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連載「うちの倉庫はダメだよな」第14回(あとがき)

2021年4月27日 (火)

話題企画編集委員・永田利紀氏の連載「うちの倉庫はダメだよな」の第14回(あとがき)を掲載します。

「うちの倉庫はダメだよな」第13回(最終回)
https://www.logi-today.com/431846
最長となった今回の連載だが、書き始めた当初は第1回と、今回の「あとがき」の内容だけとするつもりだった。しかし何行か書くうちに、過去のさまざまな場面や言葉が思い出され、その場に居合わせた人々や印象に残っている言葉などの数々が脳裏に浮かんで、それらを語り部や狂言回し的な役割の誰かに吐かせたくなった。文中のA課長はそうやって生まれた。

■ 目指すは標高ゼロの山頂

当初は技術論に終始する中身を考えていたのだが、A課長や他の登場人物を設定した途端、それぞれが言葉や思考を持つようになってしまい、途中からは物語の流れるままに任せて書いていた。物流屋の拙文ゆえ、中途半端で一本調子の素人作文だったが、技術以前の心構えやモノの始末の本質的な部分が伝われば、という思いで書き下ろした次第だ。

(イメージ画像)

物語の先、A課長がいかにしてアナログで煩雑極まりない現場改善に挑むのかは、読者諸氏の自社現場での過去と照らし合わせてお考えいただきたい。私自身も似たような経験が何度もあるし、これまでもその端々を幾つかの原稿にちりばめて掲載してきた。

我々物流人が目指すのは「標高ゼロの山頂」であり、その登り方やルートに正解はない。各社各自がそれぞれの事情や環境に従って、わが道を往くのだと思っている。

モノを運ぶ手間賃と諸経費の多くは、付帯費用や最終価格に転嫁されて、専ら内包状態で負担されるため、切り取って計算した結果には驚きや戸惑いの声が上がることは珍しいことではない。「物流業」と一括りにされている企業群の売上を上位から並べてみれば分かりやすいだろう。数字を見た多くの人々が「こんなに売上があるのか」と感じることは毎度のことだ。

反対側からの視点に置き換えれば、企業コストにおいて物流機能の占める割合は大きい、ということになる。業態によっては最大費用比率となることも少なからずある。

しかしながら、仕入れやその他の販管費のようにきめ細かいコストダウンやカットの具体策を講じにくいのも事実であり、それはひとえに企業内に物流専門職がいない、もしくはいても権限が不十分である、経営陣の実務関与が希薄、などの組織上の理由によるところが大である。

いつもながらの指摘だが、役員クラスが現場を視察すれば、一気に事態は明るい場所での確認を経て、因果の詳細がはっきりとする。なぜなら、現場というお白洲でしかるべき能力と実績を持ち合わせた経営者か、それに準じる人物が奉行を務めれば、他業務と同様に解決への方程式が組まれ、答えが導き出されるに違いないからだ。

■ いるのは「強い人」と「弱い人」

実際には答えが先に出ていて、それを証明するための式が組み立てられるに過ぎず、過去の経験からしてもほぼその手順で事が進んでいた。さらには他のお蔵入りや未報告の出来事、不可解なハナシなどにつながる糸口が、視界や耳に入る可能性も高い。

数え切れぬほど書いたり言ったりしてきたが、赤裸々な顧客欲求がむき出しになっているクレームの発生時に、事業執行の責任者やそれに準じる要職者がかかわらない、立ち入らないことが、企業の明日にとって不利益であるということを、今一度考えてみるべきではないだろうか。

儲からない、無駄が多い、ロスが目立つ、などの小言が一向に無くなることなく、常態化している理由の一端が倉庫にある可能性は高い。かすかでも予感が脳裏をよぎるなら、迷うことなく自社倉庫を訪問すべきだと経営陣には伝えたい。手ぶらで帰ってくることはまずありえない、と私の経験上では断言できる。

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暑かったり寒かったりするからといって、端折ったり駆け足になったり、途中で切り上げたりは厳禁だ。そこは現場の従業員が汗にまみれ、寒さに耐えながら、自社商材を顧客に届けるために懸命に作業している前線なのだ。せめて同じように、熱さの中で汗を拭い、寒気に襟元を閉めて身をすくめながら庫内を歩くことぐらいは、厭わずにやるべきだ。

企業内には善人も悪人もいない。いるのは「強い人」と「弱い人」だ。あくまで仕事をしている時間に限っての例えなので、その人本来の気質や人となりについての決めつけではないことをあらかじめ断わっておく。企業人としての「役割をこなすうえでの人格」という視点での区分だ。

そしてその区分けにしても、いくつかの偶然や巡り合わせの産物としての評価や批判、苦境や幸運、希望や絶望、歓喜や悲嘆などの果てに、他者に先回りして自身で思い込んだり諦めたりしてしまう類の不確かなものだと思う。「あの人は○○○な人だ」という他人の評価や言葉よりも、「私は○○○な人間だ」という自分自身の思い込みの方が自虐や絶望、もしくは不遜や希望の種となることがはるかに多い。

そしておそらくきっと、その実感は偏向していたり、特別なものであったり、少数意見であったりはしないだろう。今まさにその渦中にあって、苦しんだり、迷ったり、意気軒高だったりする読者がいるかもしれない。

■ あなたはダメではない

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私は大きな組織に属する人の苦衷や忍耐の現実を知らない。経験したことがない外部者ゆえに、聞いたハナシや読み物などの内容を、時として不思議で不合理で不実に感じたりもする。しかし、だからと言って当事者を差し置いて評論する乱暴さや不遜さは厳禁と戒めることぐらいはできるつもりだ。

知人や友人の奇天烈だったり、言葉なく悲しみに沈むようなエピソードや物語の数々。それは当事者本人にとって、まさに悲喜こもごもとしか言いようのない、いくつもの出来事や境遇の到来だったと記憶している。

利害関係の無い知り合いや友達の関係にある私にとって、その当人との「今から」に全く影響を及ぼすものではないのだが、人事や転職ののちに縁遠くなったり距離感が変わる人は多い。自分自身の思い込みによる人間関係の濃淡が、そもそも見当違いだったのかもしれないが、全部が全部そうとばかりも言えない気がする。

企業物流に携わる全ての人に申し上げたいことは、いつも同じだ。

「あなたは必ずできるはずだし、その個性ある能力を疑ってはならない」

ということである。

(イメージ画像)

魔が差す、付け入る隙が生まれる、悪循環に陥る、などの言葉が適当な表現といえるような、万事低調な時に限って、大きな決定や行動を求められたり、自身で追い込んで単眼的に選択してしまいがちなことは、皆同じだ。そんな時に利害関係の無い誰かに相談したり、愚痴をこぼすことが、頭の整理になったり気分転換になったりして、回り回って修羅場や土俵際からの脱出につながることもあろう。

たとえそれが無駄であっても、そもそもが利害抜きの相手なのだから、関係に何らかの影響や変化など起こるはずもない。普段からそういう人物が交流関係図の中にいるなら、口に出さずともよいので、感謝して大切にしておくことをお勧めする。思い浮かばない方々も、改めて周囲を眺めてみれば、必ず「その人」はいるはずだ。

そしてその人は意気消沈してうつむくあなたにきっとこう言ってくれる。

「あなたはダメではない。あなたの仕事もダメではない」

不肖私も、読者諸氏の確かな毎日を願っている一人だ。(了)