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関西物流展特別セミナー登壇レポート/第5回

2022年7月1日 (金)

話題LOGISTICS TODAY(東京都新宿区)の赤澤裕介編集長と永田利紀・企画編集委員が登壇した、「第3回関西物流展」「第1回マテハン・物流機器開発展」の特別セミナー講演「物流ロボット導入事例、隠された『その後』を徹底追跡〜忖度なし。使えたのか、使えなかったのか〜」の現地レポート。第5回は、ロボットへの適正な「期待値」のあり方を探ります。


「めざましく改善しました」を信用するな

<赤澤>
次に行きます。これも今までの話と関連があるところかなと思いますけど。「めざましく改善しました」を信用するな、と。これもちょっと不思議ですよね。「めざましく改善しました」という報告を受けたとすると、それを信用するなっていう話ですよね。永田さん、経緯も含めてどういうつもりでこういうタイトルを選ばれたのか、ご説明いただけますか。

<永田>
「めざましく改善してません」って言えない。「永田どうだ」と聞かれて「前期と比べて20億ぐらい、いや、もっといいだろう」と言われて「いや、今一つ改善していません」とはなかなか言えないわけです。結局見にくるわけですよね。

「物流現場が会社の基本だよ」とか言ってて、物流現場の経験もないのに、会社のケースにも寄りますけど物流経験のない人が多いんですよね。出世コースに物流現場が入っていないのが問題のひとつなんですけど。そういう方が素人目で見ると、すごく機械ががたーんと動いていて、理路整然と動線が取られていて、床ピカピカで照明が明るくて、従業員みんな「おはようございます!」と挨拶する。挨拶もちゃんとできていて、掃除も行き届いていて、機械も動いているならうまくいっているという発想になるんですけど、当然(上司の)機嫌が良くなって「うまくいってるだろう」と聞かれたときに「いや、実はうまくいっていません」っていう報告はなかなかしにくいんだと思います。

投資が効いていたり、会社が社運をかけてやっているテンションだとなかなか言いにくい。じゃあどうやってるかっていうと、その自動化ラインを維持するための補完作業が発生したりする。一番多いのが返品ですよ。上が一番見えないのは返品です。返品自体を報告しにくいですね。営業からはあんまり正直出ません、返品の失敗は。数字のデータが当然出てくるんですけど、物流現場に行くと返品の山があって、物理的にこんなに返ってきているのかって分かるんですけれども、エクセルか何かで数字を見せられても、あまりピンとこないんですよね。そういうところを自動化にすると、よりたくさんになる。止められないんじゃない。いっちゃったり、これはもうとりあえず出さざるを得ないよってことも、たくさんあって、そういうことの報告はできないんですね。

「するな」と言われたりとか。結局何のためにしているのかというと、自動化を維持するための業務が発生して、総合的にいうとかえって人手が増えたり、総労働時間が増えたりして、時間がたてばそれも解消していくんですよ。確かに。試算上は17か月で追いついて、18か月目からは人を減らせる、省人化の効果が出始めるんですけれど、なぜ出始めるかというと慣れるから。それって属人性の極みですよ。

結局自動化にみんなが慣れたら自動化がちゃんいくっていうのは、何か論理的におかしくないのかっていうんですけど、本気で会議をやってる会社も多いもので。普段の思考回路でいうと「それっておいおい」とすぐに誰かが突っ込むようなところを、誰も突っ込めないまま何か月もたつというパターンが非常に多いです。それで、私のような第3者は、おかしいですよって言うんですけど、全員が初めて気づいたように「えっ、何がおかしいんだ」っていうんですよ。「よく言ってくれた」っていうのが本音なんですけれども、違和感があるんであれば、もう内部で発見してくださいって言わざるを得ない。実態として、そうなっている会社が非常に多いです。

<赤澤>
やっぱりロボットの導入成果を会社として目標を設定するときに、100点を目指しちゃうのがそもそもの間違い。そんなところもあるんじゃないか、と。

<永田>
そうです。まさに最後に言おうとしていました。

<赤澤>
結論言っちゃったみたいで、ごめんなさい。

<永田>
自動化ってまず良いのか、悪いのか。非常にありがたいと思っています。ありがたいです。現実に導入している現場の人の意見を聞くと「非常にありがたい」ということが多いです。何かを感知したり、速度を測ってくれたり、ミスを探してくれる。非常にありがたいことばっかりなんですけれども、そこの部分ありきでもの考えるのは駄目だよと、皆さんたぶんもうおわかりだと思うんですよね。

おわかりなんだけど、なかなか会社の意思統一、意思決定の中にそれを盛り込むタイミングがない。であれば、ぜひそういうテーブルを作っていただきたいなと思います。現場ではもういろんなことが起こっていて「めざましく改善しました」とか「とても効果が出ています」という言葉の裏側に必ずきっかけのようなものがあるということは疑っていただきたいと思います。なければもう、両手を上げて皆さんで万歳三唱していただいていいと思うんですけれど、必ず疑いの目を、少なくとも物流のプロフェッショナルが企業内にいるんであれば、意地悪かもしれませんけれども、少しハスからものを見ていただく人もいてほしい。憎まれ役になるかもしれませんが、憎まれ役こそ本意であるというふうにプライドを持っていてほしいなと思います。

物流ロボットの合格目標は「60点」「70点」?

<赤澤>
なるほど、ありがとうございます。点数でいうのは難しいと思うんですけれども、100点を目指すロボット導入が駄目だっていうのはわかったと思います。じゃあどのぐらいを目指したらいいですか。

<永田>
70点くらいですね。

<赤澤>
70点、はい。実はね、私、ある関西の精密機械メーカーさんの話を聞きましたけれども、その会社は非常に胸を張って「うちはロボットをうまく使いこなしています」とおっしゃるんですね。確かに聞くとですね、もう10年以上にわたって物流ロボットを動かしているということなんです。どういうロボット運用してるかというとやっぱりAGV(無人搬送車)なんです。

今はさすがにちょっと違うんですけれども、そのAGVを昔は磁気テープを読ませて、ルートを設定して、その上を走らせたりしていた、と。さらにもっとシンプルで、その会社のAGVって黒いゴムテープ、それに沿わせて走るような非常にシンプルなものでした。そういうもので何回も、現場では日々日々失敗を繰り返して、その結果その会社の出した答えっていうのが、「うちが導入に成功しているとすれば、それは60点を目指しているからだ」とおっしゃられたんですね。非常に印象的で。「あっ、なるほど、物流ロボットってそのぐらいの温度感なんだ」と。よく考えたら、我々が学生のころ受けたテストも60点くらいで合格だったじゃないですか。そのぐらいでいいのかな、と思ったりしたんですが、それって極端な例ですか。

<永田>
全然そんなことないと思います。実態としては、そういう着地になると思います。先ほど申し上げた通り「70点目指します」ってなかなか言いづらいと思うんですよね。「永田、これだけのものを入れて何点取るつもりなんだ」と言われて「70点です」って。「お前ガリ勉やって70点しか取れないのか」と言われると、ちょっとよろしくないので「80点、90点ぐらいを合格点だと思ってます」って言うのはいいんですけど。実態としては、60点、70点くらいのものが非常に多いです。それでも現場の感覚だと100点以上と受け止める現場も多いんですね。

「ありがたい。とても楽だ」と。ただ、楽だとか現場のありがたいと、かけた投資額を比べたときに、最終的に会社としてそれを良しとできるか、これは企業個別に決めることであるんですけど、自分が皆さんが思っていらっしゃるほど、うまくいっていないですよ、というのは私からはっきり申し上げられることでございます。

<赤澤>
なるほど、ありがとうございます。


最終回(第6回)は、ロボット導入を検討する上で「排除すべきもの」をズバリと提言します。

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