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「うちの倉庫はダメだよな」第3回コラム連載

2021年2月15日 (月)

話題企画編集委員・永田利紀氏のコラム連載「うちの倉庫はダメだよな」の第3回を掲載します。ある物流部門の現場責任者「A課長」の物語が進展していきます。

「うちの倉庫はダメだよな」第2回コラム連載
https://www.logi-today.com/419117

■ 商品部からの指示(1)

昨日の夕方に商品部の仕入担当者からメールが届いていた。「X社***-01の販促協力添付品の入荷処理について」という表題の長い文章だったが、要は値引き代わりの添付入数を簿外処理するようにということだ。同一品が11ケース入庫するが10ケースしか入荷処理してはならない。入荷情報としては10ケース、その他入庫として簿外となる販売協力品が1ケースとして対応せよとのこと。第三者が聞けば「不正や混乱のもと」と口を揃えるだろう。

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このような場合には、営業マターとして売上伝票か請求元帳で調整して処理すべきなのだが、なぜかそうならない。仕入が約定と異なっていたとしても、それが双方申し合わせての結果であれば支障ないはずだ。むしろ取引内情を原価区分に反映して簿外品を計上することは、出荷元との売買履歴確認時に補足や調整履歴といった副本的な資料の参照が必要となって紛らわしく面倒だ。

そういうことを回避するために、制度会計と管理会計の使い分けはどの企業でもイロハのイとして運用しているはずだが、うちはそうなっていない。営業原価と経営原価を額面通りに揃えるほうが煩雑で判りにくくなるからこその管理会計のはずなのに、だ。

営業利益率の設定は仕入添付品の多寡などによる原価率変動と切り離すべきだと思う。仕入や営業の事業収益寄与度についての評価と判定は経営レベルで行えばよいのであって、部門同士が直接調整や測定する必要などないはずだ。現実にその類のいくつかある「おりあい」の弊害として物流現場の業務にしわが寄っている。

(イメージ画像)

社内の経営層や管理層からそんな指摘はないらしい。したがって入荷で添付品があるたびに、総数を数えて1ケースだけ別によけるという作業後、10ケースのJANをスキャンして在庫計上し、ロケに運んで棚入れすることになる。

一方で、在庫計上から外した1ケースについては、「販促品・サンプル品(SP)***-01」という文字列が1段目、「99」で始まる入荷年月日・メーカー品番の羅列からなる販促品用品番が2段目、3段目に専用バーコードが印字されたラベルシールを既存シールの上段に貼付して、専用バーコードをスキャンして在庫計上するのだ。処理後の画面には「販促品・サンプル品」とあり、一覧表の「品名」欄には正規製品名が(SP)という文字付きで表示されている。同一添付品の先入荷分は別行にそのまま存在しているが、保管マスは同じなのに、在庫区分は別SKUとなっている。

(イメージ画像)

出荷指示や営業が倉庫から持ち出す場合は、入荷日の古い順に開梱して必要数を取り出し、その明細と日時と所属部署と氏名を吊り下げのバインダーに記入する。物流部では入荷年月と個数までを履歴として残すが、それ以降は残数管理不要の簿外在庫品が庫内に存在する状態となる。営業部の担当者が持ち出そうが、出荷指示に基づいて物流部から出そうが、吊り下げられているバインダーにある情報がすべてであり「正」となっている。毎月末にそのバインダーの手書き記入された表を商品部と営業部にファクシミリで送信する。

ちなみにだが、入荷数からバインダーにある明細を減じた後の数値と実在庫数が合致していることは一度もない。しかし物流部はそれを指摘する立場になく、営業や仕入からの要望もないので、見て見ぬふりのままとなって久しい。

入荷処理時に添付分のみ営業部へ移動させればよいのでは?と何度も提案したが、管理する者がいないという理由で却下されてきた。しかし、現状としても庫内で簿外品の残数管理を行っている者はいない。ここに至るまでの過去に物流部で簡易なルールを提案したことはあった。しかし、持ち出し時の手続きや処理の煩雑化や厳密化は、顧客への迅速柔軟な営業活動になじまないという脈絡不明の理屈でこれも不採用となった。

添付交渉を手柄としながらも約定原価以外の仕入台帳管理を避けたいという商品部の本音と、伝発時に細かい処理や確認をする手間を嫌がっている営業の怠慢の産物。という内心に漂う不信感は、他社の物流部門やその他の関与部門から批判されるものなのだろうか。自分では正論と思っているものの、社外の常識や一般論で自社を測れないので口に出す自信がもてない。

(イメージ画像)

営業は販促品の添付販売の際に、値引き処理するのではなく、別品番の原価ゼロ・売価ゼロ品として別行表示したいのだろう。結果として売上粗利率は通常の掛率のまま維持できる。しかしそもそも粗利額は変わらないのだから、売上帳票上での粗利率の中身は容易く理解できそうなものだが、それは誰の口からも公式には出ない。売上管理システムの問題なのかもしれないが、そこまで調べることは叶わないので不明だ。そして何よりも、暗黙の了解として物流部が営業の諸事に口をはさむことは禁忌のひとつに数えられている。

実はさらに物流現場を苦しめている根深い問題がある。次回はこの問題がいかなるものかについて話していく。

―第4回(2月22日公開予定)に続く


永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
■連載
コハイのあした(連載9回)
https://www.logi-today.com/361316
BCMは地域の方舟(連載3回)
https://www.logi-today.com/369319
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https://www.logi-today.com/373960
日本製の物流プラットフォーム(連載10回)
https://www.logi-today.com/376649
もしも自動運転が(連載5回)
https://www.logi-today.com/381562
あなたは買えません(連載5回)
https://www.logi-today.com/384920
物流人になる理由 (連載6回)
https://www.logi-today.com/400511
保管料商売はやめました(連載8回)
https://www.logi-today.com/408179
■時事コラム
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https://www.logi-today.com/380181
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