ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

シンテックホズミの金本英之事業部長に物流DX化の「本質」を聞く

物流ロボ導入の前提条件は「本質的な課題認識」

2022年6月2日 (木)

話題荷扱いの現場における諸課題の解決策として注目を集める「物流ロボット」。新型コロナウイルス感染拡大などを契機とした消費スタイルの多様化で、倉庫など物流現場で取り扱う荷物の量や種類が急増し、人手不足や長時間労働などの構造的課題が顕在化。こうした課題に対応するための先進機器・ロボットの普及は、「物流DX(デジタルトランスフォーメーション)化」として現場業務の効率化・最適化を促す動きとして脚光を浴びている。

しかし、こうした物流DX化は、物流現場の抱える課題を本当に解決に導いているのだろうか。ロボットやシステムの導入そのものが目的になっていないだろうか。これら先進機器はあくまで、課題解決のための「手段」であるはずだ。1年前に大金をはたいて購入した鳴り物入りのロボットが、倉庫の片隅で眠っている――。そんな光景を目にするにつけ、どうしても疑問が消えない。「本当にロボットが必要だったのですか?」

LOGISTICS TODAYは、こうした課題認識を念頭に物流DX化の「あるべき姿」を検証すべく、シンテックホズミ(愛知県みよし市)の金本英之・Smr物流ソリューション事業部長に話を聞いた。(編集部・清水直樹)

▲シンテックホズミが開発した物流ロボットシステム

物流倉庫の抱える本当の「課題」を探る

搬送用をはじめ各種ロボットシステムの開発を手がけるシンテックホズミ。金本氏には、物流業界にロボットを提案する際に自問する言葉がある。「この現場が抱える課題の解決策として、本当にロボットが必要なのだろうか」。ロボットメーカーらしからぬ“疑いの目”を忘れないのは、あくまで課題の的確な抽出は現場に携わる人間自身の役目であることを認識してほしいとの思いがあるからだ。

――物流倉庫の現場が抱える課題の根源は何でしょうか。

▲「物流倉庫の課題の根源、それはモノを動かす『距離』が長くなっていることだ」と指摘する、シンテックホズミSmr物流ソリューション事業部長の金本英之氏

金本 「モノを動かす『距離』が長くなっている」。これに尽きると思います。消費スタイルの多様化などで取り扱う荷物の量が増えているのは間違いありません。さらに、昨今の中国におけるロックダウンやウクライナ情勢の緊迫化などで荷物が届きにくくなっていることから、在庫を通常よりも厚めに確保する動きも広がっているのが実情です。その結果、倉庫にストックされている荷物の量が増加し、必然的により広いスペースを求めるようになります。その結果、入庫から保管スペース、ピッキングエリア、検品・出庫といった倉庫業務プロセスにおける移動距離が長くなっています。これは現場従業員にとって大きな負担になっているのです。

――その解決策として注目されているのがロボットです。

金本 「移動距離を短くすることで、労務環境改善や業務の効率化を進めたい」とのニーズが強まっているのは事実です。入庫から保管スペースまで長い道のりを台車やフォークリフトで搬送するのは、これだけ荷物が増えて多種類化も進んでいる状況で、非常に負担のかかる業務だからです。しかし、こうした「移動距離を短縮する」という課題の解決には、ロボットの導入よりも先に取り組むべきことがあるのではないかと考えています。

――それはなぜでしょうか。

金本 「ロボット導入のほかに移動距離を短縮する方法があるのではないか」ということです。倉庫内の動線やストックスペースの位置を変更するだけで、見違えるほど運用しやすくなるケースもあります。決して小さくない投資が必要なロボットの導入にあたって、まずは現場の課題を正確に認識することが第一歩なのだと訴えたいです。

現場の本質的な課題を浮き上がらせることがロボット導入の前提条件

「物流ロボット元年」と称されるほど、物流現場におけるロボット導入の機運は高まっている。倉庫の運営事業者は入居企業に付加価値を訴求する手段として、先進的なロボットの導入を前面に出す。入居企業もそれに呼応して、輸配送拠点としての機能向上を図ることで荷主企業の高い輸送品質の要請に応えようとする。さらには、荷主企業も自社のサプライチェーン機能を盤石にするためにこうした先進機器の導入を促す。


▲物流ロボットシステムの導入イメージ

こうした業界内の連鎖は、いつしか物流DX化を本来の「手段」から「目的」に変えてしまう――。そんな力がひとりでに働いてはいないだろうか。

――とはいえ、ロボットを現場で活用している事実そのものが、付加価値を生み出すケースもあるのでは。

金本 確かに倉庫としての“資産価値”は高まるのかもしれません。見た目の効果もあるでしょう。しかし、こうした価値も一過性のものでは意味がないと考えています。倉庫は持続的にサプライチェーンの一翼を担う機能であり、そこで業務効率が落ちれば全体にマイナスの影響が波及するからです。課題を的確につかんでおく必要があるのはそのためです。

――こうした本質的な課題を見出すために必要な取り組みは何でしょうか。

金本 倉庫で取り扱う荷物の「情報」だと考えています。量や種類、納入先、スケジュールなど様々な情報を事前に把握することで、倉庫における荷物の取り扱い方が変わってくるはずです。例えば、この箱は在庫期間が長いからストックスペースの奥に置く、このパレットの荷物は出庫のタイミングが早いから手前に配置する、などの工夫が必要なのでしょう。

――いわゆる「前さばき」が必要だということですね。

金本 その通りです。こうした前さばきをすることで、自分の現場における業務の効率化を阻んでいる要因の輪郭がはっきりとしてくるからです。こうした荷物の情報を頼りに、倉庫現場におけるオペレーションを柔軟に修正していくことで、課題の本質を踏まえた人員配置や動線の設定、マテリアルハンドリングなど各種機器のレイアウトを展開します。そこではじめて、ロボットの導入を判断するステージに入ります。こうしたプロセスを踏むことにより、ロボットの導入効果を最大化できると考えています。

荷主を含めた現場での「情報」共有が物流DX化を成功させる秘訣だ

倉庫が抱える課題をきっちりと抽出して、現場で知恵を出し合ってできる改善策を施したうえで、初めてロボットの導入を考える――。倉庫現場はロボットの導入根拠が明確になり、メーカーも顧客の課題認識を正確につかめることでより的確な機種やサービス、価格の提案が可能になる。高額な先進ロボットを現場に迎えるにあたって、メーカーと現場の綿密な連携が不可欠なのは言うまでもない。

――倉庫現場はこうして浮かび上がった課題認識をロボットのメーカーにも共有する必要があります。

金本 それは絶対に必要なポイントでしょう。私たちの使命は、機械を販売して利益を上げることではありません。むしろ納入先でいかに効果を創出できるか、それが価値判断になるからです。納入先の現場でロボットが期待通りまたはそれ以上に活躍し、さらに高い水準の効率化を図るためにロボットの導入を加速していく。それが、サプライチェーン全体の活性化・最適化につながるのです。物流DX化とは、本来そういう発想に基づく概念であるはずです。

――先進機器の導入には、アナログの要素もあるということですね。

金本 こうした課題抽出作業は、倉庫業務を棚卸しする意味でアナログの色彩の濃い取り組みです。ロボットの導入にあたっては、納入先の担当者と一緒に現場の最適化のあり方について考えていかなければなりません。顧客の求めるロボットの台数と、実際に課題を検証した結果として本当に必要な台数に差が生じることも珍しくありません。ここで顧客が当初想定した台数を納入してしまえば、結果として過剰な投資を促すことになってしまいます。物流現場では、物流DX化の取り組みでこうした過剰な投資をしているところが少なくないのではないでしょうか。荷主も含めて、荷物の情報を物流現場で事前に共有することにより、課題を的確に認識してロボットの助けを借りる領域を明確化し、最終的に効率の高いオペレーションが完成する。それではじめて物流DX化は成功したと言えるのではないでしょうか。

問い合わせ先
シンテックホズミのホームページ:https://www.shcl.co.jp
電話:0561-35-5741(平日9時から17時まで)
■物流ロボット特集