荷主ホルムズ海峡危機が3カ月目に入り、アルミ調達コストの上昇は業種ごとに別の現象として表れ始めた。中小自動車部品メーカーでは在庫が尽きた後の代替調達が焦点となり、飲料缶では年契約と小売価格への転嫁時差が重くなる。一方、電線では銅価格高騰を背景にアルミ代替が進み、アルミ高の負荷を銅高由来の代替需要が一部打ち消している。第2回で示した運賃・保険・時間を束ねた1トン当たり250〜300ドル超の上乗せは、在庫耐性、契約条件、価格転嫁余地によって、資金繰り、店頭価格への遅れ、代替需要という別々の現象に分かれて表れる。本稿は自動車部品、飲料缶、電線の3業種から、アルミ調達危機の分岐を追う。(編集長・赤澤裕介)
第2回までで整理した供給側の事情と物流側の上乗せが、最終ユーザーに到達するまでの経路は業種で異なる。自動車部品の在庫は数日、飲料缶の年契約は数カ月、電線の長期契約は年単位。同じ1トン300ドル規模の物流費上昇でも、その重みが資金繰りや価格転嫁に表れるまでの時間軸は、数日から年単位まで開く。その結果、26年4月時点で表面化している現象は、損失の前倒し、転嫁の遅れ、代替需要の拡大という3つに分かれている。
自動車部品と飲料缶、薄い在庫と遅れる転嫁
自動車向けアルミ消費は国内アルミ製品需要の4割規模を占め、エンジン部品、トランスミッションケース、ホイール、ボディパネル、バッテリーケースまで広範に使われる。国内自動車メーカーのアルミ輸入は7割規模が中東依存とされる。最大需要層が、中東に偏った調達経路を抱える。この業種では、第3の価格軸が仕入れ負担と資金繰り悪化という形で最も早く表面化している。
ジャストインタイム(JIT、必要数量を必要なときに調達する生産方式)を前提とする自動車部品サプライチェーンの在庫水準は、完成品ベースで数日規模にとどまる。中東依存と薄い在庫が重なる結果、ホルムズ危機下で在庫が尽きるリスクが業種で最も早く顕在化する。詰まりどころは在庫に加えて契約面にもある。完成車メーカーが価格を主導する取引関係のもと、自動車部品の価格転嫁率は3月時点で6割弱にとどまる。Tier2〜3層の中小メーカーに、地金高騰と物流費上昇の負荷が時間差で皺寄せされる。
愛知県蟹江町のアルミダイカスト中堅、加藤軽金属工業の加藤大輝社長は海外経済メディアに対し、自動車部品の製造に支障が出るのはほぼ確実、との見方を示している。同社は月400トン前後のアルミを輸入、うち中東ドバイ産が200トン規模、豪州産が200トン規模を占める。5月までは在庫で対応するが、6月以降は調達先の切り替えを進めている。S&Pグローバル・コモディティ・インサイトの西本真敏ディレクターも、地政学リスクの影響を最も受ける可能性があるのは日本だ、と同記事で指摘している。
アルミ素材とダイカストの双方で、業績への反映は早い。アルミ圧延大手のUACJは26年3月期通期純利益見通しを310億円から270億円へ40億円下方修正した。地金価格高騰を理由として明示している。ダイカスト大手のアーレスティはホルムズ危機17日後の26年3月17日に業績修正を発表、危機を受けた最初の業績修正となった。日本の自動車部品メーカー複数社が3月上旬から、ロシアのUCルサール・インターナショナルから一次鋳造合金(PFA)の調達を模索している動きも、海外経済メディアで伝えられている。同社のアルミ製品は西側の特定制裁対象ではないが、日本企業はウクライナ侵攻後に自主的に取引を停止していた経緯がある。中東迂回先としてロシア材を取りに行く動きで、対露制裁や取引先説明との整合が、新たな調達課題として加わる。帝国データバンクの調査では、鉄鋼・非鉄金属・金属製品製造業の高リスク企業数が前年比62.5%増の2988社に達した。中小Tier層の運転資金圧迫が、件数として可視化されている。
自動車部品業界は、第3の価格軸に対する耐性が3業種で最も低い。在庫薄、契約硬直、中小依存が重なり、価格改定が下りてくる前に、在庫の再調達と運転資金が先に詰まる。Tier2〜3層では、仕入れ時に地金高と物流費を支払い、出荷側の単価改定は次の交渉まで動かない。この時間差が最大の弱点となる。
国内アルミ缶需要は25年予想で209億缶、消費は32万トン強でアルミ全消費の8〜9%にあたる(アルミ缶リサイクル協会)。ビール類向けスタンディング・オン・タブ(SOT)缶、非アルコール飲料向けボトル缶などに使われる。第3の価格軸は、時間差のかかる転嫁という形でこの業種に効く。
飲料缶は年契約主流で、価格転嫁の経路は3段階に分かれる。地金から缶材まではフォーミュラ価格制(地金価格を販売価格に連動させる業界慣行)で機械的にパススルーされ、製缶メーカーの収益はロールマージン(加工賃)が源泉となる。缶材から飲料メーカーへの価格は年契約が中心で、再交渉に半年から1年を要する。飲料から小売への値上げは半年前告知が業界慣行で、告知から実施まで5〜6カ月かかる。3段階の時間差を合計すれば、ホルムズ危機の地金高騰が店頭価格に反映されるのは27年中盤以降の蓋然性が高い。
詰まりどころは、製缶側の価格決定力の歴史的弱さにある。アルテミラHDの中塚晃章CEOは経済メディアの取材に、日本のアルミ缶メーカーは飲料メーカーより価格決定力が弱く、長期にわたるデフレ傾向の中で価格を上げることができなかった、ようやく価格転嫁の動きが出てきた、との認識を示している。アサヒビールは25年4月にビール類など226品目を5〜8%値上げした際、アルミ缶や輸送用段ボールなど包資材コストの高騰を理由に挙げている。
業績は値上げ効果で底堅い。製缶最大手の東洋製罐グループHDは26年3月期通期営業利益見通しを450億円(前期比31.3%増)に上方修正、配当を23円増配した。同社株は25年後半から34年ぶりの高値圏で推移している。UACJの板事業の主力品種は缶材で、販売数量の6〜7割を占めるとされ、業界慣行のフォーミュラ価格制で地金リスクを機械的に転嫁できる仕組みだ。アルミ缶リサイクル率は24年度99.8%、CAN to CAN率(缶から缶への水平リサイクル)は75.7%まで上がっており、再生地金が新地金の代替調達源として機能する。飲料容器500ml当たりのリサイクルコスト比較では、アルミ缶0.21円に対しスチール缶2.26円、PETボトル5.42円、ガラス瓶8.36円とされる。00年時点の全国111自治体平均で古いデータだが、アルミ缶のリサイクル経済性を示す比較材料にはなる。UACJと山一金属の合弁、UACJ山一アルミ缶リサイクルが26年1月に量産を始め、Scope3で年12万トンのCO2削減効果を見込む。
飲料缶業界に対する第3の価格軸は、地金高をその場で吸収する形ではかからない。店頭価格に出るまでの時間を長く引き延ばす形で効く業種だ。製缶側はフォーミュラ価格制で機械的にパススルーし、飲料メーカー側では年契約と小売告知の慣行によって時間差が生じる。問題は、引き延ばした先に値上げを消費者が受け入れるかどうかだ。小売店頭で値上げが通らなければ、負荷は飲料メーカーの利益率と販売数量に戻り、長期的には缶材発注量の減少として製缶側にも及ぶ。製缶各社が2〜4月に行う夏需要期向けの在庫積み増し期間とホルムズ危機(2月末勃発)のタイミングが重なるリスクも残る。
電線、銅価格高騰で進むアルミ代替
アルミ電線の国内需要は25年度2.5万トンで、アルミ全消費の0.7%程度にとどまる。3業種で絶対量は最小だが、電力向けが1.8万トン(72%)を占め前年度比4.1%増、堅く伸びている分野だ(日本電線工業会、JCMA)。送配電網の架空送電線、太陽光発電所の集電線、データセンターの電力供給ケーブルなどに使われる。第3の価格軸は、銅高によるアルミ代替需要と重なり、電線では負荷の表れ方を複雑にしている。
銅価格の高騰下でアルミ代替が進み、アルミ高の負荷は需要拡大で部分的に相殺される。価格転嫁の面でも、自動車部品や飲料缶に比べて詰まりは少ない。電線業界は契約が長期で、建値スライド、先物ヘッジ、公共工事の単品スライド条項が価格変動を受け止める。JCMA「電線業界の取引適正化のために」(18年策定)では、契約金額確定時点で必要な銅を先物市場の先物または現物市場の買付けで手当てすることが標準とされている。SWCCは25年12月のスモールミーティングで、コスト上昇は販売価格転嫁と原価低減でカバーする方針を示した。
主要3社は過去最高益を更新する流れにある。古河電工は26年3月期通期経常利益見通しを520億円から650億円(25%増)に上方修正、住友電気工業は通期経常利益3810億円(過去最高更新)、純利益2710億円(前年比31%増)、フジクラは通期経常利益2040億円で4期連続最高益を見込む。SWCCも増収増益基調にある。収益を押し上げている共通要因は、北米AIデータセンター向け光ファイバ・ケーブルの需要拡大だ。
アルミ代替の進行を生んでいるのは、銅高と電力インフラ需要だ。25年度の銅電線需要は59.3万トン、57年ぶりの低水準にある。経済メディアによれば、太陽光発電所などで使う電線ケーブルの素材を銅からアルミに切り替える動きが出ている。アルミ価格は銅の3割ほどと割安で、銅高による銅線盗難の防止ニーズもアルミ採用の動機となっている。関西電力は16年から銅・アルミ切替を本格化し、調達費用を2〜3割引き下げた。Al-Mn0.5%材は17年9月時点で全国1678kmまで適用が広がっている。公共工事標準仕様書は24年改定で「アルミケーブル」規格を初めて記載した。住友電工は富山新工場でアルミ線材能力を1.5倍に拡張する。投資額145億円、月産4000トン、30年3月の全面稼働を見込む。
需要側の追加要因はデータセンターと送配電網の更新だ。国内データセンター市場は23年の2.7兆円から28年に5.0兆円へ拡大する見通しで(総務省)、消費電力は30年度に22年度比2倍以上(経産省)になる試算がある。AI需要の拡大が、北米向け光ファイバと国内電力ケーブルの双方を押し上げる。
電線業界は、第3の価格軸に対する耐性が3業種で最も高い。ただし、代替需要はアルミ高の負荷を消すわけではない。建値スライドや長期契約で価格変動を分散し、銅高を背景に需要面で一部相殺している。アルミ地金そのものが上がっている以上、負荷は時間をかけて建値や次回入札に表れる。
アルミ価格の上昇は、地金相場の外側に広がっている。自動車部品では在庫と資金繰りを、飲料缶では年契約と小売転嫁の時間差を、電線では銅高を背景にした代替需要を動かしている。同じ1トン当たり250〜300ドル超の物流側コストでも、業種ごとに表れる局面は違う。調達、物流、財務、販売が別々に対応する企業ほど、その差は読み違えやすくなる。
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