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アルミ着値、物流費がもう一つの価格軸に

2026年4月26日 (日)

荷主ホルムズ海峡危機下で、日本企業が支払うアルミの着地価格は、金属相場(LMEと対日プレミアム)だけでは読み解けなくなった。海運運賃と船社の別建て課金だけで1トン当たり250-270ドル台、これに保管費、戦争リスク保険の運賃転嫁、リードタイム延長を含めれば、2026年4月時点で1トン当たり300ドルを超える上乗せが、金属相場とは独立して動いている。MJP(対日プレミアム)平均351.5ドルに匹敵する規模だ。これまでアルミ調達の価格軸はLME先物と現地プレミアムの2軸だったが、いま、運賃・保険・時間を束ねた物流側の第3の価格軸が立ち上がりつつある。本稿は、この第3の軸を1トン当たりドルに翻訳して中身を分解する。(編集長・赤澤裕介)

中東発アルミのサプライチェーンは、製錬所の被災や稼働低下という供給側の事情と、海上輸送・保険・港湾処理という物流側の事情が、いま同時に詰まっている。供給側は別稿で整理した。本稿では物流側を、コンテナ単位や船価比率ではなく、アルミ1トン当たりいくら上乗せされるかで見直す。

海上輸送、1トン300ドル超の重み

主要船社の運賃と付加課金だけで、アルミ1トン当たり200ドル台後半の上乗せが発生している。これに保管費、戦争リスク保険の運賃転嫁、リードタイム延長を含めれば、1トン当たり300ドルを超えるケースも現実味を帯びる。MJP 351.5ドル/トンに匹敵する規模だ。順を追って分解する。

まず海運運賃。上海航運交易所が公表する上海コンテナ運賃指数(SCFI)の中東(ペルシャ湾)向け航路運賃は、4月10日付で1TEU当たり4167ドルに達した。前週比190ドル上昇、戦争直前の1000ドル前後からは4倍規模となる。同指数で中東航路が4000ドルを超えたのは集計開始以来初めてだ。

この運賃に上乗せされる形で、主要船社は戦争リスクサーチャージと緊急運賃を別建てで徴収している。独コンテナ船社のハパックロイドは3月1日発表、3月2日発効で、湾岸発着貨物に戦争リスクサーチャージ(WRS)を導入した。料率は標準ドライコンテナで1TEU当たり1500ドル、リーファー・特殊機器は1コンテナ当たり3500ドル。デンマーク海運大手のマースクは同日付で湾岸向け緊急運賃を発効、20フィートドライで1コンテナ当たり1800ドル、40フィートドライで3000ドル、リーファー・特殊・危険品で3800ドルを別建てで課している。マースクの緊急運賃料率には14日間のin-transit保管が含まれ、15日目以降は1TEU・1日当たり25ドルの保管費が隔週で請求される。同社は4月6日から湾岸諸国の空コンテナ返却地を制限し、UAEでの返却に代えて指定デポ(オマーン・サラーラ、サウジアラビア・ジッダ)への運用に切り替えた。

これらを1トン当たりに換算する。アルミ地金(P1020Aなど)を20フィートドライコンテナに積む場合の実運用上の標準は20-24トンで、本稿では中位ケースとして1TEUあたり22トン積みの前提で試算する。

運賃本体と別建て課金を1トン当たりに換算すると、SCFIとハパックロイドWRSの組み合わせで257ドル、SCFIとマースク緊急運賃の組み合わせで271ドルとなる。SCFI単独でも189ドルに達しており、別建て課金を加えれば250ドル台後半から270ドル台に乗る。同じ荷主がハパックロイドとマースク両社を併用する場面は実務上は多くないが、どちらで運ぶにしても、運賃本体と別建てで1TEU当たり1500-3800ドルが上乗せされる構図は変わらない。

保険は、運賃やサーチャージより扱いが難しい。米経済メディアが4月20日に伝えた通信社報道によれば、湾岸通航の戦争リスク保険料は船価の3%前後まで上昇した。前週までは2%前後だった。戦闘勃発前は船価の0.25%前後だったから、衝突から2カ月で1桁上の水準に乗り換わったことになる。保険ブローカー大手マーシュ・リスクUKの戦争保険担当幹部ダイラン・ソーンダーズ=モーティマー氏は海外経済メディアに対し、2月28日直後は最大10%まで上昇し、現在は船価の2-6%のレンジで推移していると語っている。これは船体保険(Hull & Machinery)の付加保険料、1航海当たりの建値であり、貨物価額に基づくCargo保険とは別建てだ。船社が支払う船体保険料は運賃・サーチャージに転嫁される形で荷主の原価に回ってくるが、「船価3%」を貨物価額に掛け戻すと過大計算になる。船価1.5億ドル規模のコンテナ船で3%なら1航海当たり450万ドルの追加保険料が船社側で発生し、これが運賃・サーチャージの原資になる、と理解するのが近い。

保険引受の縮小を補うため、米国政府は民間と共同で再保険の器を拡大している。米国国際開発金融公社(DFC)は3月6日に200億ドル規模の海上再保険計画を発表、3月11日に米損保大手チャブをリードアンダーライターに指名し、4月6日に民間側を200億ドル規模に拡充して計400億ドルの再保険ファシリティに拡大した。民間側にはトラベラーズ、リバティ・ミューチュアル、AIG、スター、CNA、バークシャー・ハザウェイが参加する。対象はWar Hull Risk、War P&I、War Cargoの3カテゴリ。ただし米投資銀行のJPモルガンは、湾岸内を運航する329隻について最大で3520億ドル規模の民間保険カバレッジが現時点で提供できない状態にあると試算しており、400億ドル規模の政府系ファシリティは民間空白の1割強を埋めるに過ぎない。

時間も独立した変動源になっている。迂回とデポ制限の影響で、湾岸発コンテナ貨物のリードタイムは通常2-3週間から最大49日まで延びたとの事例が海外独立系経済メディアで報じられている(湾岸→欧州向け高級車輸出のケース)。中東→日本航路に関する49日の特定値は一次公表資料からは確認できないが、同じ海峡、同じ保険市場、同じ船腹制約にさらされる以上、アルミ物流だけが先に正常化する根拠は乏しい。マースクの15日目以降25ドル/TEU日の保管費を1トン換算すれば1日1.1ドル規模だが、これが30日積み増されれば33ドル、60日で66ドルとなる。金利負担と運転資金の回転低下を加味すれば、時間コストだけで1トン50-100ドル規模に届く局面もある。

運賃本体と別建て課金で250-270ドル台、ここに保管・時間・保険転嫁を含めれば、1トン当たり300ドル超に膨らむ。これがMJP 351.5ドル/トンに匹敵する、というのが本稿の起点となる事実だ。

金属ヘッジで届かない日本企業の調達

日本企業は長らく、アルミ調達をLME先物と現地プレミアムの2要素でヘッジしてきた。LME先物で金属相場の変動をカバーし、年4回交渉のMJPで産地から日本港までの上乗せ分を固定する。この2軸の組み合わせが、これまで調達部の標準的な価格設計だった。

ホルムズ危機下では、この2軸では届かない領域が広がっている。LME先物をフルにヘッジしても1トン3652ドルの金属本体しか固定できない。MJPの351.5ドルは年4回の交渉で固まるが、これも産地→日本港の輸送実費を反映するもので、ホルムズ閉塞下のサーチャージ・戦争リスク保険・リードタイム延長を別建てで吸収する仕組みは持たない。結果、運賃・保険・時間を束ねた1トン当たり250ドル台後半から300ドル超の上乗せが、調達部の価格設計の外側で動き続けることになる。

これに対応するには、運賃指数連動の輸送契約、サーチャージ上限条項、貨物保険の戦争リスク条項、在庫ポジションの厚み──物流側・保険側の条件設計を同時に動かす必要がある。運賃指数連動契約は、SCFIの上昇分を一定範囲で荷主と船社が分担する設計。サーチャージ上限条項は、船社が一方的に課す戦争リスクサーチャージ・緊急運賃に天井を設ける契約条項。貨物保険の戦争リスク条項は、Cargo War Insuranceの担保範囲・免責を再点検する作業を指す。在庫ポジションの厚みは、リードタイム延長に備えて国内倉庫での保有水準を引き上げる判断に当たる。これらは調達部単独では動かせず、物流部・財務部の関与が必須だ。

実際のところ、日本企業の多くで、アルミの価格交渉はLME・MJPベースで調達部が担い、輸送契約は物流部、保険契約は総務・財務部が個別に動かしている。担当部門が別々に動いている限り、第3の価格軸が動く実態を、企業として一つの数字に集約することが難しい。

さらに、ホルムズ海峡で通行許可制や通行料徴収の制度化が進めば、LMEにもMJPにも運賃指数にも表れにくい新たな費目が加わる。本誌が3月28日に報じた通り、イラン革命防衛隊(IRGC)はホルムズ海峡通航の許可制と通行料徴収を3月中旬以降に段階的に導入し、4月23日にはイラン議会副議長が通行料収入の初入金が中央銀行口座に完了したと表明した。現時点でアルミ貨物に直接転嫁されたとは言えないが、制度化されれば第3の価格軸はさらに複雑になる。トランプ米大統領は4月22日、米・イラン間の停戦を期限を定めずに延長すると発表したが、米海軍のイラン諸港封鎖は継続しており、ホルムズ海峡の通航制限は解除されていない。


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