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LT編集長登壇「ロボット導入に物申す」/関西物流展

2022年6月22日 (水)

イベントLOGISTICS TODAY(LT、東京都新宿区)は22日、「第3回関西物流展」の特別セミナーに登壇した。「物流ロボット導入事例、隠された『その後』を徹底追跡」をテーマに、赤澤裕介編集長と永田利紀・企画編集委員が持論を展開。150人を超える来場者が詰めかけるなど、物流現場の担当者がロボット導入に試行錯誤している実情をうかがわせた。

▲特別セミナーの様子。赤澤氏(右端)と永田氏(左端)が、物流ロボット導入についての問題点、現場にはびこる誤った認識を指摘した

赤澤氏と永田氏による掛け合いで、物流ロボット導入における問題点について検証。「現場業務の効率化を実現する手段であるはずのロボット導入そのものが『目的』になっていないか」「ロボットを使えば課題を『完全に解決できる』と考えていないか」など、ロボット導入に係る誤った認識をなくすことにより、機能を最大化して現場の問題解決につなげる機運を高めてもらう狙いだ。

ここでは、特別セミナーで飛び出したロボット導入における「提言」をまとめてみた。

提言1「自動化は仕入れできない」

永田氏は「物流の業務委託と同じ発想で現場の自動化を捉えてはいけない」と指摘。ロボット導入など自動化機器・システムを現場に導入する取り組みを「バイパス手術」に例えて、自動化する部分の前後で新たな対応が必要になることを考慮して検討する必要性を訴えた。さらに自動化関連機器・システムを導入する際には、現場と経営者が一枚岩になることで円滑に話が進むようになるとアドバイスした。

提言2「ロボットは人間のような『融通』が利かない」

機械が融通なんて、と思う向きもあるだろう。しかし現場では、生身の従事者に頼むように、柔軟な対応をロボットに求めてしまうものだという。「高額で高性能なロボットなんだから、これくらいの裁量は効くだろう」との思い込みなのだろうが、そこはやはりロボットだ。

AI(人工知能)が判断するにせよ、あくまで自身の任務を全うする一方で、場当たり的な融通には応じてくれないのが機器でありシステムであるゆえんだ。むしろ「導入する側がしっかりと課題を整理してロボットに求める業務を明確化することが大切」(永田氏)なのだ。

提言3「『人間』との協調を前提としないロボットはあり得ない」

永田氏は、ある物流現場を訪問した際に「今からロボットが通るので立ち止まって通路を空けてください」と担当者に声をかけられた経験を披露。「『ロボット様』に仕事をしていただいている、という社風を感じた。ロボットはあくまで人間のために仕事をする存在であるべきだ」と、違和感を抱いた理由を語った。

まさに、人間とロボットが“倒錯”した発想。その背景には、高額な投資に踏み切った経営者に対して「現場への貢献」を示さなければならない現場の緊張感があるのだろう。投資に見合った効果を数値化して示すために、永田氏来訪のような「雑音」を排除しなければと現場も懸命なのはわかる。しかし、冷静に考えてほしい。「ロボットは何のために導入したのですか。成果を出すためですか。いや、成果を出すのはロボットではなく現場ですよ」

提言4「ロボットに合わせるばかりではなく、ロボットにも合わせてもらおう」

現場業務の効率化策として、待望のロボットを導入したある倉庫。ここで問題が浮上した。「ロボットがピッキングしやすいように、荷姿を変えられないか」。一見、筋が通っているように思えるこのテーマ、よく考えれば理不尽なミッションであることがわかるはずだ。

なぜなら、ピッキングロボットは、倉庫現場における作業を効率化する手段として導入されたのであって、むしろ荷姿に応じてロボットを設定するのが本筋というものだろう。企業がブランド戦略の意味も込めて長い時間をかけて最適化してきた荷姿を、現場都合のロボットに変えられてはたまらない。ロボットはあくまで業務を支援するものなのだ。

提言5「『目覚ましく改善しました』とのコメントは信じるな」

ロボット導入の成果について質問すると、「着実に成果が上がっています」「目覚ましく改善しました」などの返答を受けることがある。果たしてそうなのだろうか。そもそも、ロボット導入効果なんて、そう簡単に創出されるものではないだろう。

なぜなら、現場が人間とロボットと共存しながら業務改善に取り組むのに、少なくとも1年以上のサイクルが必要だからだ。むしろ、現場の「ロボット投資は成功だった」との声を期待する経営者の顔が浮かんできそうだ。これぞ究極の「忖度」なのだが、ロボットの有効活用を本気で考えるならば、こうした配慮はむしろ誤った情報を社内で共有することにもなりかねない。

提言6「ロボット導入を検討するうえで『全部』『完全』は禁句だ」

ロボットを導入した現場担当者がほっと一息ついて、「これでやっと誤出荷がなくなる」とつぶやいた。ちょっと待ってほしい。誤出荷の真因は、本当にロボットを入れれば解決するのか。別の工程に問題があるのではないか。その検証はしているのか。走馬灯のように疑問が頭をよぎってしまうのだ。

ロボットだってしょせんは機械だ。さらに重要なのは、それを活用するのは結局のところ人間なのだ。そもそも、ロボット導入を決めたのも人間ではないか。

物流は、ようやく社会に不可欠なインフラとして認識されるようになった。EC(電子商取引)サービスの普及は、それに輪をかけて物流へのさらなる要請を強めている。しかし、考えて見てほしい。人間か関与するサプライチェーンが、ミスがなく「完全」に作動することがありうるだろうか。細かなミスを補い合うのが全体最適でもあるだろう。

この格言は、ロボット導入を進めるうえで、忘れてはならない2つのことを指摘している。一つは、ロボットを扱うのは人間であること。もう一つは、ロボットを導入するならば、その他の周辺機能も同時に強化しなければならないということだ。これら2つの発想の共通点、それは、ロボット導入には他のシステムや機器と組み合わせることで、全体最適を意識した考え方が不可欠であるという命題でもあると言えるだろう。


■物流ロボット特集