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新名神・北摂地域にフォーカス

物流施設関心度ランキング、「新名神効果」色濃く

2022年3月3日 (木)

話題LOGISTICS TODAY編集部は、ことし2月17日から21日にかけて物流企業や荷主企業を中心とする読者を対象に実施した、新名神高速道路沿線や大阪府北部の「北摂地域」を中心とした関西エリアの物流施設に関するニーズ調査(有効回答数558件、回答率17.8%)。関西圏だけでなく中国地方など西日本全域をカバーする広域輸送拠点として、物流施設の開発事業者が訴求を強める一方で、荷主企業はこうした事業者の展開する物件のブランド力に一定の配慮をしながらも、賃料や立地、機能を重視した物件を希望していることが分かった。

首都圏と比べてやや遅れて物流施設の開発ラッシュが到来しつつある関西圏。新名神高速道路沿線では、新たな道路網の整備を期待した物件開発が加速する。さらに、新名神高速道路の全通による恩恵を受ける大阪府の北摂・北河内エリアも、従来物件の機能強化とともに新規プロジェクトが進行している。関西圏における物流施設の勢力地図は、新名神高速道路など道路網の拡充とともに変化しつつあることがうかがえる。(編集部特別取材班)

新名神のプラス効果見据えた物流施設開発が急加速

前回は、新名神高速道路沿線や北摂地域における物流施設の課題認識や、賃料や面積などの要望水準について分析。京阪神を中心とした関西各地へのアクセスの利便性とともに、西日本を対象とした広域輸配送拠点としての機能を求める傾向が浮かんだ。さらに、滋賀県から京都府、大阪府、兵庫県に広がる新名神高速道路沿線と効果波及エリアにおいて、地域間で差はあるものの賃料高騰への危機感の強さを実感させられる結果となった。

(イメージ)

ここでは、新名神高速道路の沿線や北摂地域を中心とした一帯を「滋賀県・京都府」「大阪府北河内地域」「大阪府北摂地域・新名神沿線」「兵庫県の新名神沿線」の4つのエリアに分類。関心の高い物流施設物件をランキングでまとめた。各エリアで固有の事情はあるものの、首都圏と比べて大手デベロッパーブランドへの傾斜が弱めな印象だ。

「『ブランド力』がそのまま『いい物件』を意味するとは限らない。むしろ賃料や機動性を考慮すればトップブランドは選択しにくい側面もある」(関西系メーカー企業の物流担当)との声もあるとおり、「名」より「実」を重んじる実務的な視点で物流施設の価値を判断する傾向があるのも、関西流ビジネスの特徴。物流事業者は、こうした事情も考慮したプロジェクト運営が求められそうだ。

新名神の恩恵大きい京滋エリア、「プロロジスパーク京田辺」が関心度首位に

それでは、各エリアの関心度ランキングを順番に紹介していく。まずは「滋賀県・京都府」だ。2024年度の延伸開業区間「大津ジャンクション(JCT)・城陽JCT間」を含めて、関西圏でも新名神高速道路による恩恵を最も強く受けるエリアと言えるだろう。京都府南部エリアは、新名神高速道路の「宇治田原インターチェンジ(IC)」「城陽スマートIC」が開設されるほか第二京阪道路や京奈和自動車道とも結節することにより、広域道路交通の利便性が一気に向上することになる。

滋賀県内の大津JCT以東は、08年2月の開業を契機に沿線における産業進出が進み始めたが、全通すれば西日本方面とのアクセス性が大きく高まることから、物流施設など産業インフラのさらなる拡充が期待されている。

関心度のトップはプロロジス「プロロジスパーク京田辺」(京都府京田辺市)で全体の24.7%を占めた。2街区でプロジェクトが進む「次世代基幹物流施設」開発計画(京都府城陽市)が21.9%で続き、さらに産業ファンド投資法人(IIF)「IIF京田辺ロジスティクスセンター」(京都府京田辺市、18.1%)▽東急不動産「LOGI’Q(ロジック)京都久御山」(京都府久御山町、17.2%)▽日本GLP「GLP栗東湖南」(滋賀県湖南市、17%)――が上位を占めた。

京田辺市は、新名神高速道路の京都府内区間の延伸・全通により、第二京阪道路や京奈和自動車道を介して利便性が高まる代表的なエリアだ。すでに鉄道網は充実したエリアであることから、従業員確保の観点でも優位性が高い。城陽市の次世代基幹物流施設は、完全自動運転トラックなど次世代モビリティーの受け入れを視野に入れた、先進的な中核物流施設プロジェクト。三菱地所や東急不動産が参画し、宇治田原IC直結の施設として整備する予定だ。将来の物流輸送の主軸となる新名神高速道路の機能を見据えた取り組みとして特筆される。

同様に、久御山町や湖南市も、新名神高速道路による交通アクセス向上の恩恵を受けるエリアだ。久御山町は現時点でも第二京阪道路と京滋バイパスが交差する。住宅の集積が途上であり従業員確保にやや課題があるものの、マイカーであれば周辺の新興住宅地も通勤圏となる。湖南市は周辺道路整備も計画されており、産業地区としての性格を強めていく可能性を秘めている。

高速の利便性で開発進む北河内、トップは「CPD枚方」

続いて、「大阪府北河内地域」を見てみよう。大阪府を流れる淀川を境に北側が北摂地域、南東側が河内地域となる。その河内地域の北側である北河内地域には、枚方市や交野市といった大阪市中心部の衛星都市が並ぶ。門真市は大手電気メーカーの本拠地として知られており、裾野の広い産業立地が顕著だ。

北河内地域に物流施設が目立ち始めたのは、10年3月に全通した第二京阪道路の存在だ。国道1号のバイパスとして、一般道路と高速道路を併設した形で開発されたことから、住宅に混じって物流施設のプロジェクトが進み始めた。近畿自動車道や京滋バイパスと接続した京阪間のパイパス路線の性格が強いが、新名神高速道路の延伸・全通でその色彩がさらに濃くなるのは確実だ。

関心度で首位に立ったのは、センターポイント・ディベロップメント(CPD)と東急不動産、三菱HCキャピタルが21年5月に完成させた「CPD枚方」(大阪府枚方市)で23.5%の回答を集めた。マルチテナント型で延床面積は8万2000平方メートル。完成前に床面積ベースで6割超の成約をまとめた人気施設で、高い人口集積を誇る京阪間の配送需要を訴求した戦略が奏功した形だ。

次に支持を得たのが日本GLP「GLP枚方III」(大阪府枚方市、19.7%)。こちらもマルチテナント型で18年9月に完成。近距離配送と広域輸送の両方のニーズに対応できる立地と機能が特徴。第二京阪道路へのアクセスのよさは、このエリアにおける必須条件だ。

他には、三井不動産「MFLP大阪交野」(大阪府交野市、16.8%)▽シーアールイー(CRE)「ロジスクエア枚方」(大阪府枚方市、14.7%)▽野村不動産「枚方樟葉ロジスティクスセンター」(大阪府枚方市、13.4%)――が続く。枚方樟葉ロジスティクスセンターは03年完成と、このエリアでは“歴史ある”施設と言える。

北摂エリアは巨大開発物件「GLP ALFALINK茨木」が大きなインパクトに

さらに、「大阪府北摂地域・新名神沿線」の関心度はどうか。新名神高速道路は、北摂地域で市街地が集まるJR東海道線と阪急電鉄京都線の沿線から北側に外れた場所を通る。とはいえ、そもそも産業の発達が早くから進んだエリアであるとともに、茨木市・箕面市の北部山間部で開発が進む国際文化公園都市「彩都」(さいと)でも物流施設の開発プロジェクトが着々と動いている。彩都は新名神高速道路のICにも近く、新たな産業集積を期待するエリアだ。

この北摂地域は、食品など関西系のメーカーの輸配送や保管を目的とした比較的小規模な物流倉庫が集まる場所として知られてきた。そもそも北河内地域などと比べても宅地化が急速に進行し、大型物流施設の用地確保が困難だった経緯もある。しかし豊富な物流需要があるのは間違いなく、それを受けた巨大プロジェクト案件も出始めている。

その象徴となる日本GLP「GLP ALFALINK(アルファリンク)茨木」(大阪府茨木市)が、今回のこのエリアにおける関心度調査で、25.6%の支持を得てトップに躍り出た。次点も日本GLP「GLP摂津」(大阪府摂津市、18.6%)がランクインした。

GLP ALFALINK茨木は、日本GLPの大規模多機能型物流プロジェクト「GLP ALFALINK」シリーズの関西初案件だ。茨木市南部の南目垣・東野々宮地区に面積13万5000平方メートルの敷地を確保。北摂地域でこれほどの巨大施設の整備は困難とされてきただけに、物流業界を驚かせた。そのインパクトは、関西圏だけでなく首都圏など全国の荷主企業にも強いようで、日本GLPも関西圏のみならず西日本の広域輸送拠点としてのニーズを獲得できる物件として注力している。

近畿自動車道「摂津南IC」至近のGLP摂津は、物件として半世紀以上の歴史を持つ。他の施設を圧倒する魅力は、交通アクセス性の高さ。依然として根強い人気を維持している。

日本GLPの2施設以外に関心を集めた施設は、野村不動産「Landport(ランドポート) 高槻」(大阪府高槻市、17%)▽サンケイビル「摂津物流計画」(仮称、大阪府摂津市、16.1%)▽関電不動産開発「茨木物流センター」(大阪府茨木市、15.9%)――など。

野村不動産が京阪神の中心地へのアクセスを重視して開発したLandport高槻は、賃貸面積2万坪(6万6000平方メートル)の大規模集約対応や先進的なBCP(事業継続計画)対応が特徴の戦略的施設として整備。機能を重視し、ライバルの多い北摂地域における差別化を明確にする。サンケイビルは、コンパクトながらアクセスのよさと従業員確保の優位性から「収益力の高い魅力的なプロジェクト」を旗印にする。ことし9月の完成予定だ。

兵庫県の新名神沿線は、CPD巨大開発に注目集まる

最後に、「兵庫県の新名神沿線」エリアにおける物流施設の関心度をまとめる。兵庫県内の新名神高速道路は、18年3月までに順次開通した。川西市と宝塚市、神戸市北区を経由するが、西宮市北部など大阪・神戸間の各都市の北部へのアクセスも一定程度確保されており、広域アクセスを含めた恩恵を受けていると言える。内陸の山間部で未開発用地も多いことから、大規模施設プロジェクトが多いのも特徴だ。

新名神高速道路は神戸JCTで山陽自動車道・中国自動車道と結節しており、中国・四国・九州へ高速道路を経由して移動できる。新名神高速道路は、西日本へのアクセスを一気に向上させる効果をもたらしている。

西日本への窓口としての機能も期待される兵庫県の新名神高速道路沿線の物流施設で、関心度で上位を占めたのは、CPD「CPD西宮北」(神戸市北区、13.8%)▽大和ハウス工業グループ「DPL兵庫川西」(兵庫県川西市、13.6%)▽日本GLP「GLP西宮」(兵庫県西宮市、13.1%)。

CPD西宮北は、中国自動車道「西宮北IC」をはじめ新名神高速道路や阪神高速道路などの主要道路とのアクセスのよさから、25年の完成を待たずに人気が高まる。マルチテナント型施設を2棟整備する計画で、物流拠点として広く認知されている阪神流通センターに近接していることも、優位性の高さを裏付けている。

ことし2月1日に着工したばかりのDPL兵庫川西も、マルチテナント型施設として開発。新名神高速道路「川西IC」へのアクセス性の高さを前面に出し、「近畿エリアから西日本エリアまで短時間でアクセスできる」利便性を訴求している。近接する大規模ニュータウンからの従業員確保の優位性も含めて、兵庫県内の新名神高速道路沿線における物流施設開発のトレンドを象徴するプロジェクトと言えそうだ。

GLP西宮は、CPD西宮北と似た発想の施設と言える。近接する「西宮北IC」の開業から5年後の1979年に完成した歴史ある物件だ。このICを含む中国自動車道の区間の開業をきっかけとした施設開発の先駆けと言える。

他に注目を集めた施設は、プロロジス「プロロジスパーク猪名川2」(兵庫県猪名川町、12.4%)▽CPD「CPD西宮北II」(神戸市北区、12%)――など。それぞれ21年8月完成、25年春課題解決と、新名神高速道路の全通も見据えた新施設への高いニーズが読み取れる。

新名神、万博――。「関西の物流のあり方」論じる契機に

新名神高速道路沿線と北摂地域を4つのエリアに分けて、物流施設の関心度を見てきた。新名神高速道路の延伸・全通による新たな物流ニーズの恩恵を受ける滋賀県・京都府の沿線エリア。直接のアクセスはないものの新名神高速道路のもたらす効果を大きく受けると期待される大阪府北河内エリア。既存の京阪神への輸送基地としての高い需要に広域アクセス拠点という要素がプラスされる大阪府北摂エリア。そして西日本を統括する物流拠点として再認識されている兵庫県の沿線エリア――。

それぞれ立地条件やプロジェクトをめぐる思惑の違いはあるものの、共通しているのは新しい国土軸を形成する新名神高速道路への強い期待感と、それを活用したサービス提供で差別化を図ろうとする機運だ。

ここ20年で最低水準にあるとされる、関西圏での物流施設の空室率。需要の高まりとともに、供給できる床面積が不足していたのも一因だ。20年代前半で大量に供給される物流スペースは、関西圏における産業活性化に結びつくのか。2025年に予定される日本国際博覧会「大阪・関西万博」も視野に、関西圏における物流のあり方を考える好機でもあるだろう。

■物流施設特集 ‐関西編‐