いない。

長らく野放しのままだったが、昨今は国土交通省の動きが明らかに変わってきた。実務ベースに即した制度整備、査察や検証結果の情報開示などは大きな評価に値する。

■ もう一つの売り物

(イメージ画像)

ここまで記してきた物流機能の国内整備が奏功し、その効果をエビデンスとして、技術の輸出を視野に入れることを本気で検討してほしいと願っている。

日本は技術大国であり、既存の仕組を加工し、改善再利用することに長けている。世界中の各国にすでにある物流という経済インフラのひとつを、メイドインジャパンの技術加工で合理化と経済性の両立する国家インフラに再生させる提案は、やってみる価値のある挑戦だと考えている。数々の売り物を世界中にひろめてきた過去と実績が形作った日本の印象にふさわしい冠言葉は「技術」以外にあり得ないはずだ。

■ 得意分野で勝負

今後の日本は、内にあっては観光と工業や理学、医療分野などの技術研究と開発。外をむけば、単独行動は控え、協調と共同を旨とする立居振舞に徹するべきだろう。分を弁えるとは、控えめな行動や卑屈で無用な謙遜や謙虚を多言することではない。自国で益あった仕組みや技術を他国に提供することこそ、日本らしい生き方であると判じているが、いかがだろうか。

倉庫規模の大小や数量の多寡、車両のそれらなどは、海外諸国の同等物と比してみれば、たいしたものではないとわかる。

■ 小さな巨人

我が国が小さな巨人たるゆえんは、無限ともいえる人智と技術革新の追求であるはず。自覚や自負以上に、海外諸国の評価や信頼は厚いと聞く。であれば、餅は餅屋で買ってほしい。官民が一枚岩となって行商に出かけることに迷いは不要だ。画餅に魅かれて買ってみたら、とても美味だった。看板に偽りなし。それは国民性がなせる業であり、譲れない誇りである。

物流技術も日本は一流。若者たちに託す未来を支える言葉のひとつになれば素晴らしい。

第21章- OurLogisticsPlatform

(イメージ画像)

ヨーロッパ諸国に目を向ければ、日本が目指すべき方向と歩むべき道がわかる。かつての覇者、老いた王者たちは、今どのように国家を運営しているのか。

少子高齢化や財源の不足、縮小する内需と減少する輸出――しかし、破綻や国民生活の不遇困窮が極まったという情報は届かないし、実際に訪れてみれば、経済大国と評されて久しい我が国よりも豊かさに満ちていると感じることが多いのはなぜだろうか。

それは永年の社会資本蓄積と文化の醸成が支える「厚み」の存在なのかもしれない。そして各国それぞれが「らしさ」を垣間見せていることも忘れてはならないところだ。我が国も今一度、真摯に学ばなければならない。何が「日本らしさ」なのかを。

物流技術の共通化を実現させるプラットフォームの設計と運用シミュレーションの試行・改良・完成は、協調性と規則や規制に忠実で真面目な日本人に最適な事案だ。国土の小ささが幸いして、実施にあたっての物理的負担が世界最小で済ませられる。また、持ち前の勤勉さと潔癖さは仕組みの研鑽に大きく寄与するだろう。

経済大国では未知の、共通規格から生まれた物流プラットフォームが運用される。世界中から注目を集めることは疑いない。物流技術の錬成は、これからの世界各国で大きな課題となるはずだ。

「Our Logistics Platform is made in Japan.」

こんな言葉を本気で夢見ている。(了)

■永田利紀氏やLogisticsToday編集部に対するご意見、ご感想をお待ちしています。下記メールアドレスまでご連絡ください。

LogisticsToday編集部
support@logi-today.com

■コラム連載「日本製の物流プラットフォーム」
第1回:https://www.logi-today.com/376649
第2回:https://www.logi-today.com/377070
第3回:https://www.logi-today.com/377916
第4回:https://www.logi-today.com/378377
第5回:https://www.logi-today.com/378994
第6回:https://www.logi-today.com/379203
第7回:https://www.logi-today.com/379878
第8回:https://www.logi-today.com/380339
第9回:https://www.logi-today.com/380734

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
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https://www.logi-today.com/356711
コハイのあした(コラム連載・全9回)
https://www.logi-today.com/361316
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