国際フランス議長下のG7貿易担当閣僚会合は6日、パリで2日間の協議を終え、共同声明を採択して閉幕した。声明は重要鉱物のサプライチェーン混乱と恣意的な輸出規制を伴う経済的威圧に重大な懸念を表明し、必要な場合に行動を取る用意を示した。声明はパラグラフ10で、レジリエンス基準、規格・基準ベースのアプローチ、透明性・トレーサビリティー・メカニズム、需要側・供給側措置としての多角化要件、収入安定化メカニズムとしての価格差補助、共同調達手段、貿易関連手段としての割当・価格下限を、重要鉱物供給網の政策手段として列挙した。中国を名指ししなかったが、25年以降のレアアース輸出管理強化を念頭に置いた内容と受け止められている。日本から出席した赤澤亮正経済産業相は会合後の囲み取材で、「輸出国の不当な貿易制限措置を抑制することで、今こそ多角的貿易体制を維持、強化していくことが重要だと主張した」と述べた。(編集長・赤澤裕介)
声明の論点は、物流業界の視点から見れば主に4分野に整理できる。(1)産業過剰生産能力と非市場慣行(NMPPs)への対応(2)重要鉱物を含むサプライチェーン強靱化(3)WTO多角的貿易体制の近代化(4)小口荷物・越境EC(電子商取引)の通関、製品安全、競争条件、環境負荷への対応──の4項目で、いずれも日本の貿易・物流実務に直結する内容となっている。6月15-17日のG7エヴィアン首脳会議では、これらの政策手段をどこまで制度として具体化できるかが焦点となる。
政策手段の具体化に新規性
経済的威圧と重要鉱物への対抗姿勢自体は、24年7月のG7レッジョ・カラブリア貿易大臣声明にもすでに盛り込まれていた。経済的依存の武器化を非難し、必要な場合に対抗行動を取る用意があるという趣旨の文言は既出だ。今回のパリ声明の新規性は、重要鉱物に関して価格下限、価格差補助、共同調達、透明性・トレーサビリティー・メカニズム、多角化要件、割当など、政策手段を具体的に並べた点にある。25年6月のカナナスキスG7首脳サミットで採択された重要鉱物行動計画(CMAP)と、カナダ主導で立ち上げられた重要鉱物生産同盟(CMPA)の議論を、さらに政策メニュー化した形となる。声明本文は政策手段について「実現可能性と制度設計を引き続き議論する」と位置づけており、導入決定ではなく検討継続の段階にある。
声明パラグラフ10で列挙された政策手段と、物流・貿易実務への影響は次の通り。
非市場的政策・慣行(NMPPs)については、持続的な市場歪曲、世界的な構造的過剰生産能力、有害な波及効果、増大する経済的依存への共有された懸念を再確認した。声明本文に対象産業名の明示列挙はないが、G7内では中国の過剰供給が問題視される分野を念頭に置いた議論と受け止められている。WTO改革については、26年3月にカメルーン・ヤウンデで開かれた第14回WTO閣僚会議(MC14)が実質的成果を出せなかった点を遺憾とし、複数国間(プルリ)イニシアティブの役割と、電子的送信への関税モラトリアム恒久化の重要性を再確認した。
小口荷物(low-value parcels)・越境ECが独立した論点として声明に組み込まれた点も特徴だ。声明本文は、小口荷物の急速な拡大が公平な競争条件、レジリエンス、税関リスク管理、製品安全、環境負荷で課題を生んでいるとし、G7「小口荷物作業部会」の評価とベストプラクティス共有を確認した。米国は25年5月に中国・香港発貨物、8月に全世界向けで800ドル少額免税(デミニミス)を停止済み。EUは150ユーロ以下免税の見直しを前倒しし、恒久制度までの暫定措置として、26年7月1日から低価格eコマース小包に品目タイプ単位で3ユーロの課金を導入する方針だ。英国も29年に135ポンド少額輸入免税撤廃へ向け協議を進めている。物流業界にとっては、越境B2C向けのIOR(輸入者)契約、DDP(関税込み配送)モデル、HS6桁ベースの商品マスター整備、IOSS・VAT処理と税務代理人活用、返品時の税還付処理、輸入者責任の明確化への対応が論点となる。重要鉱物側でも、荷主がティア2、ティア3までの原産地・加工地確認を求められるため、フォワーダーや通関業者にはHS分類、原産地証明、エンドユーザー確認、輸出管理、長期在庫拠点の設計を一体で支援する体制が求められる。
声明採択の裏では、米EU間の関税対立が影を落とした。米国がEU製自動車への関税引き上げを表明するなか、USTRのジェイミソン・グリア代表とEUのマロシュ・シェフチョビッチ通商・経済安保担当委員は、G7声明とは別にパリで個別協議した。中国を名指ししなかった一方、声明の「恣意的な輸出規制」「重要鉱物」「経済的依存の武器化」という表現は、中国のレアアース輸出管理を念頭に置いたものと受け止められている。
6月エヴィアン首脳会議への論点送り
声明はG7首脳会議に向けて貿易課題に関する議論を継続するとした。重要鉱物分野でのG7常設事務局(permanent secretariat)構想は、海外通信社の報道によると、IEAまたはOECD(いずれもパリ拠点)を拠点候補とする案が浮上しているが、決定事項ではなく議論段階にある。価格下限をめぐる議論は、26年1月12日にスコット・ベッセント米財務長官がワシントンで招集した重要鉱物サプライチェーン会合で、財務相・関係閣僚級の論点として一段と具体化した。同会合には、米国主催の下、G7各国・EUに加え、豪州、インド、メキシコ、韓国から財務相・関係閣僚級が参加し、日本からは片山さつき財務相が出席した。共同声明は出ていないが、ドイツのラース・クリングバイル副首相兼財務相は会合後、中国の市場支配や価格操作リスクに対抗し、中国外の生産者に最低価格を確保する仕組みが議題になったと記者団に説明した。
4月17日には世界銀行春会合期間中のワシントンで、G7重要鉱物アウトリーチ会合が開かれ、片山財務相、フランスのロラン・レスキュール財務相、世界銀行のアジェイ・バンガ総裁が共同議長を務めた。G7各国に加え、豪、印、ブラジル、コンゴ、ケニア、モロッコ、韓、サウジアラビア、南アフリカ、ザンビアの財務相級と、世銀、ADB、IDB、AfDB、EBRD、EIBの総裁級が参加。MDBs共同ステートメントが発出され、片山財務相はADB(アジア開発銀行)が3月に立ち上げた重要鉱物・製造業金融パートナーシップ・ファシリティ(CMM-FPF)への2000万ドル拠出を表明した。MDBを通じた産出国支援と供給網多様化の枠組みが具体化した形だ。
豪ライナス・レア・アースと双日・JOGMEC・JARE(Japan Australia Rare Earths)が3月10日に契約を改訂し、NdPr(ネオジム・プラセオジム)酸化物の年間5000トン確定購入と最大7200トンの供給枠で2038年まで延長した。ライナスは重希土類酸化物生産の75%を日本産業向けに確保し、JAREがライナスの重希土類生産の半分を購入する。1キロ110ドルの最低価格と、150ドル超部分の30%をJAREに配分する仕組みも導入したが、配分額には年1000万ドルの上限がある。同契約は、非中国系サプライヤーの投資採算を守るため、需要側が最低価格を受け入れる構造を持つ。この点で、G7が検討する価格下限や価格差補助の考え方に近い先行事例と見ることができる。
CMPAについては、25年10月31日のトロントG7エネルギー・環境相会合で、第1ラウンド26件・64億カナダドル規模の投資・パートナーシップ・対策が発表された。ヌーボー・モンド・グラファイトのマタウィニ鉱山案件には、カナダ政府、パナソニック、トラキシスとのオフテイク、日本政府の投資意向が含まれている。第2ラウンド案件では、日本企業によるオフテイクや共同投資の余地が焦点となる可能性がある。
楽観は禁物だ。25年6月のカナナスキスG7首脳サミットは中東情勢でトランプ大統領が早期帰国し、包括首脳宣言(コミュニケ)の採択を見送った経緯がある。エヴィアンも米EU関税対立や中東情勢次第で同様のリスクを抱える。
赤澤亮正経済産業相はパリ貿易相会合直前の5月4-5日、サウジアラビアとUAEを訪問した。高市早苗総理の親書を持参し、サウジではファイサル・ビン・ファルハーン外相、UAEではスルターン・アル・ジャーベル産業・先端技術相兼ADNOC(アブダビ国営石油会社)グループCEO兼日本担当特使と会談した。原油などの安定供給拡大、産油国共同備蓄の迅速な補充、日本国内の原油備蓄増加、アジア各国での原油備蓄拡大、原油生産・輸送能力の回復・拡大や代替ルート建設に関する連携を協議した。日本は中東情勢に伴う重要物資安定確保担当大臣を新設し、赤澤氏が兼務している。重要鉱物とエネルギーは別分野だが、いずれも日本の製造・物流基盤を支える戦略物資であり、エヴィアンに向けた日本の発信は供給網強靱化という共通軸に収れんしている。日本は、過去のレアアース供給途絶リスクを経験した当事者として、フランス議長国とカナダ主導のCMPAと連携しながら、エヴィアン首脳会議に向け実務面で存在感を示す余地がある。
焦点は、G7が価格下限や共同調達を政策メニューにとどめるのか、常設事務局、MDB支援、長期オフテイク契約、戦略備蓄、トレーサビリティーを組み合わせた実装に移せるのかにある。物流事業者にとっては、調達国の変更だけでなく、契約、通関、在庫、証明書類、輸入者責任の再設計が、6月以降に本格化する可能性が高い。
◆ この記事をより深く理解するために ◆
「日仏鉱物ロードマップ、カレマグ以外も共同投資へ」(4月1日)
日仏が合意した重要鉱物協力枠組み。6月エヴィアンG7行動計画への格上げが見込まれる。
「富士精工、中国輸出規制で切削工具の供給に影響」(4月14日)
対日デュアルユース規制が国内産業へ及ぼす具体的影響を示した事例。
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