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運賃転嫁の明暗、取適法と標準的運賃の実務

2026年3月1日 (日)

ロジスティクス荷主に運賃値上げを認めさせた事業者と、据え置きのまま耐えている事業者。その差はどこから生まれるのか。転嫁成功のパターンと、2026年1月施行の取適法(中小受託取引適正化法)が現場にもたらす変化を整理する。

原価を「数字で見せる」事業者が勝っている

大手荷主との取引で転嫁が進んだケースには、いくつかの共通点がある。

燃料サーチャージと人件費の上乗せを一体で交渉し、基準価格に対して1リットルあたり50-80円の燃料加算と合わせて運賃8%アップを実現した事例が、塗料や生活用品メーカーとの取引で複数報告されている。荷主側が「運送会社に倒れられると翌日から配送が止まる」という供給リスクを認識したことが、交渉の転機になった。

待機時間の有料化も広がっている。国土交通省の標準的運賃(令和6年告示第209号)では、待機時間料を30分超から車種別に設定しており、大型車で30分あたり1870円。待機時間と荷役時間の合計が2時間を超えた場合には5割の割増が適用される。物流テック企業ハコベル(東京都中央区)の試算では、積込料・取卸料の割増を含めた最高水準は時給換算で5500円に達するとしており、「荷役はドライバーにやらせることではないという国からの示唆だ」と指摘している。大手小売やEC(電子商取引)事業者との取引では、この標準的運賃を根拠に待機2時間超の別建て請求が実務として定着し始めた。

原価計算書を提示したうえで積載率の向上策を共同提案し、基本運賃10%アップで合意した機械・自動車部品メーカーの事例もある。26年3月期第3四半期決算では、複数の上場物流企業が「荷主が物流コスト上昇を理解し運賃改定に応じた」とIR資料で明言し、増収増益や業績上方修正につなげている。

一方で、中小企業庁の調査が示す転嫁率36.5%の世界は厳しい。中小荷主との取引では、「値上げするならほかに替える」という圧力がいまだに機能している。転嫁に失敗している事業者に共通するのは、自社の原価構造を数字で示せていないことだ。「燃料が上がったから値上げしたい」では荷主を動かせない。人件費、車両費、保険料、減価償却費を積み上げた原価計算書を提示し、「この運賃では法令を守って事業を続けられない」と説明できるかどうかが分かれ目になっている。

ここに制度的な後押しが加わった。26年1月1日に施行された取適法(正式名称:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)だ。従来の下請法は資本金基準で適用対象が限定されていたが、取適法では従業員基準が追加され、対象が大幅に広がった。

物流業界にとって最大の変更点は、「特定運送委託」が新たに規制対象に加わったことだ。対象となるのは、発荷主が自社で販売する物品や、製造・修理を請け負った物品の運送をほかの事業者に委託する取引だ。すべての運送委託が対象になるわけではなく、元請けから実運送事業者への再委託は従来通り独占禁止法の物流特殊指定で対応する。

取適法のもとでは、荷主(委託事業者)が運送事業者(中小受託事業者)からの価格協議の求めに応じず、一方的に運賃を決定することが明確な違反となる。協議を無視する、繰り返し先延ばしにするといった行為も違反に該当する。手形払いの禁止も新たに規定された。公正取引委員会は改正ポイント説明会や個別相談会を全国で展開しており、運送事業者が荷主との交渉で「取適法違反にあたる」と指摘できる根拠が整った。

転嫁交渉の武器は3つそろいつつある。標準的運賃は「いくらが妥当か」の目安、取適法は「協議拒否は違反」の法的根拠、そして今後告示される適正原価は「この水準を下回る運賃は問題」の公的基準だ。ただし、武器は持っているだけでは意味がない。自社の原価を正確に把握し、数字で荷主に説明できる事業者だけが、この制度変化の恩恵を受けられる。

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