ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

新名神沿線・北摂地域の物流拠点が抱える高いポテンシャルとは

魅力は「西日本へのアクセス」「湾岸部の代替」機能

2022年2月25日 (金)

話題LOGISTICS TODAY編集部は、ことし2月14日から21日にかけて物流企業や荷主企業を中心とする読者を対象に、新名神高速道路沿線や大阪府北部の「北摂地域」を中心とした関西エリアの物流施設に関するニーズ調査(有効回答数558件、回答率17.8%)を実施した。京阪神を中心とする関西圏への配送拠点としてだけでなく、西日本へのアクセスも重視した広域輸送拠点としての展開ニーズが高い傾向にあることが判明。首都圏と異なる市場動向として、物流不動産開発で高い知名度を持つブランド力に一定の配慮をしながらも、コンパクトで機能重視な物件選択を進める志向が強いことも分かった。

物流開発事業者には、こうした関西特有のニーズに配慮したプロジェクト開発が求められそうだ。2020年代に入り関西圏での物流施設の空室率は低い状況で推移しており、新築物件を中心に賃料水準は上昇局面にある。コストにシビアな土地柄も考慮した施設展開が不可欠な実情が浮かんだ。

回答者の主な内訳(複数選択)は、物流企業64.1%▽荷主企業14.1%▽その他21.9%。新名神高速道路沿線や北摂地域で物流拠点を運営している企業は全体の55.4%で、立地府県別では大阪府64.1%▽兵庫県33%▽京都府30.4%▽滋賀県17.6%−−だった。(編集部特別取材班)

高速開通とともに広がる関西圏の物流施設展開エリア

関西圏における物流施設は、大阪湾岸部や播磨臨海地域のほか、北摂や大阪市周辺の「ものづくり」の盛んなエリアで開発が進んできた。電気機器や食品、繊維、薬品といった関西圏で強みを持つ産業領域のメーカー各社が製造拠点を配置。物流需要を生み出してきた歴史がある。

こうした関西圏における物流施設開発の構図に変化が生じたのは、第二京阪道路や京奈和自動車道といった新規の自動車専用道路だ。特に第二京阪道路は、首都圏や中京圏から関西圏への新ルートを構成したことから、沿線の大阪府北河内エリア(枚方市・交野市など)で産業立地が加速し、物流施設の新規プロジェクトも進行している。奈良県を経由して和歌山市に至る京奈和自動車道でも、同様の開発が進む可能性が高い。

こうした動きを決定づけるとみられるのが、新名神高速道路の全通だ。すでに一部区間を除いて開業しているものの、全面開通で新東名高速道路・伊勢湾岸自動車道を含めて、首都圏と中京圏、関西圏を貫く高規格の高速道路網が整うことにより、広域物流のさらなる効率化・最適化が進むとの期待が大きい。それを見据えて、物流施設の開発が始まっている。将来の自動運転時代を想定したインターチェンジ(IC)直結型物流施設の開発計画など、新たな取り組みも進んでいる。

京阪神だけでなく「西日本」へのアクセス性を重視

今回の調査は、こうした関西圏における物流施設開発のうち、新名神高速道路沿線と北摂地域に焦点を当てて、その動向を探った。新名神高速路道路沿線や北摂地域で物流拠点を運営するメリットについては、「京阪神の3大都市圏へのアクセス性が高い」が48.4%でトップ。「西日本の広域アクセス性が高い」が45.9%で続いた。

それぞれの回答は、関西圏に物流拠点を置く理由の違いを表現していると言える。関西圏における比較的近距離な輸配送拠点と位置付けるか、あるいは関西以西の中国・四国地方、さらには九州地方まで管轄する西日本広域輸配送拠点とするかの違いだ。

長らく立地産業の代表格とされてきた物流ビジネスだが、西日本における高速道路網の整備が相当程度、進捗していることを考慮すれば、少なくとも中国・四国地方を含めた広域拠点として関西圏の物流施設のあり方を考えるのが現実的な発想なのだろう。ここでは新名神高速道路の沿線に物流拠点を置く企業に回答を求めていることから、より広域アクセスの意向が強く出ている側面もあるようだ。

ちなみにアクセス面以外のメリットについては、「出荷(納品)先に近い」(33%)▽「取引先拠点に近い」(24.6%)▽「配送先エリアが近い」(24%)――などの回答が目立った。

「賃料水準」への懸念、低い空室率にコスト感覚の違いも

一方で、デメリットについてはどうか。「賃料水準が高騰してきた」が最多で46.1%を占めた。「従業員の通勤が不便」(28%)▽「交通渋滞が多い」(26.3%)▽「労働力が確保しにくい」(21.5%)――と続いた。

賃料にかかる回答がトップに躍り出たことは、二つの思惑を示していると言えるだろう。まず、関西圏における空室率の低下傾向や新規物件の増加による需給バランスの変動を契機とした実質的な賃料の上昇に対する危機感。もう一つは、賃料に対してシビアな関西圏の荷主企業の感覚を反映していることだ。

前者はあくまで市場原理によるものであり、ある意味で必然的な動きだ。しかし、後者はいわゆる「土地柄」の問題であり、当地における物流開発プロジェクトの「壁」になるケースもあるという。ある物流開発事業者は「関西圏では荷主との営業活動でシビアな賃料交渉を迫られるケースが少なくない」と指摘する。こうした観点では、物流ビジネスが立地産業の側面を持つ一例と言えるだろう。

新名神・北摂への物流拠点開設にほぼ半数が意欲的

新名神高速道路の全通は、用地取得の遅れなどもあって2027年度にずれ込む公算だ。新名神高速道路や北摂地域に物流拠点を開設または検討する可能性については、28%が「ない」と回答。次いで「ある(3年以内)」(22.8%)▽「ある(時期は未定)」(20%)▽「ある(1年以内)」(5.2%)――となった。

この地域への物流拠点の開設を検討している企業は全体の半数近くに達したものの、3割近くが消極的な意思を示した形だ。

前の設問で、物流拠点の開設メリットについて3大都市圏や西日本のアクセスを挙げる回答が目立ったことを考慮すれば、北摂地域に位置する高槻市以西(高槻ジャンクション以西)が開業済みであることから、すでに一定程度の目的が達成されている可能性もある。北摂地域を中心に見ると、むしろ中京圏・首都圏へのアクセス向上に新名神高速道路全通のメリットは生まれるはずだ。

大阪湾岸部の物流ニーズを「代替」する新名神・北摂の物件

新名神高速道路沿線や北摂地域への物流拠点開設を検討する可能性があるとした企業に対して、必要なスペースの広さについてたずねた。「1000坪以上3000坪未満」が35.8%で最多となり、「3000坪以上5000坪未満」(21.9%)▽「5000坪以上1万坪未満」(15.8%)▽「1000坪未満」(2.6%)――となった。

首都圏で供給されている賃貸の物流スペース規模と比べると、やや小ぶりな印象だが、一定程度の面積を求めているという意味では、似た傾向にあると言えるだろう。大阪湾岸部に国際貨物を取り扱う拠点が卓越しているのに対して、新名神高速道路の沿線や北摂地域は、食品をはじめ日用品など比較的小型の商品製造拠点が多く立地するのが従来の物流ニーズの流れだった。しかし、第二京阪道路や新名神高速道路の開通を受けて内陸部にも大型物流施設のプロジェクトが進み始めた今、こうした図式も崩れつつあることを示していないだろうか。

さらに、新名神高速道路沿線や北摂地域における物流拠点の開設に必要な要素について「重視している」「重視していない」「どちらでもない」の3段階で回答を求めた。重視するポイントについて、「40フィートトレーラーに対応」が88.3%の回答を集めてトップ。「高速道路ICからの距離」(82.3%)▽「周辺道路の幅」(74.7%)▽「公共交通機関からのアクセス」(72.8%)▽「非常用電源設備」(71.7%)▽「駐車スペース」(70.9%)――と続いた。

ここで注目すべきなのは、40フィートトレーラーへの対応を重視する企業が大半を占めた点だ。大阪湾岸部の倉庫がほぼ満床状態にあり、関西圏におけるこうした大型貨物に対応できる施設を内陸部にも求める動きが広がり始めているとみられる。内陸部といえども、首都圏と異なり北摂地域は大阪市と境界をなすエリアも多く、大阪港にも高速道路を活用すれば1時間以内で到達できる位置にある。

さらに高速道路で広域アクセスも可能となれば、賃料水準も加味して内陸部の施設にこうしたニーズが生まれるのも、あながち不思議な話ではない。新名神高速道路沿線や北摂地域における拠点には、大阪湾岸部における物流ニーズの受け皿としての役目と、広域アクセスの結節点としての機能の両方が求められていると考えることができそうだ。

許容賃料からうかがえる、北摂地域における物流施設の「資産価値」

最後に、新名神高速道路沿線と北摂地域で許容できる賃料(坪単価)の水準について聞いた。回答が最も多く集まった価格帯は、大阪府の北摂と北河内の各地域、兵庫県と京都府の新名神高速道路沿線では、いずれも「3000円から4000円まで」だったのに対し、滋賀県内の新名神高速道路沿線は「2000円から3000円まで」となり、1000円程度水準が低いことが分かった。

北摂地域は「4000円から5000円まで」が27.1%で、大阪府北河内地域や兵庫県、京都府の新名神高速道路沿線と比べても1000円程度高い賃料を許容できる余地があるようだ。

関西圏だけでなく西日本を統括する拠点として、さらには大阪湾岸部のニーズさえも代替する機能が求められる北摂地域の物流拠点は、新規物件を中心に関西圏でもトップ水準の賃料を設定しても成約できる可能性があることを示した。実勢の賃料は別の議論であるものの、改めて物流施設としての資産が高く評価されていることを裏付けている。新名神高速道路の全通を迎えてさらにその機能が強まることを見据えたものであることは、言うまでもない。

次回は、新名神高速道路沿線と北摂地域における関心の高い物流施設について、エリアごとにランキングでまとめる。

■物流施設特集 ‐関西編‐